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武蔵野台地の湧き水復活を考える

【武蔵野台地の川探訪】不老川

2023.07.27 02:22

渇水期の不老川

不老川概要

入間市博物館屋外展示物より

 不老川は東京都瑞穂町二本木のあたりから、埼玉県川越市砂付近で新河岸川に合流する、延長17.98km、流域面積 56.55km²の河川です。左岸は金子台、右岸は狭山丘陵があり、大きな河岸段丘に並行して流れていますがこれも多摩川が作った地形であると考えられています。

 不老川は武蔵野台地の中でも特に武蔵野台地の川らしい特徴をいくつも持っている河川です。

 まず不老川という名前、現在では音読みで「ふろうがわ」と読みますが元々は「としとらずがわ」と呼ばれていました。これは渇水期に中流から下流で水が枯れてしまう現象があるからで、元は扇状地である武蔵野台地の中腹を流れる川のいくつか(砂川堀、残堀川、空堀川など)に共通している特徴です。

 もう一つは川の水源。不老川に流入する水は主に、①多摩川の伏流水、②狭山丘陵の沢、③金子台の湧水に分けられます。これも台地の中に狭山丘陵という島状に残った丘陵がある武蔵野台地ならではで、多摩川の伏流水がここで出てくるのは地下で狭山丘陵にぶつかって湧出していると言われています。実際不老川の起点は現在残堀川の水源となっている狭山ヶ池にも近く、狭山ヶ池と不老川の起点は同じような理由で湧出した湧水であると思われます。

 さあ、そんな不老川を今回は上流から探訪します!


プロローグ まずは河岸段丘を感じよう

  不老川の水源部は入間市博物館から見下ろすことができます。この博物館は武蔵野台地の地形についての解説も詳しく一見の価値ありですが、この風景も一望の価値ありです。

 入間市博物館があるのは金子台の上、奥に見える緑の塊が狭山丘陵。不老川はこのはざまを流れているのです。

①源流1 多摩川の伏流水

 不老川を明確に辿れるのは瑞穂町の二本木、国道16号線の南二本木交差点からです。交差点の南側に暗渠水路を確認でき、加瀬のレンタルボックスの裏手で開渠になっています。その後、農地の中を再び暗渠となって流れ、昭和シェルの裏手で再び開渠になって流下します。

 昭和シェルの裏手の時点では結構な流量になっており、暗渠区間で湧水の流入があると思われます。このあたりは狭山丘陵の上端部に近く、中身は扇状地である武蔵野台地の地下の伏流水が湧き出しやすいスポットなのだと思われます。実際湧水の豊富な狭山ヶ池までは直線距離で1400mほどの位置関係です。なお、南二本木の北側にも水路のようなものがありますが流量はほとんどなく、排水路だと思われます。

 不老川はここから北東方向へ、宅地と茶畑の混ざる風景の中を流れます。

南二本木交差点北の水路。排水路だと思われます。

南二本木交差点の暗渠

加瀬のレンタルボックス裏の水路。水量は少ないです。

再び暗渠となり、昭和シェル裏で再び開渠になるところ。
結構な水量があります。

あっというまにそれなりに流量のある川になります。

②複数の調整池

 不老川は中流に西武池袋線と新宿線の市街地が広がるため、上流部に調整池がいくつかあります。その最大のものが大森調整池で、訪問時はさらに拡張する工事が行われていました。

 また、その上流2kmほどのところにも元狭山雨水調整池があります。

 元狭山雨水調整池はコンクリート護岸が目立ちますが、大森調整池は遠目にはいい湿地帯に見えました。

入間市宮寺付近の不老川

元狭山調整池

大森調整池

大森調整池の拡張工事の様子

③源流2 狭山丘陵の沢

  不老川上流のもう一つの重要な水源が狭山丘陵です。狭山丘陵からは複数の川が流れ出ていますが、不老川流域に該当するのはその北西部の沢、だいたい狭山神社から粕谷八幡宮付近のあたりまでです。それより南は残堀川、東は砂川堀に流入します。

 不老川水系の狭山丘陵の川のほとんどは西久保湿地の沢である禊川に合流した上で不老川に注いでいます。ここでは詳細は追いませんが「さいたま緑の森博物館」のはくぶつかんだよりにまとまっているのでご紹介します。

