みかんで繋がる関係性 みかん農家が作った“わくわく”する交流の仕組み
日本有数のみかんの産地、湯浅町田地区。地元の人たちが「田村」と呼ぶこの集落で、みかんを通じた新たな交流が生まれているのをご存知でしょうか。
交流の中心となっているのは、「紀家(きち)わくわく」と名付けられた築100年近い古民家です。これまで延べ150人以上の大学生が全国から訪れており、なかには年に何回も滞在する学生もいるそう。
人口1000人ほどの田村に、なぜこのような交流が生まれているのでしょう。その背景には、若いみかん農家たちの熱い思いがありました。
〝田村型ワーキングホリデー〟
「紀家わくわく」を運営しているのは、江戸時代から続く田村のみかん農家で育った井上さん。井上さんは大学卒業後、田辺市にある農業交流施設「秋津野ガルテン」の研修生として、ワーキングホリデーのコーディネートなどを行っていました。
そこで農業関係の繋がりを広げていくなかで、みかん好きの大学生が集まるサークル「東大みかん愛好会」と知り合います。
愛好会のメンバーから「田村に行ってみたい」と言われた井上さんは、地域内で使わせてもらえる空き家を再利用し、ワーキングホリデーという形で彼らを受け入れることを思いつきました。
学生たちに農作業を手伝ってもらう代わりに、期間中の滞在場所として空き家を利用しようと考えたのです。
都市と田村を繋ぐ場所
受け入れにあたって、井上さんは地元の仲間と空き家を掃除しました。そしてその日の夜、お酒を飲みながら「ここをどういう場所にするか」をみんなで話し合います。
ワーキングホリデーで来る学生がただ単に寝泊りする場所ではなく、都市と田村を繋ぐような場所。
地元の若者が集まり、学生との交流が生まれる場所。何度も来たくなるような「地域のファン」が増える場所。
小さい頃に憧れた秘密基地のような、“わくわく”するような出会いがある場所。
そうしてつけた名前が「紀家わくわく」でした。
交流は連鎖する
そして、「東大みかん愛好会」のメンバー3人がワーキングホリデーで田村にやってきます。昼間は大自然の中のみかん畑で農作業を手伝い、夜は地元の若者と食卓を囲んで交流する。
大学に戻った彼らは、愛好会の中で自分たちの体験を紹介しました。それからすぐ、愛好会の他のメンバーが田村にやってきたそうです。都会で暮らす大学生にとって、ここでの出来事全てが新鮮なものだったんでしょう。
学生たちはSNSでワーキングホリデーの様子を紹介し、今度はそれを見て興味を持った別の学生が田村にやってくる。自然豊かな田村のまちと、魅力ある若者たちの存在は全国に広まり、これまで「紀家わくわく」を訪れた学生は150人を超えるそうです。
地域のファンを作りたい
井上さんは「紀家わくわく」の名前に込めた思いの通り、大学生と地域住民との交流を一番大事にしています。
交流イベントを定期的に開催し、誰もが気軽に立ち寄れるようにしています。今では田村の人々との交流を目的に、農業に関心がなかった学生も来てくれるようになりました。
移住や定住はハードルが高くても、その地域のファンになり、地域の人と交流するためにそこを訪れる。現代の若者は、こうした新しい地域との関わり方を求めています。
井上さんが作った交流の仕組みは、これからどんどん広がっていくでしょう。
田村でのワーキングホリデーの様子は、井上さんのブログ「奇跡と呼ばれたこの村で」で随時紹介されています。