東山区という地域が、人と話して、しんどい気持ちが少しでもほぐれるような、そういう場になればいいなって思います。ー小原亜紗子(私設図書館『Roomie』代表)
今回、対談したのは、小原亜紗子さん。
小原さんは京都市の東山区で私設図書館『Roomie』を運営されています
小原さんが『Roomie』を開設した理由とは?
そして、京都市内で空き家率No. 1の東山区で、空き家問題にも取り組んでいる小原さん。
今、地域が抱えている課題とは?
地域の未来を考える対談です。
<Profile>
小原亜紗子
1984年、京都生まれ。大学卒業後は輸入車ディーラーの営業、不動産会社、人材紹介会社のキャリアアドバイザーを経験し、2019年にフリーランスに転向。現在は2児の母。(絶賛子育て中)
2021年12月に京都市東山区今熊野の路地裏にて「Roomie」をオープン。
不動産仲介業を中心に、東山区まちじゅう図書館プロジェクトの企画・運営を行う。
子どもが本をたっぷり読める街になったら、地域のお母さんたちもほっとするんじゃないかな、と思ったんです。
カラムーチョ伊地知(以下 伊地知):小原さんは不動産業の傍ら、私設図書館『Roomie』を運営されています。図書館を開こうと思ったのはなぜなんですか?
小原亜紗子(以下 小原):今、一人目の子どもが年長なんですけど、絵本がすごい好きなんですよね。「本を読みたい!読みたい!」って時に、コロナ禍になって。緊急事態宣言が出て、キツめの自粛期間の時に、図書館も本屋も行けない、人がたくさん集まる場所も怖いし。それなら、地域の人たちで貸し借りできたらいいな、と思って、そのタイミングで不動産業をはじめたので、「事務所も図書館にしちゃえ!」みたいな感じで。
伊地知:ええ。そんな勢いで。
小原:そうそう。勢いで(笑)「えいや!」みたいな感じだったんですけど。子どもが本をたっぷり読める街になったら、私をはじめとした地域のお母さんたちもほっとするんじゃないかな、と思ったんです。
伊地知:Roomieのキャッチフレーズ「欲しい街の形をともに考える」ですが、それは図書館があったり、図書館が交流の場になるのが、小原さんの考える理想の形ってことですか?
小原:それは別に図書館じゃなくてもいいんです。街にほっとできる場所がたくさんある。それがいいなって。うちの子だったら、本に囲まれて、好きなだけゴロゴロしながら本を読めたら彼女は幸せだろうし、私だったらパッと立ち寄れる喫茶店があったりとか、いい感じのベンチがある公園とか、仕事帰りによれる美味しいお惣菜屋さんとか。立ち話して、ほっとして、元気をもらったりそういう場所がたくさんあるのが、安心できる街なのかな、って思います。
伊地知:ほっとできる場所が生活圏にある意義はなんだと思いますか?
小原:私の場合はシンプルに喋りたいんです。ベラベラってわけじゃないけど「今日は寒いなあ」とか「明日も雪降るらしいで」とか、街の中で誰かとちょっと会話を交わしたい。単純な挨拶のし合い、自分のことを知っている人で、相手も自分のことを知っていて。そういう関係性が好きなんです。孤独が嫌なんでしょうね。ちょっと質問とはそれちゃいますけど。
住まいって観点で考えた時に、家に欲しい機能を外出してシェアする。そういう提案とかできたら面白いな、って思っています。
伊地知:東山区は京都市内で空き家率がトップだそうですね。
小原:そうなんです。私もひとりの住人として、空き家が増えると危ないし、寂しい街になってくるし、どうにかなれへんかなと思うんです。それで、元々、取得済みだった宅地建物取引士の資格を活かして、不動産屋になったら、何かできることが見つかるかもしれへんな、と。ただのいち住民やと「空き家をどうにかしたい」で終わるけど、「不動産屋さんとして空き家をどうにかしたい。こういう活用はどうですかね?」って言えるのが不動産屋であり、企画者だと思うし、そういう人になれたらいいな、って思っています。
伊地知:高齢化社会と空き家問題はイコールで結ばれると思うのですが、不動産業はそういった社会課題に対して、どんな力になれるんでしょうか?