禊川の支流、庄名川の水源にあたる北狭山谷

西久保湿地の沢と下流の谷戸

さいたま緑の森博物館の水鳥の池の流出口

禊川(左)と庄名川(右)の合流点

南矢萩運動場付近の禊川

③上流部

 狭山丘陵の沢の水を合わせた禊川は3本の川に分流して不老川本流に注ぎます。まず分流の一つ谷川が入間市上藤沢の浅間山通りの橋梁付近で合流、次に分岐した上林川はその役2km下流の下藤沢で合流しているようですが、林川は途中で暗渠になっており合流点は不明慮でした。

 この合流点から下流は特にまとまった水源や湧水池はなく、流量にあまり変化がないまま西武池袋線、新宿線付近の市街地の中へ入っていきます。

 池袋線と新宿線の間には航空自衛隊入間基地に隣接します。

谷川(祓川、左)と不老川(右)の合流点
秡川の流路に不老川が落ちる形になっています

禊川分流の一つ、上林川と不老川の合流点

下藤沢の大橋から見た不老川

入曽多目的広場 調整池になっています

土堤防の向こうは航空自衛隊入間基地です

入間基地付近からの出口 右に基地からの排水路の出口が見えます

西武新宿線の橋梁

④中流部

 西武新宿線の橋をわたると、コンクリート護岸と土羽や一部蛇篭の古い護岸と、拡幅された新しい護岸が混在する区間に入ります。合流河川も湧水もなく、水量は徐々に減っているようです。

 このあたりには狭山市北入曽の「七曲の井」、狭山市堀兼の堀兼神社境内にある「堀兼之井」という二つの有名な「まいまいず井戸」が付近にあります。まいまいずの井戸とは、地下水脈が低い武蔵野台地において、まず螺旋状に土を掘り下げて火山灰層・砂礫層から粘土層に到達し、そこから通常の垂直に掘るという構造の井戸を言います。七曲の井、堀兼之井とも鎌倉街道に近く、古代から江戸時代まで利用されていました。

 河道のすぐ近くにこの井戸があるということは、この付近の地下水脈は相当水位が低いということでしょう。

入曽付近の不老川

七曲の井

七曲井の対岸に位置する入間野神社
元々は国井神社という神社でしたが、明治期の合祀により入間野神社となりました

入曽付近の改修済区間
掘り下げというより歩道部に土を盛っているようです

入曽付近の古い河道 おそらく近いうちに改修されると思われます

改修済区間の一部には河道に近づけるところがあります
水量は明らかに減ってきています

堀兼之井と堀兼神社 不老川はこの付近でも渇水期は枯れるようで、
街道を行く人の貴重な水汲み場所だったようです


⑤下流部

 不老川の下流部は金子台側から支流がいくつか流入します。

 まず狭山市中新田で合流するはけ下堀。これは金子台の沢ではなく、金子台の崖線下の湧水を集めて流入する1500m程度の小河川で、草刈街道の堀兼下の交差点付近までは暗渠を辿れますが、そこからは道路の排水路なのか水路なのか曖昧になります。

 次に川越市中台元町で合流する今福川。これもはけ下堀と同様、金子台の崖線下の水路で、明見院付近までの約2kmさかのぼれます。

 そして川越市岸町3丁目で合流する久保川。この川は金子台に谷を刻んで流れる8kmほどの河川で、西武新宿線の狭山市駅付近まで開渠で残っています。久保川については全域探訪したので別ページで詳しく紹介します。

 なお、これだけの支流が流入していますが不老川の水量は減り続け、冬季には「としとらず」の由来である年をまたがない川、干上がった不老川を見ることができます。

狭山市中新田付近の不老川 河道に降りられる階段が設置されています

はけ下堀
開渠区間は茶つみ通りまでの700mで、そこから上流は通りの排水路と同化します

今福川(右)の合流点

久保川(右)の合流点 久保川については別途紹介します

川越市岸町2丁目の新河岸川

渇水期の浅山橋から見た不老川
これが「としとらず」の由来です

⑥新河岸川との合流点

 不老川は川越市扇海岸付近で新河岸川に合流します。Googleの航空写真は冬季のもので、不老川の水が枯れていますが、この時は夏季だったので、合流点まで水が続いていました。

 新河岸川もまだ小さく、中河川どうしの合流という雰囲気です。

 以上が不老川の探訪レポートです!

 冒頭に書いた通り、武蔵野台地の川の特徴が多く現れる河川で探索のしがいがありました!