目には見えない桜の色を
2007.04.06 15:00
桜の花が咲いた。
私にとって、桜と言えば思い出す話がある。
中学生のころ、国語の教科書で出会った
染織家・志村ふくみさんの桜の話。
文章と一緒に、ため息が出るほど美しいうす紅色の着物の写真が載っていた。
それは志村さんが桜の樹皮で
糸を染め、織り上げた着物。
今まで見たことのない空気感のある色。
その当時の私はその着物に釘付けになってしまった。
それ以来「桜色」の美しい着物は、私にとって一番の憧れであり続けている。
教科書に載っていたその美しいうす紅色は、桜の花が開く前の
桜の樹皮からしか得られないらしい。
今から咲こうとする花の色を、
まだ目には見えない花の色を、
その内部にいっぱいに蓄えた桜の木。
そこから色は生み出される。
志村さんの仕事を実際に目にしたことはなかったけれど、
今から咲かんとする桜の色を糸に染め出すその作業は、
きっと粛々とした、祈りのようなものではないかと想像して、
何度も文章を読み返していた。
目には見えぬはずの桜の色を、引き出すということ。
以前、私は雛祭り用に「桃」という文字を
桃色の絵の具に金の顔料を加えたもので書いた。
表現としては、色んな手段を使えるようになりたいと思うし、
そういう表現方法はむしろ好き。
けれど、ほんとうに、ほんとうに辿り着きたいのは、
白黒だけ、「紙の白」と「墨の黒」、それだけで成り立つ世界で、
桜の花の淡い色がそこに感じられる、
そんな字を書けること。
それは、きっとどこまで行っても終わらない道を
行くような話なのだろうけれど。
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筆文字工房すヾり
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おまけ。