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日々の嫉み

妄想劇場 41

2018.07.30 11:35


(こちらは完全に妄想の物語です。

実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)







打ち上げ 1








星野さんが出ていってからすぐに石田さんが入ってきた。



「お疲れさまでした。何か手伝いますか?」


いえ。ありがとうございます。

もう終わりです。

あとは台車を貸していただければ。


「もう外に準備してます。」


さすがですね。



星野さんの敏腕マネージャーが得意気に笑った。

台車を控え室の中に引き入れ、風呂敷の山を乗せていく。

最後のひとつを乗せてからわたしはコートを着込んだ。



行きましょう。


「ですね。忘れ物はないですか?」


大丈夫と思います。


「では。」



そう言って石田さんが台車を転がし始めた。

エレベーターに乗り込む。


そう言えばと思って自分の電話を見た。

今日昼間に星野さんとLINEのやり取りをしてから放置してた電話の電源を入れる。



わー。すごい。


「どうしました?」


いや。今まで電話の電源切ってたんですけど、今起こしたらすごいことになってます。


「すごいこと?」


ほら。



電話の画面を見せた。

そこにはズラーッと仕事の関係者、親、いろんな人からの通知の表示。



「はは。凄いですねぇ」


もしかして…衣装提供で名前出たんですか?


「知らなかったんですか?会社名と着付け師でかおるさんの名前出てましたよ?」


えー?

聞いてませんけど。


「あー。会社同士の契約段階で決まってたことだったんです。紅白で衣装提供の名前出すって。」


あー。それで…。

って。着付け師の名前まで出すことないですよね?


「そこまでは僕には何とも…」



ポーン。


エレベーターが地下駐車場に到着した。

電話をカバンにねじ込んで車まで急ぐ。

トランクや後部座席に風呂敷を入れ込んで、石田さんは台車を返しに行ってくれた。

わたしは助手席に乗り込みまた電話を見る。

LINEやらメールやらいろんな方法で「見たよ!」との報告だらけ。

親からは年始の挨拶といつ帰るの?とあった。

実家ね…いつ帰ろうかしらね…

成人式が終わってからでも休暇が取れるかしら…

スケジュール帳はかさばるので家に置いたままだ。

成人式はうちの会社の関係者の着付けを何人か請け負っている。販売員時代に比べれば比較的楽だが…やはり手は抜けない。



「お待たせしました。」


よろしくお願いします。



石田さんが車を発進させる。

年が明けたばかりの東京の夜は派手だったが、少し落ち着いてきた。光の洪水はおさまって今は静かな都会の夜。


ぶー。


わたしの電話が震えた。

星野さん。



「星野さんから?」


はい。なんだろ。写真?



画面を開く。

落ち着いた雰囲気の店内が少し写ってるだけで後は顔がたくさん。楽しそうに笑ってる写真だった。



ふふっ楽しそうですねぇ。



赤信号で止まったところに石田さんの方に画面を向けた。



「ほんとですね。さっきまで全国放送で歌ってた人とは思えませんね。」


ですよねぇ。


「星野さんはほんとに。いつもそう。その場を楽しむのが上手です。その直前まで体調悪くしててもすぐ切り替えちゃう。」


そうなんだ。


「さすがに熱が引かない時は休ませましたけどね…」


そんなこともあったんですか?


「最近はあまり無いですが。ちょっと前はよくありました。」


何でもですけど…身体が資本ですからね。


「だからか最近は鍛えてるみたいです。」


へぇ。



夜の街を滑るように走る車。

わたしの会社の社屋までもうすぐだ。

警備員には話を通してある。

とりあえず台車に全ての荷物を乗せ、商品部の入口まで運んでおく。

後片付けは明日以降いつでも出来る。

会社の駐車場までは行かず関係者入口のところに車を止めて貰った。台車を取りに走る。

トランクと後部座席のドアを開けて待つ石田さん。

2人で黙々と荷物を載せ替える。



あけましておめでとうございます。

夜分にすみません。

商品部まで上がりますね!


「かおるちゃん。あけましておめでとう。

遅くまでご苦労さま!どうぞー。」


ありがとうございます。



石田さんを車に残し、わたしだけエレベーターに乗り込む。当たり前だけど社内は暗い。

エレベーターが商品部のフロアに着いたらそのまま台車を押し出してまた乗り込み下ボタンを押す。

怖いわけじゃないけど…ちょっとね。



ありがとうございましたー。

また3日までに来て片付けしますので。

よろしくお願いします。


「はーい。気をつけて帰りなよー?」


ありがとう。



またすぐ石田さんの待つ車に乗り込む。



お待たせしました。


「大丈夫ですよ。行きますね。」


はい。


「今から行くバーはここからそんなに遠くないので。

車を駐車場に止めたら少し歩きますがいいですか?」


大丈夫です。



途中オムライスの店の近くを通った。

さすがに電気はついてない。



「あのオムライスの店。星野さん全然連れてってくれないんです。」


そうなんですか?

こっそり行ってみればいいのに。


「あ。そっか!」


ふふっちょっと入るのに勇気がいる佇まいですけどね。


「あそこのオムライス食べた後の星野さんはいつも調子いいんですよ。」


そうなんだ。

わたしが星野さんと出会ったのはあのお店ですよ。


「そうでしたか…不思議だったんです。

星野さんがどこでかおるさんに出会ったのか。」


そうですよね。


「いつですか?」


え?


「星野さんと出会ったの。」


去年の6月じゃなかったかな?


「え!そんなに前ですか?」


そうですねぇ。


「あ。駐車場ここです。車入れますね。」



オムライスの店から結構走ったな。

うちからもだいぶ離れてるし。

帰りはどうやって帰ろう…

車を駐車場に止めてからそのバーまで歩く。

人通りのほとんどない道を歩いて進む。

吐く息は相変わらず白い。



「ここです。」



石田さんがお店の前で止まり、ドアを開けてくれた。