プロローグ-いつもの朝は最後の朝
2016年2月2日のこと
「パパ,ぼくの刀は?」
その日,私はいつものように妻子より1時間早く起きた。
冬の寒い時期には,妻子が起きるまでにリビングダイニングを暖房で温めておく。
そして朝食の準備をする。妻は10か月程前から味覚障害を発症し摂食障害となり食事は殆ど摂らない。心配し少しでも何か...と用意すると嫌がらせと言われ責められてしまう始末だった。
息子を起こしに行く。「おはよう」と声をかけると,直ぐに飛び起きて「パパ,僕の刀は?」と言った。
前日の夜にチャンバラで力尽きるまで遊んだ。
実家近くのプレーパークで近所の女の子にチャンバラを挑まれて,打ち負かされて泣いたことがあった。未だ幼児同士の遊びより親との遊びが楽しい時期だった。
トイザらスで,スポンジ製の刀を買った。息子は大喜びで,「緑の刀は僕の!ミドレンジャーだ!」「パパは青,アオレンジャーだ!」と言い父に戦いを挑んできた。
余りにも喜び楽しそうなので,タブレットをいじっている妻を誘った。「ママ,交代して」と言い青い刀を渡した。興奮している息子と妻も楽しそうに遊んだ。
この時,妻が非情な選択の決断をし決行に備えている事など知る由も無かった。
「パパ,薩摩のお芋が食べたい!」
朝食をいつものように二人で摂り,歯を磨いて,着替えをさせて,保育園へ向かった。
保育園に預けられるより本当はずっと一緒に居たい息子は道中に,保育園から帰ってからの約束をする日課があった。
「パパ,帰ったらチャンバラね!」「よしわかった」
「パパ,今日は薩摩のお芋が食べたい!」「よしわかった。美味しいのを用意しておく」
「パパ,節分のお豆は未だ?」「お豆は明日だよ。このあいだ一緒に作った鬼のお面で遊ぼう」
9:00に板橋区認定保育園旭保育園に預け,17:30に妻がお迎えに来る連絡をした。
(後に裁判所調査により9:15に息子が保育園から連れ去られていたことが判明した)
そして夕方,私は息子が楽しみにしている約束を果たす為に,美味しそうな薩摩芋を調達して蒸かし妻子の帰りを待っていた。
(続く)→「その日は,ある日突然にやってくる。」
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