福島処理水より中国核実験の被害はるかに深刻
中国、日本の水産物輸入禁止に踏み切る
中国税関当局が日本からの輸入海産物に対する全面的な放射線検査をこの7月上旬から始めたことがわかった。これによって日本から中国へ輸出する冷蔵の水産物は2週間程度、冷凍の水産物は1か月程度、手続きに時間がかかり、新鮮さが勝負の魚の中国への輸出は不可能になった。
東京電力福島第一原発で貯まり続ける処理水について、日本政府が海洋放出する方針であるのに対抗し、いまだ海洋放出も始まらず実質的に放射能被害など発生するはずもないこの段階で、中国政府が早くもこうした措置に踏み切ったのは、日本政府に対抗し、圧力をかけるための嫌がらせでしかない。
福島処理水の海洋放出について、IAEA国際原子力機関は「国際的な安全基準に整合的であり、ALPS処理水の海洋放出が人及び環境に与える放射線の影響は無視できるもの」と結論付けた。
<経済産業省ニュースリリース7月4日「IAEAが東京電力福島第一原発におけるALPS処理水の安全性レビューに関する包括報告書を公表しました」>
このIAEA最終報告書に対して、中国外交部の報道官は、「この報告書はレビューに参加した全ての専門家の意見が十分に反映されておらず、その結論は各専門家の一致した同意を得られていない」とした上で、「日本側は経済的コストを考えて、国際社会の懸念や反対を無視し、原発汚染水の海洋放出を頑なに決定し、太平洋を『下水道』と見なしている。報告書の内容がどうであろうとも、日本側が今後30年間にわたり100万トン以上の福島原発汚染水を太平洋に放出し続けることは変わらない。日本の浄化装置は長期間効果を維持できるのか?基準値を超過した放出の状況を、国際社会は直ちに把握できるのか?放射性核種は長期にわたり累積・濃縮されるが、これは海洋の生態環境、食品の安全、人々の健康にどのような影響を与えるのか?これらの問題のいずれについても、IAEA報告書は答えていない。」と主張している。
<在札幌中国総領事館7月14日プレスリリース「中国外交部が福島原発汚染水放出に関するIAEA包括報告書の発表についてコメント」>
中国のIAEA報告書に対する批判に根拠ない
この最終報告書の作成には中国の専門家も参加していたはずで、グロッシ事務局長も証言しているように、最終報告書についてIAEAの専門家チームの間で異論があったという報告は受けていないという。つまり、中国が主張する「全ての専門家の意見が十分に反映されていない」というのは、中国側の一方的な言い分に過ぎないのである。
さらに福島原発の排水を処理するALPS処理施設については、処理作業がどんなに長期間に渡るとしても、処理・放出過程のそれぞれの段階で、厳密な放射線測定を行い、放射線レベルが基準値以下の水しか、放出されないシステムを備えている。そのことはIAEAの2年間に渡る現場レビューでもお墨付きを得ており、将来的な安全性の担保はIAEA自身が現場に事務所を設置しモニター要員を常駐させるとしていることでも、今後、全ての過程での万全なチェックは十分信頼できるものだ。さらに東京電力も処理・放出過程の全てのプロセスで、放射線レベルや流量などすべての生のデータを24時間365日、ライブで公表するとしているので、処理プロセスをごまかし、データや数値を隠すことなど、不可能だ。
環境問題と民主主義は密接な関係がある
そもそも中国政府や韓国の野党は、日本の環境技術・安全技術を馬鹿にしているのかも知れないが、日本は国民の健康に直接影響を及ぼすような「汚染物質」の環境への放出を行うはずもなく、行えるはずもない。大気汚染や水質汚染を含め公害問題については、日本は多くの経験とそれを克服するための多くの技術を開発してきた上に、環境被害を防止するためのさまざまな法的整備、規則やルールづくりをどこの国より早く行ってきた。日本のそうした先進的な環境技術や法制度を、中国や韓国自身が学び、それによってどれだけ恩恵に浴してきたか、日本のODAや民間協力によってそうした環境技術が日本から中国・韓国に供与されてきたかを、中国・韓国の環境問題に携わる関係者がいちばん良く理解しているはずだ。
