美術と魔術で読み解く『君たちはどう生きるか』
現代美術家・村上隆さんやサブカル考察勢が既に「宮﨑駿の人生と現代社会について」は評論しているし、その補助線で自分で解読してもいいけれど、何となく私なら「アート」として読んだり、ちらちらと聴こえる要素から「魔術的」なものを感じるのでその観点でのメモとする。
著名文化人が絶賛したり、サブカル考察勢が持論を繰り広げる本作は、一般的には「わからない」と言う声も多く、なんとなく義務感で観たのだが「割と基本的でベタ」で肩透かしを食ったというのが個人的所感だ。
美術と神秘思想や魔術や各種神話の基礎を勉強していると、「タロット」の様に絵と基礎知識で読みやすいというか。
(勿論、作者の考えや反映や社会的要素など各人の受け取り方は違ってOK)
芸術は無意識の領域を使うので、どうしても共通のイメージや象徴があり、それを意識変容の術である「魔術」に重ねるのは安易かもしれないが、作品考察というより鑑賞メモという事で記す。
(※要素やネタバレあり、魔術的象徴や鍵と見たものは「」をつける、象徴の意味解説までしないが、象徴をポイントに見ていくだけで読めるというか、メモ)
物質界と想像界(現実世界とあの世)の話。
黄泉の国へ行く話は多々あるが、義母・夏子を主人公・マヒトが取り戻しに、「塔」の地下から異界へ行き、案内人的・青サギと共に海やら森やらインコの国やらダンテの「神曲」みたいに巡り、神的存在(後述)と邂逅し、老賢人と話し、義母と(母や召使)共に現実界に帰る。
(キャラクターが宮﨑駿さんだの、母についてだの、青サギが手塚治虫キャラだのは他の考察勢に譲る)
空襲の「炎」、自然豊かな田舎に疎開、父の新しい妻・義母・実母の妹・夏子が「矢」の柄の着物で迎えに来る。(義母への慕情に近いもの)
日本家屋の屋敷、青サギが飛んでくる、7人の召使いの老婆、洋館の住まいに移動し眠ると「炎」の中の母の夢。(火の神、出産、4大元素等、後に出てくる高橋留美子さんの炎トリッパー的時空のアレも)
近くに廃屋を見つけ、大叔父の塔と聞く。若い大叔父の写真、「ニコラ・テスラ」に似ている。(考察勢はアインシュタインと言っていたが、ニコラ・テスラなら後の電気イメージ(テスラコイルや電流の研究)も納得がいく)
学校にダットサン(監督話)で行き、いじめられ、吐口やリスカの様に自傷。(内向的繊細ボンボン主人公)
しゃべる青サギが塔へ誘いに来る。
義母の部屋におそらく「城」の絵、主人公の寝巻きは「十字」柄。
屋敷の門柱に「龍」が彫られている。
「弓矢」を作る。
本『君たちはどう生きるか』が出てくる。
「塔」へ行く。(ブルータスの石膏像らしきものがあり美術勉強した人間は吹きそうになる)
塔の床が「太陽」、天井が「月」のモチーフ。
青サギと、召使いの「黄色い車輪」柄の着物の老婆と共に「地下・あの世・異界」へ。
広がる海に船の群れ、雲の描き方が油画(西洋)
「ベックリンの死の島」(ベックリンは死をテーマにした作品を沢山残した画家で、死神と共にいる自画像や伝染病「ペスト」、本作スタート時にはないがコロナ禍を経て、歴史は繰り返す、死の話とわかりやすい)。
「金の門」(私を学ぶ者は死すのメッセージ、悪魔と契約すると浮世の成功の代償に魂を取られるという説があるのでそれを連想)。
ペリカン達に押し込まれるが、船の人が助けてくれる。(船の人が「黄色い車輪」柄の着物なので、異界に巻き込まれた召使いの老婆のこちらの世界での存在体かなと思っていたら、後にそのままの答えだった、ひねりなし)
船で魚を獲り(キリスト教的、そのまんま、ひねりなし)
ワラワラというコダマみたいな「魂」体に食べさせる。
(ちなみに私も死と再生の際に、丸いキャッキャした膨らみが魂一つ一つであり、全一なビジョンを見た事あるので、まんま神秘思想の基本すぎ、ひねりなし)
召使いの老婆たちの人形(こちらの世界では人形、現実界の肉体も人形、わかりやすい、ひねりなし)。
と思っていたら、本当にワラワラ達は現実界で「生まれる」のだと「空に登っていく」。(さっき思ったまんま、ひねりなし)
それをペリカン達が食う。(悪魔信仰の知識あるとわかりやすい)
「火」の力を持った女「ヒミ」が助けに来る。(火の女だから母かな、と思ったら、後でそのまんまな事自分で告白する、ひねりなし)
「火を吹くドラゴン(龍)」のタペストリー。(現実界の家にも「龍」の彫られた柱、美術的にも魔術的にも、「相似」の象徴)
現実界では父が息子と妻を探しに塔へ。
老婆から「隕石」と「塔」の話、前妻(主人公の母)が一年神隠しに遭って帰ってきた話を聴く(炎トリッパーの時差の話そのまんま、高橋留美子さんも神秘の「印」を沢山漫画内に描いてたし「知恵」を知っていたのだろう、あの世とこの世は時空が色々)。
