遊園地の異変
遊園地の異変
翌日デイノニクスたちが現れたのは、恐竜アミューズメント施設に隣接するテーマパークであった。開放的で誰でも自由に出入りできる。乗り物利用や入館時は例によってキャッシュレス決済だ。腹が空いてきたので、食べ物の自販機を見つけると、スマホをかざした。だが、大事そうに持っていたスマホが反応しなくなっていた。元の持ち主が紛失に気づき、利用停止の申請をしたのだろう。
デイノニクスは首をかしげていたが、やがてあきらめてその場に捨ててしまった。
彼らは手当たりしだいに食べ物のありそうな場所を物色しだした。
彼らは、園内を闊歩していると、どこからともなく何人かの子供たちが集まってきた。恐れることもなく、一定の距離を置いて囲むようにデイノニクスたちを見ていた。着ぐるみかロボットと思っているようだ。大人たちはどこにいるのだろうか。そんな心配をよそに子供たちはデイノニクスたちと遊び始めてしまったではないか。
子どもたちは手に手に食べ物を持っていた。そこでデイノニクスは、それを欲しがるような仕草をすると、
「これ・・・欲しいの?あげるよ」
と言って、手に持っていたワッフルを差し出した。他の子どもたちもそれぞれに持っていたワッフルを他のデイノニクスに差し出した。
「・・・ありがと・・・」
デイノニクスはたどたどしく礼を言った。
「おいしい?」
「・・・おいしい」
その後、子どもたちは、直接デイノニクスに触れて感触を確かめたりしていた。尻尾をつかんだり手をひっぱてみたりしていたが、デイノニクスたちはされるがままにふるまっていた。そうこうしていると、やっと保護者たちがやってきた。

驚きのあまり絶叫に近い大声で叫んだ。
「すぐにそこから離れなさい!」
その大声に驚いたのはデイノニクスであった。
ひとりの年長の子供が
「大丈夫だよ!いっしょに遊んでるだけだよ・・・」
「それ、本物の恐竜よ!」
「・・・この人たち・・・恐竜なの?」
子どもたちはやっと気づいたようであるが、まったく怯える様子はなかった。
「でも・・・怖くないよ。ほら・・・」
子供は恐竜の手を引っ張って親のところに行こうとした。
「やめて!・・・だめ!」
その時、1匹のデイノニクスがしゃべった。
「・・・だいじょうぶ〜これ、怖くない。あなた、怖い!」
「・・・しゃ・・・しゃべった」
恐怖よりも驚きが勝った瞬間であった。
親たちはデイノニクスを見る目が変わってきた。先入観を捨て始めたのだ。
「そういえば・・・ニュースでも恐竜は人に危害は加えないと言っていたな」
「こうして見ると羽毛のようなものが生えてるし、恐竜というよりもデカイ鳥みたいに見えるな・・・」
いつしか周りにはたくさんの人だかりができていた。さらに驚くべきは、大勢の子どもたちが集まってきて、デイノニクスたちと遊び始めたのだ。
誰かがボールを蹴った。
デイノニクスの1匹が蹴られたボールを蹴り返した。
いつの間にかテーマパークのイベント広場が子どもたちとデイノニクスたちの遊び場と化してしまっていた。
この異変に気づいたパークの従業員が3人ほどやってきた。
広場に現れた突然の催しに
「こんなイベントあったけ?何だ〜あの着ぐるみの連中は?」