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inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

あかねいろ(21)夏の不在感は文化祭で!

2023.08.14 01:45

    夏休みは、アルバイトと部活で足早に過ぎ去っていった。

    それはそれで僕の中に確かなストーリーのある夏だったけれど、一方で、致命的に大事な何かが欠けていた。16歳になった僕には、その不在感は、夏がゆっくりと終わりに近づくにつれて、じわりじわりと大きく感じるようになっていた。



    男子校生徒のその典型的な空白感を知っているかのように、9月の半ばには文化祭が待っている。出会いのない大半の男子校生にとっては、文化祭は2ヶ月遅れの七夕のようなもので、僕のその空白感も、そこで何かが埋まるのではないかという期待が、勝手に満ちてくる。

    夏の終わり頃から僕らの中での話題も文化祭でのことが多くなる。誰かの中学校の時の同級生が女の子を何人つれてどの日に来るとか、夏のアルバイトで知り合った女の子が文化祭に来てくれるとか。同じ駅には女子校が3つあって、どの学校の子が可愛い子が多いとか、どの学校の制服が可愛いとか。そして、当日にどこでどんな風にして話しかけようか、どこに来ている子を狙おうか、などなど。概ね実行に移されない計画をみんなで話し合う。

  ラグビー部でも出店をやるのだけれど、1年生の出番は下ごしらえまでで、たこ焼きを作る今年は、僕らはテントの設営とか材料の買い出しとかで、当日の運営には関われない。だけど終わったらゴミ捨てはしないといけない。クラスでも何か出し物をするらしいけれど、部活に軸足の乗っている子は、大概がクラスの方の取り組みにはあまり積極的には参加しない。

  そんなことなので、実行委員でもない部活の下っ端の1年生は、実際は表立っての活躍場面はあまりない。それでも、学校に普段はいない女子が、毎日1000人以上も来るという事実は、僕らの心を刺激し続ける。そして、落ち着かない、そぞろな気持ちが学校中に充満する。

    実際のところうちの学校の文化祭は、伝統校ということもあり、文化部系での出し物も力が入っているし、文化祭に合わせたいろんな取り組みもあり(水泳部のシンクロなどは伝統芸になっていて、毎回チケットは朝一番で完売する)地域でも注目されるイベントという存在感がある。だから、学校が9月に始まっても、文化祭までは授業もあまり進まず、学校全体も文化祭ムードに染まる。



  同じ部活で、同じクラスの立川が、中学校の頃の塾の友達が隣の女子校に通っているということで、その子が何名か女の子をつれてくるという話で、来たら一緒に学校を回るという約束をしているらしい。立川のいうことなので話半分、というところではあるのだけれど、それでも当日が近づくにつれて、連日、立川ともう一人の男子で作戦会議が続いた。ラグビー部の出店には絶対近づかないようにしようとか、新聞部の誰々と知り合いらしいから、そこは行かないで、C組の出店には行こう、で、お昼ご飯は水泳部のところで焼きそばを買ってグランドで一緒に食べようか、その後は思い切って学校をでて駅の方に行こう、などなど。そして、お金をいくら持ってくるか、どこは奢って、どこは奢らないかというような、役に立ちそうもない皮算用までしていく。