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中村鏡とクック25cm望遠鏡

クック物語(8)

2021.07.11 06:00

(クック望遠鏡に取り付けられたCMOSカメラ) 

 神戸のクック望遠鏡は、2023年(令和5)に生誕(製造)100周年を迎えました。

 口径25cmを超える世界のクック望遠鏡は、1869年製の25インチ(63.5cm)「ニューオール望遠鏡」(ギリシャ、アテネ国立天文台)、1911年にブラジル国立天文台が取得した18インチ(45.7cm)、スコットランドのミルズ天文台で使用されている1871年製の10インチ(25cm)、ウィルトシャーのブラケット天文台で使用されている1860年製の10インチ(25cm)です。日本(神戸)の10インチ(25cm)を含めると、わずか5台ということになります。

 1860年製のクック望遠鏡がまだ現役なのですから、1923年製の青少年科学館のクック望遠鏡は、まだまだ現役です。

(クック25cm屈折望遠鏡で撮影した天体写真の数々) 

 ここで、クック望遠鏡のオーバーホールを担当した、西村製作所専務取締役西村有二氏(1984年当時)の文章をご紹介します。

 「今回のクック社25cm望遠鏡については、昔から父(西村繁次郎氏)によく話を聞かされていました。父は、昭和42年に気象台から神戸市に移譲される際、望遠鏡の解体・梱包に立ち合っており、その後もその処遇に関心を払い、よく「わしの目の黒いうちに何とかしたいものだ」と言っておりました。

 今回のオーバーホールについては、とにかく神戸市に移管後、相当期間が経っているので保存状態が心配でしたが、レンズを含め主要部分は意外と痛んでおらず、一部を除き原形通りに復元できました。計測関係の補助具の中には破損しているものもあり、運転時計を電気じかけにし、細かいパーツ(ボルトなど)を新しく作り直す以外は、すべてオリジナルのパーツが使用できました。

 とにかく極軸だけでも196kgと重量のあるものなので、作業工程は困難ではありますが、古い従業員の中には、京都大学にある100年前に作られたクック社製屈折式の修理の経験者もおり、ほぼ予定通り修復できたのです。

 基台や測器類に使用されている鋳物は、極めて高品質であり、いずれにしてもオーダーメイドされたと思うので、製作から納品まで1年はかかっていると思います。

 4本の回転桿(かん)に取り付けられた取手の握りを見ても、それぞれ形が異なり(暗闇の中でも識別できるように)、さすがクック社製だと感心させられます。

 基台部に”T.COOKE&SON'S"とありますが、製造番号などを記した銘板がないため、製造年月日は不明です。なお、目盛板についていたプレートには「1923」とあります。ネジなどは、全てインチを基準にしたものですが、一部用途不明なネジ穴やパーツも存在していました。

 現在、これと同格のものを新たに購入するとすれば、おそらく2000万円はくだらないでしょう。(外国製であれば、より高くつくでしょう。)

 2年ほど前に神戸市からの依頼で、レンズの点検をした際、カビこそ生えていたものの予想外に保存状態がよく、その時からレンズは当社が預かっており、今回やっと復元利用が実現して、私たちとしても嬉しい限りです。

 とにかく図面資料が全くないので、開梱時は、各パーツがどれに当たるのか、1つ1つの点検に手間取りました。

 何しろ大型機ですし、我々もこれだけのものをオーバーホールするのは初めてなので、修復作業のやり方、段取りなどからミーティングするなど、作業に携わるスタッフの意志統一を常に図っていました。

 オープンタイプにしては、使われていた時は油差しなどの保守、管理が行き届いていたのか、意外と痛んでない部分も多かったです。

 星の位置を定める"目盛り環"など、極めて精巧にできており、当時の超一級の技術を駆使して製造されたのであろうことが、よくうかがえます。

 レンズは、おそらくラピッド・ピンキントン社製のものと思われます。岡山天文台の反射式を製作した、イギリスのグラブパーソン社に吸収されて現在は残っていませんが、当時、クック社の望遠鏡のほとんどは同社のレンズを使用していました。青少年科学館のドーム建設についても当社が担当させていただきましたが、公開用ということなので、海洋気象台よりはひとまわり大きいドームとなっています。

 いずれにしても、由緒あるクックの25cmがようやく復元利用されることになり、神戸市はじめ、関係者の努力には改めて敬意を表したいと思います。

 正常に使用され、充分な保守、管理が施されれば、今後50年はおろか、半永久的に使用できるでしょう。

 青少年科学館でどのように利用されていくのか、今から楽しみにしているところです。」

 

(参考文献)

(ふたたび太陽を追って.神戸市教育委員会望遠鏡小史編集委員会.神戸新聞出版センター.1984)

Cooke Refractor,Wikkipedia,2021.7.11閲覧