定義規定と講学上の概念との不一致
先日行われた「行政法研究フォーラム」で、報告者のお一人である濱西隆男氏(筑波学院大学経営情報学部教授)が、定義規定と講学上の概念との不一致という主旨のお話をなさっていたのが興味深かった。
元総務省の官僚として行政実務に携わっておられたからこそのコメントだと思った。
濱西氏をはじめとする合計11名の研究者は、4年間かけて共同研究を行って、その成果を『行政の実効性確保法制の整備に向けて―統一法典要綱案策定の試み』(民事法研究会 2023 年 3 月)にまとめられた。
濱西氏によると、「一般法の制定過程は、①一般法の立案の決定⇒②論点整理⇒③要綱案の作成とパブコメの実施⇒④要綱案の修正・決定とパブコメ結果の公表⇒⑤関係する個別法の調査と調整⇒⑥一般法の法案化作業 と関係する個別法の整備方針の策定・一括整備法の法案化作業⇒⑦一般法の法案と個別法の一括整備 法案の閣議決定・国会提出⇒⑧国会の審議・成立⇒⑨一般法と一括整備法の施行として整理できる。」(「資料1−1」2頁)そうだ。
このうち、「⑤関係する個別法の調査と調整」は、個別法の膨大さ故に、各省庁の協力なくしてはできないことなのだそうだ。
専門家である11名の共同研究者ですら⑤を行うのは無理なのかと驚いた。自治体が条例案を作る場合にも、個別法たる例規の調査を行うが、自治体の例規の数はたかが知れているので、さほど困難ではないけれども、国ともなると、そうは問屋が卸さないわけだ。
そして、膨大な個別法がうまく収まるように調整して一般法の定義規定を作ろうとすると、講学上の概念と必ずしも一致しないことがあるそうだ。
なるほど。例えば、行政手続法の行政指導の定義規定と講学上の行政指導との不一致も、ひょっとしたらこれが原因の一つかも知れないと思った。