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日々の嫉み

妄想劇場 37

2018.07.27 11:08

(こちらは完全に妄想の物語です。

実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)






CDTV 1







車の中で暖かい手がわたしの手を包み込んでくれた。

今この場にドラえもんがいて、1回だけどこでもドアで世界中のどこへでも連れてってあげるよ?って言われたとしても。わたしはここから動きません。って胸を張って言えるくらい幸せな年越し。

星野さんはどこでもドアがあったらどこへ行きたいだろうか…


時計が新しい1年の始まりを告げたと同時に大都会がお祭り騒ぎになる。これでもかってほどの色の洪水。

走る車の中でもそれが見れる。

正直東京に住んでいながらこんなことに遭遇したことはない。年末年始なんかも結局はただの祝日ってだけで。実家に帰っていようとこっちで過ごしていようと。あまり代わり映えのないいつもの毎日。

ただカレンダーが振り出しに戻るだけで。

窓の外を流れ溢れそうな光は石田さんの運転する車を照らしだしそのまま時の彼方へ連れてってくれればいいのに。


そんな柄にもなくロマンチックな事を考えているうちに次の現場に到着してしまった。

この仕事が終わったら…しばらく星野さんとは会えないんだよなぁ…


半年前に初めて会ってからそう何回も回数を重ねた訳では無いのに。この1週間で会う回数が多かった分、会えないのがなんだか寂しく感じてしまう。

いつもの日常に戻るだけなのに。

このまま終わらなければいいのになぁ…

それは流石に星野さんに気の毒か。


車がまた地下の駐車場に入る。

そろそろ…手を離さなきゃ…と星野さんのコートから自分の手を抜こうとすると。

まだダメ。と言わんばかりに強く握られた。



「星野さん。そろそろ着きますよ?」


「…はーい。」


「嫌そうですねぇ…(笑)」


「そんなことないよ?ふははっ。」



笑いながら。名残惜しいのかもう一度彼の親指がわたしの手の甲をなぞり、すっと離された。

そうよ。ちゃんとお仕事しなきゃ。

離された手ともう一方の手を自分の顔にあてる。

ちょっと勢いを付けてパンっと叩く。



「かおるさん?」


あ。気合いを。入れてみました。


「ふははっ。入りましたか?」


バッチリです。しましょうか?


「手形付けられんのは困るなぁ。(笑)」


ふふっ。そうですね。


「つきました。降りましょう。」



石田さんがそう言って車から荷物を持って降りる。

わたしと星野さんもそれぞれ後部座席から降りた。

地下の駐車場に入る前に見上げた背の高いビル。

ぽっかりと口を開けるところに石田さんの運転する車があっという間に飲み込まれる。



すごい建物ですねぇ…



後部座席のドアを閉めながら心の声が出た。



「ここですごいって言ってたらスカイツリーもっとすごいよ?」



星野さんに笑われる。



スカイツリーも東京タワーも行ったことないですもん。


「え?そうなの?それは人生少しだけ損してるかも!」


そうなんですか?


「オレもスカイツリーはまだだけど…東京タワーは好き。」


行ってみたいなぁとは思うんですけどね。



関係者入口まで歩きながら喋る。

入口のとこで関係者のバッチを貰い見えるところに付ける。



「ゼッケンみたいね」


まだ走らせる気ですか?


