「Das Vaterunser」Bernadette Watts
主の祈り。
洗礼を受けた、というわけでもない人でも、キリスト教系の幼稚園などに行っていた人には馴染みがあるのではないでしょうか。
「天にまします我らの父よ」
この言葉で始まるお祈りの言葉、この祈祷文にバーナデット・ワッツが挿絵を付け、静かで荘厳な、美しい絵本にしたのがこの絵本「Das Vaterunser」です。
描かれ、お祈りの言葉に付されたその絵は様々な場面です。お祈りの言葉自体と関係のありそうなものも、一見関係のなさそうなものもあります。
小鳥たちがさえずる絵、母親が子どもに乳を与える絵、子どもたちがパンを切り分ける絵。
貧しい子どもたちが裕福なひとりの子どもを有刺鉄線の向こうから眺めている絵、大雨の中を歩いている絵、雪道を薪を抱えて歩く老婆の絵。
どの場面にも、主の祈りの言葉が響いています。
ワッツの描く絵の隅々に、その言葉の響きが充満しているようです。
私は特に、キリスト教徒であるわけでもないのですが、祈りの言葉を聞くにつけて思い出すのは、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」です。
熱心な日蓮宗の仏教徒だった宮澤賢治の日々を生きるためのメモと、キリスト教の大事なお祈りの言葉とを、どこか似ているなどと感じるのは、とても乱暴なことだとは思いますが、ワッツの描いたこの絵本を読むと、一層その思いを強く感じてしまいます。
日常の様々な場面への箴言、警句、そしてその与えられた世界への感謝。
宮澤賢治の作品には様々な場面で、キリスト教的な感触を受けることが度々あります。これには同意してくれる方もいるのではでしょうか。
話が少し変わってしまいますけれど、様々な絵本作家/画家が挿絵を描いた(今なおまた新しく描き続けられている)宮澤賢治の作品に、誰に挿絵を描いて貰いたいか、と問われたら、私はこのバーナデット・ワッツの名前を上げるかも知れません。
静かで美しい、この祈りの絵本を開いて、そんなことをぼんやりと考えていました。
この絵本は日本語にはなっていない、ドイツ語の絵本ですが、おやすみ前の絵本としても、素晴らしい一冊だと思います。
レホツキーが好きな人にも、おすすめです。
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