民主主義国家である日本で、国民の健康被害が発生するような事態を招いたら、それこそ行政訴訟が起され国家賠償が請求される。専制的強権政治である共産中国では、新疆ウイグル自治区での地上核実験による放射能汚染で多くの住民が深刻な健康被害を発生しても、そうした事態は決して公にされることはなく、補償もされない。いま中国沿岸部に林立する原発からは大量のトリチウムが放出されているが、中国政府は沿岸住民全員の健康影響調査を行い、その結果を公表したことがあるのだろうか。そのような調査が行われたという話は聞いたこともないし、たとえ沿岸住民に深刻な健康被害が出ていたとしても、そんな不都合な事実は公にされることはない。そこは、選挙という民意で代表が選ばれる民主主義国とは決定的に違うところだからだ。
核実験によるウイグル住民被害を否定する中国
新疆ウイグルでの核実験による住民の放射線被害については、イギリスBBCが1998年に放送したドキュメンタリー「死のシルクロード」(Death on the silk road)で現地を取材し、悲惨な被害の実態を映像で検証している。
新疆ウイグル自治区のタクラマカン砂漠では、ロプノール核実験場を中心に1964年から1996年まで32年間に合計46回の核実験が行われた。1970年代から「小児がんや奇形児の発生が目立つようになり、その多くが血液の癌、リンパ球癌だったり、先天性の発育障害や知的障害だと言われ、中国の他の地域と比べて癌の罹患率や障害をもつ子どもの発生の割合は異常なほど高い割合を示しているとされる。
BBCのドキュメンタリーでは、観光客を装ったイギリス人医師や観光ガイドを装ったウイグル出身の医師が協力して、患者が多発している現地の村を訪れ、障害をもつ子どもたちを実際に診察する様子や、がん患者が多発していることを証言する現地の医師の話やそれを証明する機密文書の存在などをスクープしている。
すでに25年も前に放送した番組で、当時、取材を受けた障害を持つ子や寝たきりの子どもたち、そしてその親たちは、番組放送後にはどうなっただろうか?
今の新疆ウイグルの政治状況、人権状況を考えると、外国のメディアの取材に協力し、証言したことが分かれば、無事に生きていることは考えられない。
放射線防護学が専門の高田純・札幌医科大学名誉教授によると、中国の30年余りにわたる地表核実験で19万人が急死し、被害は129万人に及んだと推定している。また世界ウイグル会議の発表では、直接被害だけ(後遺症は含まず)で約75万人だとし、中共政府は故意にウイグル人を実験台にして核実験を行い、その後の健康被害について何の処置も行わなかったと非難する。
こうした新疆ウイグルでの核実験による住民の放射能被害の事実を、中国政府は決して認めようとはせず、一貫して否定している。また、ロプノール核実験場近くにある楼蘭の遺跡は、NHKのシルクロード取材班が1980年当時、中国側と共同調査を行い、「楼蘭の美女」と呼ばれる女性のミイラを発見したことでも知られるが、いま楼蘭を含めてこの地域への外国人の立ち入りは禁止されている。
中国核実験の放射能被害は福島処理水の比ではない
中国による核実験では、新疆ウイグルの放射能被害だけではなく、地球の大気に大量の放射性物質をまき散らし、当時、遠く離れたイギリスでも中国による核実験の事実は大気中の放射能を測定することで確認できた。中国政府は、こうした隠しようもない事実も無視して、自分たちの手で発生させた深刻な放射能被害に関してさえ、その真実を公表しない。
その中国は、福島処理水の海洋放出について、日本は太平洋を「下水道」と見なしていると非難し、「中国側は改めて日本側に対して、原発汚染水の海洋放出計画を停止し、しっかりと科学的で安全かつ透明性ある方法で処分を行うよう促す。それでも独断専行した場合、必ずや日本側は全ての重大な結果を負うことになるだろう」(前掲。中国外交部コメントのプレスリリース)と言っているが、新疆ウイグルにおける放射能被害の実態を隠蔽する中国が、そんなことを口にしても、誰も信用しないし、中国政府が中国人民の健康を真剣に考えているなどとは誰も考えていないことは、いままでの中国政府自身の行動を見れば明らかだ。
つまり、日本の福島処理水についての対応を非難する前に、自分の胸に手を当て反省すべきことは数多くあり、自ら身を正さない限り、中国の言うことなど誰も聞く耳を持たないのである。