Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Ryouko Aomasa/蒼政涼子 Piano Home page

百日紅考

2018.08.04 16:32

たましいの、抜けたひとのように、足音も無く玄関から出て行きます。

太宰治「おさん」の冒頭。


この短編小説は、「おさん」という女性の一人称で綴られています。

浮気性の夫。

冒頭の一文は、浮気相手の元へ向かう夫の描写。


確実に、夫の浮気に気付いていながらも、真っ向から対峙する事の出来ない、おさん。

彼女は一人、苦しみます。そんな自分を日々誤魔化し生きて行く。

魂が抜けてしまっているのは、おさんの方ではなかろうか。



挙句の果てに夫は、浮気相手と心中。

夫が心中の為家を後にする際、

おさんと交わした最期の会話




「さるすべりは、これは、一年置きに咲くものかしら」と呟きました。玄関の前の百日紅は、ことしは花が咲きませんでした。「そうなんでしょうね」私もぼんやり答えました。それが、夫と交わした最後の夫婦らしい親しい会話でございました。


百日紅は、特に好きでも嫌いでもない花でした。

逆に、私の子供時代の話。

田舎の実家の玄関先にあった、紅い花をつける百日紅の木。

花の散る季節は、ホロホロと無限に、小さく紅い金魚のような花が地面に溢れ落ち、風に吹かれて泳ぎ、掃除が大変だった…ので、あまり良い印象も無かったのであります。

それから、親に叱られた夏の夜。お仕置きで外へ出されると、闇の中にサワサワ揺れて、家の窓の灯りを受けて、私の身体に影を落とす百日紅。

子供だった事もあり、ひたすら不気味で、美しいとは思えませんでした。


「おさん」を知り、読んだ後に、

百日紅が滅法好きになりました。


命を絶つ旅に出かける夫の、妻であるおさんに対する最期の言葉。


この場面を心の中で想像する度に、沢山の感情が自分のなかに渦巻きます。

その感情は、全部は上手く言葉に出来ません。

その一つに、

「こんな事を最期に言える男だから、女にモテてモテて、浮気もするだろう。心中もするだろうさ」

というモノがあります。


そんな事を他人事のように思っている私は、恋愛や浮気や、そういうものに関して、精通していないのでありましょう。


とりあえず、百日紅には、毎年咲いて貰いたい様に思うのです。