世界陸上ロンドン2017バイオメカニカルレポート:Men's
先日、世界陸上ロンドン2017大会のバイオメカニカルレポートが公開されました。
今回のレポートは過去数回のレポートと比べても、熱のこもったレポートになっています。
バイオメカニカルレポートを通して、世界トップレベルの選手たちのパフォーマンスを"数字から"見ていきましょう!
以下のURL先から誰でもデータを見ることができます。
是非、手元にレポートを持った状態で今回は読んでみてください!
【INTRODUCTION】
男子棒高跳決勝
2017年8月8日(19:42~22:03)
気温:16℃~19℃
Sam Kendricks選手(USA)が5m95を跳んで優勝しました。世界記録保持者のRenaud Lavillenie選手(FRA)は5m89のシーズンベストで3位。また、4位のChangrui Xue選手(CHN)は5m82の中国新記録を樹立しました。
⇒夏の試合にしては、気温の低い試合となりました。また試合を通じてほぼ無風でしたね。東京オリンピックでは、30℃以上の環境下での決勝になることが予想されます。
【METHODS】
4か所から撮影を実施しました。撮影は助走開始から着地まで。
最も記録の良かった試技を分析の対象としました。そのため、記録なしとなった3選手は除外されています。
選手の重心は、De Leva's(1996)のモデルから算出しました。
⇒これから結果が提示されます。対象となっている試技は「その選手がクリアした最もいい記録の試技」という点がポイントです。会心の跳躍が出来ている選手とそうでない選手がいるという点に注意しましょう。対象となった試技は以下のリンクから見れます!
【RESULT】
Table3;決勝進出者の年齢の平均は24歳で、ここ最近の世界陸上と比べると若くなりました(ベルリン2009;28歳、テグ2011;26.5歳)。
⇒Mondo選手やChapelle選手、Marshall選手、Barber選手など若い世代の台頭が目立ちました。
Table4;記録の平均は5m75で、テグ2011(5m81)より6cm低く、ベルリン2009(5m75)とは同じでした。
Table5;ボックスから6~11mの区間で見てみると、助走速度の平均は、9.36m/sで、テグ2011(9.26m/s)より0.10m/s速かったです。
⇒対象区間において最も高い助走速度を記録したのは、Mondo選手(SWE)でした。
Table5;踏切位置の平均は4m09で、テグ2011(4m44)とベルリン2009(4.22)に比べ近くになっていました。
⇒この平均値は完全に、Chapelle選手とMondo選手の影響を大きく受けていますね・・・。ロンドン2017でのMondo選手の試技見ると、終始近いですね。
ここまではこれまでの世界陸上でも大会ごとに公表されてきた基本的なレポートです。
ここから、世界陸上ロンドン2017の本領発揮です!!
Figure5,6;踏切直前2歩のストライドについて
⇒最後の1歩が縮む選手、ほぼ同じ選手、伸びる選手(Lavilleie選手)が存在することがわかります。皆さんはどのタイプでしょうか?
Figure7;踏切直前2歩ごとの速度変化について
⇒棒高跳では踏切時にできるだけ速度を高めておくことが重要とされています。今回優勝したKendricks選手は最も高い速度(9.34m/s)で踏切を行いました。Kendricks選手は助走から踏切までの間で、踏切時に最高速度が出ている唯一の選手であることがわかります。
踏切準備から踏切までの技術力の高さが垣間見れます。
Figure8,9;踏切位置と上グリップ位置の関係と、グリップ幅、グリップ高について
⇒偶然にも?上位4選手の踏切位置と上グリップ位置の差は10cm以内で、非常に小さいことが示されました。踏切位置の近かったMondo選手。やはりめちゃくちゃ足入ってますね・・・。
また、最も高いグリップ位置を握っていたのはLisek選手で4m99。グリップ幅は選手によってまちまちですが、Kendricks選手とBarber選手は極端に狭いです。
Table6;踏切時の速度と、踏切角、ポール角について
⇒30°程度のポール角、20°以下の踏切角で踏切を行っています。最も高いグリップ位置を握っていたLisek選手は踏切角が24°で他の選手に比べると高めといった印象です。
ここからがまた面白いです・・・。
Table7;踏切(離地)時のリードレッグと上グリップの腕について
⇒個人差が大きな点は上グリップの肘の屈曲と胴体とリード足のなす角度です。胴体とリード足のなす角度を見ると、多くの選手が150°前後で踏み切る中で、Mondo選手(178°)はほとんどリード足が出ていない状態で踏み切っています。
Table8;踏切時の踏切脚と下グリップの腕について
⇒先ほどの項目に比べると個人差が少ないようです。以前記事で取り上げた下グリップの肘について、世界トップ選手は約45°曲がっていることが示されています。
Table9;各高さとポール保持時間について
Standing Height=踏切時の重心高
Hs=踏み切時の重心とポールを離す前の重心高の差
Hp=ポールを離してから最大重心高までの高さ
Hcc=バーと最大重心高の差
Hpc=バーと最大重心高時の骨盤位置の差
Time on Pole=踏切からポールを離すまでの時間
Time on poleをポール保持時間としています。もっといい訳を誰か考えてください・・・。
⇒多くの選手の踏切時の重心が1m30、そこからポールを離すまでに4m50上昇し 、ポールを離してさらに10~30cm上昇して、結果的に6m前後の重心高を獲得しています。(1m30+4m50+10~30cm=約6m00)
下位選手になるほどHpが小さいのは、まだベストな硬さのポールを使う前であったと考えられえます。
またポール保持時間についてですが、まず踏切から最大重心高到達までにかかる時間は記録に関わらずほぼ同程度の時間がかかります。
その中でもChapelle選手。ポール保持時間が極端に短い!!Barber選手の1/2の時間でポールを離しています!!その分、ポールを離した後に上昇している(Hp=0.65)のですが・・・、1人だけ個性的な跳躍をしていることが、数字から見て取れます。
Figure12;バーの高さと、獲得した各高さの関係について
クリアしたバー高を100%としています。
⇒先ほどの結果をより可視化したものですが、Chapelle選手やはり異次元・・・。
Figure13;バーと最大重心高時の骨盤位置関係について
青い点線がバーで、各ポイントが選手の骨盤位置です。骨盤の高さは5m50~5m90でした。
⇒バーより60~70cm手前でバーよりも30cmほど高い位置で最大重心高を迎えれば、バーをクリアすることができるとわかります。試合を見ていて、バーをクリアする直前には「跳べる!」とわかる人もいるかと思います。その時は、このバーと重心高の位置を感じているのかもしれません。
また、Mondo選手とWojciechowski選手の値だけが高いように感じますが、これは各選手がクリアした高さをゼロにしているためです。2選手は、あと20㎝は高いバーを越えられる可能性があったと考えられます。
【FURTHER KEY VARIABLES】
コーチとの対話を通してより選手が実践している技術を理解するために、メダリストを対象に2つの変数を示します。
Figure14;踏切前3歩の骨盤高の変化
助走の技術を見つけ出します。
Table10;踏切脚の脛角度の変化
踏切脚接地時、突込みの瞬間、離地時の脛角度から、踏切脚の動きを示します。
⇒解釈しづらい点もありますが、踏切前の骨盤高の変化はあまり大きくないですが、踏切の1歩で一気に骨盤高が高くなります。
また、脛の角度の変化を見ると、踏切離地と突込みはほぼ同時ということはわかりますね。
【COACH'S COMMENTARY】
⇒女子選手(Katerina Stefanidi選手)のコーチを務めるMitchell Krierコーチによる考察です。