小原:東山区はそもそも一般的なファミリー層が住める家っていうのが少なくて。子供が小さい時はまだ住めるけど、子供が大きくなって、子供部屋と夫婦の部屋が必要になったら自然と「手狭やし、引っ越そか」ってなってしまう。それくらいサイズ感の家が多いです。
伊地知:なるほど。
小原:家が狭くても、「家はでかい寝室やわ」くらいに思えるような街が作れたら、子どもも育てやすいんちゃうかなと思うんですよね。例えば公共の書斎やコワーキングスペースがあって、シェアキッチンがあって、お風呂は・・・流石に家にあったほうがいいかもしれんけど(笑)そんな風に街の一角に、みんなが使えるような公共の場がポンポンポンってあったら、子育てもしやすいんちゃうかなと思うんです。住まいって観点で考えた時に、家に欲しい機能を外出してシェアする、みたいな。そういう提案とかできたら面白いな、って思っています。
伊地知:みんなでご飯を食べれる場所ってことですね。つまり、地域でほっとできる場所。
小原:そうそう。大人もちょっとおしゃべりしながら料理をしてて、みんなでご飯食べて帰ってく、みたいなね。
伊地知:昔は当たり前だったけど、昭和の末期から失われた光景ですね。
小原:うん。リバイバルじゃないけど、もしかしたら、失ったものを、もう一回やり直す、みたいなものいいんじゃないかなって。でも、安全は度外視できないんですよ。あくまで安全に、安心して遊べる場所を作りたいんです。Roomieもそのひとつで、ちょっと手狭かもしれないけど、「そこの図書館行ってくるー」って感じで行ったら、私やボランティアの方など、地域の大人もいる。それやったら「一人で図書館行ってき」って言えると思うんですよ。そういう安心できる場所、ホッとできる場所を街に広げられたら、少子化問題の解決策にもなるんじゃないかな、と。
伊地知:他人だけれど、話せる大人がいる場所は今となっては貴重ですね。
小原:第三者だからこそ、身内には言えない「私、家に居づらいねん」とか「本当は学校行きたくないねん」とか、言えたりすると思うんですよ。「今日、元気ないやん。どしたん?」って声をかけてもらったら、もしかしたら、それだけでその子は救われるかもしれへん。「親に言えへんねんけど。・・・」そんな話ができる誰かと安心できる場所があれば、少しでも救われると思うんですよ。東山区という地域が、人と話して、しんどい気持ちが少しでもほぐれるような、そういう場になればいいなって。
伊地知:Roomieのような公共の場所があると、色々な大人と触れ合えますよね。
小原:そう思っていただけたら嬉しいです。今は共働きのご家庭も多いと思います。仕事から帰ってきて、両親ともにヘトヘトやけど、子どものためにご飯作って、お風呂入れて・・・。仕事後から第二ラウンド開始!って感じで休む暇がない。その点、街にシェアキッチンとかがあれば作れる人・作りたい人が「今日はご飯食べていきー」みたいな関係が築けて、なんなら仕事帰りのお母さんもついでにご飯を食べて行く、みたいな。
伊地知:そこに空き家の新たな価値が見出せそうですね。
小原:はい。あくまでもまだ理想ではありますが、地域に眠っている空き家が、元々住んでいる人にもきちんとメリットがあって、有効活用されていく。それが今、一番やりたいことですね。
私はまだ東山区に住んで7年目ですが、引っ越ししてきた当初から地域の方が本当に温かく迎えてくださって、心から感謝しています。だからこそ恩送りってやつをしたいですね。これから東山区に住もうとしている方を大歓迎したいし、大歓迎できる街を微力ながら作っていけたらと思います。
(敬称略)
(2023年2月の対談です)