「もう運動会は終わり?」


あとは星野さんを着付けして、本番見させて貰って。

全員着替えて貰ったら終わりですからね。


「もう少し…ですね。」


やっと終わりが見えてきましたね。



関係者入口の奥のエレベーターに乗り込む。



「控え室は男性と女性と別れて2部屋になります。」



石田さんが言った。



「え。狭くない?」


「そんなに長居しませんからね」


「なるほどね」


わたしはその方がありがたいです。

手直しもすぐに出来ますから。


「そっか。走らなくていいね」



エレベーターがポーンと音を立てて到着を知らせる。

スルッと扉が開くとそこには紅白よりも静かな廊下があった。



「こちらです」


静かですね…


「出演する人達も様々なタイミングで来ますからね。」


そうなんですね。



紅白の舞台裏しか見てなかったからそんなもんなんだと思っていた。

こっちが普通なのかもしれない。

石田さんが先頭切って歩き、控え室のドアを開ける。



「源ちゃん。あけおめー。」


「あけましておめでとうございます。」



それぞれに年始の定型文を口にする。



「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」



星野さんが深々と頭を下げた。



「かおるさんも。あけおめー。」


あ。はい。おめでとうございます。


「かおるさんの着付けすごいよ。車乗っても全然着崩れないの。」


ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。


「星野さーん。お願いしまーす。」



来て早々番組スタッフが呼びに来た。



「はーい。いってきまーす。」


忙しいですねぇ…



控え室のドアから消えた背中を見ながら呟いた。



「源ちゃんはね。毎年だよ?」


そうなんですね。


「かおるさん、この後全員で打ち上げ行くけど来るよね?」


はい?


「あれ?石田くん言ってなかったの?」


「すみません。うっかりしてました。」



長岡さんが困ったヤツめーって石田さんにデコピンしてる。仲いいなぁ。



わたしはでも衣装を会社に持ち帰ることになってますので…


「終わってから来たらいいじゃん。石田くんといっしょに。」


はぁ…。



ちらっと石田さんの方を見た。



「大丈夫ですよ。星野さんも少しだけ参加されることになってますし。」


いや。そこじゃなくて。

石田さんも参加されるのにうちの会社までわざわざ来て貰って申し訳ないなぁと思って。


「そんな離れてませんから。大丈夫ですよ。」


「はい。かおるさん参加決定!」



半ば無理やり参加することになってしまった。

まぁでもそんな遅くはならないでしょ。

仕方ない。ここまで乗り込んだ船だ。最後まで付き合うしかないな。


『こんばんわー!星野源でーす!』


テレビの小さい画面にさっきまで等身大だった人が映し出される。



「今年はどんな抱負にしたんだろうね。」



長岡さんが腕組みをして両袖の中に手をいれてモニターを見ている。



抱負?


「そ。毎年ね、この番組で抱負述べてるのよ。」


へぇ。


「2年前は何だったっけ?」


「無理しない」 伊藤さんが声を挙げた。


「そうそう。それそれ。なのに源ちゃんめちゃくちゃ忙しかったよね」


「で、去年が真剣に遊ぶだったのよね?」


「一昨年に比べたらマシだったみたいだけど…相変わらず忙しいのに結構遊んでたねぇ…仕事で(笑)」


大変なことですねぇ。



星野さんの着付けの準備しなきゃとテレビの画面から目を離した。

風呂敷を広げて着せていく順番を確認しておく。


『今年はこれにしました!』


テレビの中の小さいホシノゲンが掛け軸をたらーんと垂らす。



「ふぇー。そー来たかー。」



長岡さんが頷いた。

興味が無い訳では無い。でも見なくてもいいかな…

あえて画面からは目を逸らしておいた。

わたし達のこのなんとなく繋がった縁がどこで切れてしまってもおかしくない今。

星野さんが掲げた目標の中にわたしは入り込みたくはない。



「かおるさん、見た?」


え?あ、いや。見逃しちゃいました。


「源ちゃん相変わらずとんでもないことを何でもないようにサラッと言っちゃって。」


星野さんらしいですね。


「ほんとにね~」


ちょっとわたしはミオさんとアヤメさんの部屋に行ってきますね。


「はーい」



控え室を出て深呼吸をした。

星野さん…どんな抱負にしたんだろうな。

気にならない訳では無いけど。

あえてそこは見なくてもいい。



お疲れさまです。

大丈夫ですか?


「あ!かおるさん!」


「すごいの!全然しんどくない!」


ふふっ。ありがとうございます。よかった。



2人とも着崩れはなくホッとした。



「かおるさんもこの後来るんでしょ?」


…そうなりましたよ。


「やった!」



コンコン。



「はーい」


「失礼します。かおるさん、すみません星野さんの着付けをお願いします。」


わかりました。



あっという間に連れ戻されてしまう。

今何時だ。

時計を見ると0時40分

え。こっから飲みに行くの?

芸能人ってタフだなー。

男性陣の控え室に戻る。