目線。
目線の置き所は重要だと感じている。どんなに優れた技術でも、残念ながら使用する場面がないものには、いくらコストがかかっていても作り手にとってお客様からの価値評価は納得いくもになりにくい。
先日、昔衣料品店頭販売職からこの繊維製造側に入隊した勇敢な戦士と雑談をしていた時に「山本さん、〇〇染色工場さんの〇〇って加工どう思いますか?」と問われた。あまり詳細を書くと角が立つので、ざっくりいうと、生地の染色加工工程で色味のヴィンテージ感を出すものに関して、僕の意見を求められた。
目線は二つ。
テキスタイルの意匠性側面で言えば、今っぽくてフックがあって面白いからお客様からピックアップされる可能性は高いだろう。
対象生地の目付けが軽ければ付加加工賃分はさほどネックにはならないので、成約確率も高そうな感じがする気配は、生地屋さん的には感じるから生地屋さんベースでのサンプル依頼もあるだろう。
縫製品としてお客様にOEMで提案する側の意見としては、加工の特性上、生地の中で色ムラが出るので、裁断縫製後に中稀(チュウキ:袖や身頃などパーツごとに色が違って見えてしまう事故)が間違いなく発生するので、そもそも提案のテーブルに上げることがない。
生地提案レベルの段階で、製品加工でこういう表情にもなりますよってレベルでイメージサンプルとしてお客様に見せることはあっても、生地加工でズバリそのまま進行することは、事後の事故発生をアナウンスした上で了承いただけない以上、やることはない。
再現性が低く、相手の理解と実物上がりの乖離がデカそうな物は、事後処理の資金・時間的余裕と生産現場がお客様イメージとの乖離差を埋める努力をしてくれる前提の態度がないかぎり、それがどんなに意匠性が高く『他所ではできない』ものであっても、最終的に商品になり得ないのだから、ノーガードで提案することはまずない。
売り手が強すぎる場合、そんなもん起こって当然だという態度のことも多いので、採用する側がその技術に対して理解があり、問題発生時も対処法に明るい場合でない限り、大体は双方に嫌な思いをして二度と関わらないと決別してしまう事例を何度も見てきた。
だからと言って、工場様からまったくそういう提案自体を受け付けないかというとそうでもない。
内容次第ではあるが、許容範囲が持て、モノづくりの工程上そのリスクを理解して受け入れることができる可能性があれば、最終的にはお客様が決めることなので、自分たちの引き出しの一つとして持っておくことは意味のあることだ。
現場の発想から生まれた素晴らしい飛び道具を世に出さない理由はない。事前にしっかりとリスクを理解し、ご説明差し上げた上で結果を受け入れてくれるくらい相手がその技術を求めてくれるのであれば、喜んで提案したい。
製造過程で見れば、テキスタイルの意匠性によって引き起こされるリスクは、生地上ではお客様の理解を得られても、縫製現場で難色を示される可能性だって高い。ハサミを入れたら責任の所在が変わってしまう習慣が古くからあるので、反物開いた段階で拒絶反応が起こる場合だってある。
だから責任を負う立場がこちら側(OEMメーカーやその先のアパレルメーカー)である旨を商品を作り上げるチームとしてしっかり事前に縫製現場に説明していくことも必要だ。
多くの現場を巻き込んで完成品を作っていくので、加工技術など、製造ライン上スポットで特殊なことをする工程を選択する場合は、技術開発したサプライヤーの目線だけでは色々とトラブルのタネにもなってしまうことを留意して開発提案していけると、きちんと実売に繋がっていく可能性は上がるので、よりいっそう面白いモノづくりができるようになっていくと思う。