診 療
診 療
やっとの思いでWebでの診療予約が取れた日に、レナさんとコレットさんは病院へ行って診察をしてもらうことになった。
ハッカーによる診断の不安定さから、多くの人々が検査結果を確かめるために病院に殺到していた。普段は閑散といている病院の駐車場は多くのエアカーでごった返していた。
ふたりが待合室で診療待ちをしているとき、隣の患者さんに聞いたところによると、ここ数日どこの病院もこんな状態だと話していた。当然ながら来院者は、普段からヘルスポッドの利用者ばかりなので高齢者が大半だ。この混雑ぶりは当分続くとみられていた。
そんな中、政府機関が病院の混雑を緩和するために取った秘策が・・・
なんと、院内に臨時のカフェを設置したことだ。多くの高齢者たちのモーニングの需要は盛況だった。診察日ではないのに、まるでご近所さんのカフェへ通う常連客のように毎日訪れる高齢者もいた。
そしてさらに・・・
演芸やお笑いライブ、3D映画の試写会を呼んで、興行収益に便乗しようとするプロモーターまで現れる始末であった。さしずめ大手医療機関内はイベント盛りだくさんのテーマパーク化していた。
そんなこんなで、あまりにも多くの患者が押し寄せてきた院内スタッフは疲弊の極限に達していた。
ある看護師は患者に対して・・・
「ウイルスに感染したくなかったら、自宅でおとなしく過ごしていたほうが安全ですよ!」と皮肉る場面は日常茶飯事となっていた。

そうこうしていると、やっとコレットさんの診療の順番がやってきた。診察室に入ると看護師が椅子に座るよう促した。
でも、医師はいない。
「先生はいないの?」
コレットさんは看護師に尋ねた。コレットさんは若かりし頃に数回病院で診察を受けたことがあったが、その時はちゃんと医者が机の前にいて、患者に対当していた。
「それは昔のことですよ。今はあなたが座っている椅子が、自動であなたの体を診察していますよ。精査がすむまでしばらくお待ちください」
2~3分もすると、結果が出た。
看護師が持っていた携帯端末を見て、結果を報告してくれた。
「あなたは肝がんが見つかりました。お酒の飲み過ぎじゃないですか?初期のガンですのでお薬を処方しておきます。お薬は自宅で受け取ってくださいね」
「なんということだ!ヘルスポッドめ、私を誤診するとは・・・」
コレットさんはブツブツつぶやきながら診察室から出てきた。
次にレナさんが入れ替わりに診察室へ入っていった。
数分後に出てきたレナさんの顔が晴れやかに見えた。
「どうだった?」
「私ガンじゃなかったよ、やっぱり誤診だった!」