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CultuArt Scene

サイトウマコトの世界vol.7「9cells」

2018.07.10 05:26

【公演レポート】

サイトウマコトの世界vol.7「9cells」


安部公房著書の「箱男」をモチーフに創られた作品である。2012年より上演を重ね、今回が第6回目の企画となった。

 女性9名と「箱男役」の男性1名の計10名のダンサーが創り上げるこの作品は、物語の筋を追うというよりも原作の雰囲気を舞台空間で表現するという方が近い。

 公演場所に選ばれたデザイン・クリエイティブセンター神戸KIITOホールは、元は1927年に輸出生糸の品質検査を行う施設として建設された。つまり舞台作品を上演するために造られたのではない。振付家サイトウマコトは作品の上演にあたり、この独自色のある空間に強く惹かれたという。

 限られた照明や設備を最大限に活かしての上演は、原作の少し退廃的で不可思議な、また実験小説とよばれるこの著書の世界観を見事に視覚化出来たのではないだろうか。

      ©Leo Labo 咲塚せりず


この作品の重要な要素である段ボールは大きなもので男性が一人すっぽりと入ってしまう程だ。それをどのように使うかに注目して作品を見るのも楽しい。

「箱男役」は実際に段ボールを被り、空間を徘徊する。箱に取り付けられた小さな窓だけが彼の進路を助ける。彼は作品中に実際に存在しているのか、それともこの世界の傍観者なのか。

      ©Leo Labo 咲塚せりず


サイトウは作品中に一度は観客をアッと驚かせる演出を取り入れる。今回は作品後半に箱男がそれまですっぽりとかぶっていた箱を脱ぎ捨て、フラッシュライトの中で踊り狂うをいう一場面があった。舞台中央に段ボールが高く積み上げられるので観客は彼の踊る姿を直接には見られないが、奥の壁に映るその影で彼の容貌と存在を感じられる。同時期に、同じ振付を舞台中央では女性ダンサーが激しく踊り、彼の存在をより強調する。

それまで箱男がのぞき窓から世界を見ていたのだが、この演出により箱を脱ぎ捨てた彼を観客が段ボールの裏側に覗き見ることになる。

この「見る側」と「見られる側」の相互こそがこの作品の大きなテーマであり、この演出に至るまでの作品の全体の流れに、サイトウの論理的な演出の巧みさを感じた。

      ©松本豪


公演情報

日時:2018年7月1日(3回公演)

会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)KIITOホール

演出・振付 サイトウマコト

演出補 関典子

音響 金子彰宏

振付助手 齊藤綾子

主催 サイトウマコトの世界

      ©Leo Labo 咲塚せりず