隕石:宇宙から来た知恵の素(それを神として祀る塔をそこに立てる、「古代宇宙士飛行説」の様に、神とされる意志持つ存在は宇宙人的(天から来るもの)、進んだ文明の知恵や力を持つ、世界の根源のソースとは別、都市伝説や陰謀論的になるが、お金持ちや天才の一部が秘密結社に所属し、悪魔崇拝的に神とされる宇宙人から知恵や力を授かるという説。モーツァルトからアメリカの有名ミュージシャン達の片目サインや大企業創始者達等、2001年宇宙の旅のモノリスや、各種石像)
塔:魔術施設、宗教施設、そのまんまの描写
(色々な絵画や映画やアニメーション観ると魔術施設のモデルや象徴が沢山、石像が喋るシーンとか)塔に誘う男、実際に魔術(秘密結社)は見込みのある者を誘うという話がある、某医師や某漫画家や…)
異界の主人公達に話は切り替わり、森を行く。インコが出てくる。
ヒミの家でジャムパン食べる。(母の味、とかそのまんまな事言う、現実界もそのまんまだからひねりなし)
沢山の「扉」と「数字」(数秘術的に見ても色々)。
醜悪なインコの街。(資本主義の勝者や権力者は秘密結社の秘儀受けた的な…)
醜悪な鳥達:悪魔(神)に魂売って繁栄した者たちは“人間ではなくなる”、大きな鳥が赤子を食べるのは生贄(ワラワラは赤子の魂)
(ビートルズのあの有名なジャケット「ブッチャー・カバー」を含む都市伝説、生贄と罪の共有による守秘と諸々)
義母・夏子が、「石」の「結界」内にいる。紙垂。
(血筋の者は巫女的役割で“呼ばれ”代理の様なものや半分神の様な役割のものを、という話はある)
「光と電流の廊下」(村上隆さんも言っていたけど、コレ美術やる人間なら、この状態はイデア・アイデアを現実界で表現する為に画家がイメージを表現で結晶化するシンドくてやりがいある過程そのものだ、私もこの感じをくぐり抜けて絵を描いている)。
更にキリコの絵の様な「門」(次の段階、相対的な異界、その先の宇宙)。
インコ達に喰われそうになるが青サギと逃げる。(悪魔に魂売って資本主義に食われそうになるのを避けたか)
インコのパレードに、ヒミが「生贄」として運ばれている。「DOCH」のプラカード。中央に「目」の様な丸のある「十字」的な象徴とステンドグラス(教会、美術やタロットもまんまステンドグラスは教会、ひねりなし)
光、キリコの絵画的「門」、
「花園」、菖蒲、桜、蓮と、楽園イメージなのに“日本的”(魔術的ながら、日本人の魂の生まれ変わる場所か)“時の回廊”(そのまんま、あの世とこの世の構造、ひねりなし)。
大叔父が円柱やら「幾何学」の積み木。
幾何形態の積み木:カバラで言う想像界、イデアの世界から現実界に表現を通して実現する芸術家は一種の魔術師だが、その際の料理法(魔法、知恵)にはいくつかパターンがあって、魔術では幾何学も良く使うので、知恵伝授の象徴
大叔父:老賢人、知恵の継承、タロットで言う「隠者・9」(アインシュタインという説も聞くが、宇宙からの知恵ならニコラ・テスラの方が近い気もする、知恵の隠者、次の段階へ行く数秘の9)
“美しい(自分達の意志を継げ、を綺麗事で隠して言い含める感じ)世界を作れ”のメッセージ、しかし主人公は「継承を拒む」(現実界での成功の等価交換に“悪魔(的、神的存在)に魂売れ”という取引を断り、“人間の心”を持ったまま作品を作り続けた作者、そのまんますぎ、ひねりなし)
モーゼの様に海が割れ、皆で「扉」をくぐり、「現実界」へ。
「塔の崩壊」(魔術施設、宗教施設、バベルの塔的なわかりやすさも、悪魔の知恵は滅びる)。
“忘れろ”のセリフ(生死、あちらとこちら、彼岸と此岸、想像界と物質界、行き来するときは基本的に(前世や全能の)記憶を忘れて、神の遊びの様に学んだり経験する、精神世界のベタなそのまんまなセリフ、ひねりなし)
戦争が終わり、東京へ新しい家族「弟」と帰る。
ED「地球儀」(カバラの生命の木(セフィロト、神や想像界から物質界「地球」への旅、そのまんま、ひねりなし)
青一色なのは、「デレク・ジャーマンのブルー」(20世紀美術は、エイズの死、が一つの文脈だから、まんま死のブルーはひねりなし)
基礎知識無い子供がみたら、エンターテイメント的にそこまで面白く無いだろうし、考察勢が捻って考えるほどではなく、ベッタベタのベタ、宮﨑駿監督は最後の作品として、ド基本的なシンプルな表現をしたんだな、
映画館を出て「現実界」に戻った私を迎えたのは、渋谷のデジタルサイネージや祀り的世界、映画より現実界の方がよっぽど綺麗で異界的、と言う感想。
Inage 夜の魚