【事後レポート②】 さめたく塾「テクノロジーがもたらすツーリズムの未来」
2018年7月25日(水)さめたく塾第2弾 旅人のための観光学入門を 「テクノロジーが及ぼす観光の未来」をテーマに開催しました。さめたく塾は、観光(Tourism)に関わる様々な問いを研究者や専門家を招き、参加者と共に学ぶ知的探究の講座です。隔月に1回、大人のための学び直しの場、30名限定対話型講座、新しい交流機会、入会不要の出入り自由をコンセプトにしています。
今回のテーマは「テクノロジーがもたらす観光の未来」として、この話題にぴったりのANAデジタル・デザイン・ラボの津田さんからANAアバター、シェアリングエコノミーのイノベーションの取組紹介、VRなど新技術のツーリズムへの普及を頑張ってる元後輩の河北君にも参戦してもらい、参加者と対話しながらのツーリズムの本質に迫る刺激的で楽しい時間でした!
いくつか感想を。まず参加者の大部分が観光産業以外の方々で、やはりというかこの領域こそ新規参入や異業種協業の可能性が高いと実感しました。
「航空を使う6%でなく使っていない94%の人々へ目を向けることで、旅行をすることができない人の夢をかなえることができたり、テクノロジーが新たな需要創造と社会課題の解決とを為し得る可能性がある」との津田さんのお話が最も印象的でした。遠隔地から自分の分身であるアバターと自分自身の視覚・聴覚・触覚をつなげ、障害を持った人、高齢者、入院患者、金銭的に旅行できない人など旅行弱者にとっての旅行疑似体験だとすれば、新たなツーリズムの形態が誕生します。こうした社会は変えられると感じさせてくれる取組みが、社会実装され、ビジネスとして持続可能になるのは、それほど遠い未来ではないかもしれません。たくさんの壁はあると思いますが、その挑戦を応援したいと思いました。
また河北さんから、「旅行者がイメージしたものをインスタグラムに投稿するだけで終わる旅行ではなく、その対象となる観光地の歴史や背景をテクノロジーを通じて知覚化させることでより体験価値を高めることができるのではないか」と、テクノロジーそのものが脅威ではなく、その特性を最大限に生かす利用方法や利用する場面など理解することの大切さの提起は、なるほどと思いました。
お二人のお話を伺いながら、一方でテクノロジーの限界も議論になりました。五感のどこまでをテクノロジーが獲得できるのか、身体的移動すること自体の意義、五感によるリアルな体験価値の重要性、テクノロジーの再現性とリアルな旅行の想定外の出会い(セレンディピティ)の対比など、参加者からも多くの意見を頂きました。
私自身は、テクノロジーはツーリズムにとって代替財ではなく、補完財であると考えています。新しいテクノロジーによってこれまで旅行とは無縁だった人々が旅行にアクセスできたり、疑似体験によって見えないものを見えるようにすることでリアルな旅行に新たな体験価値をもたらし、市場拡大に寄与すると考えています。但し、そのためにはいくつかの条件があると思います。ひとつは、既存の旅行者だけを対象としてゼロサムゲームに終わらせないこと。もうひとつは、旅行者が「行った気になってしまわない」ような疑似体験とリアルな原体験の使い分けをするリテラシーを持てるようなマーケティングを行うことです。リアルな旅行の中でテクノロジーを活用して、今までにない商品開発をより進化させることです。それができなければ、テクノロジーによる疑似体験がリアルなツーリズムを代替する可能性がないとも言えません。デジタルとアナログ・リアルとバーチャルを融合させ、新しいツーリズムの再定義がなされる可能性への挑戦を産業界の皆さんには期待したいところです。
元来、観光(Tourism)は歴史と共にその定義が変化しています。修行・苦役であった旅が、産業革命によって大衆化・楽しみ・喜びのための旅に変わってきたように、ツーリズムはこれまでもテクノロジーの影響を受けてその形を変えてきました。しかし、テクノロジーは進化しても、人間そのものが変わることはありません。だとすれば、新しいテクノロジーによって新しい旅のあり方が生まれ、これらをいかにビジネスにつなげていくのかはもちろん重要なことではありますが、そのためにはツーリズムの本質への理解、すなわち人は旅に何を求めているのか、なぜ旅をしようと思うのか、旅での感動とは何かについて考えていくことは意義のあることだと思います。
そうした文脈のもとで、次回9/14(金)は観光者(Tourist)の動機や行動の背景や要因を明らかにする観光心理学について学んでいきたいと思います。ぜひ次回もお楽しみに!!
★【9/14(金)19:30】旅人のための観光学入門講座 Vol.3 観光心理学から若者の海外旅行を読み解く「なぜ人は旅をするのか」
(以上)