亥の子さんが御座った
毎年、この時期になると、
私の住む地域には、「亥の子(いのこ)さん」が家々を廻ってくる。
亥の子さんと言っても、
実際廻ってくるのは子どもたちで、
直径20センチくらいの、片側にヘソが付いた円盤状の石に、
ロープを何本も括り付けて、
それぞれの子が一本ずつロープの端を持ち、
家々の地面をドスンドスンと搗いていく。
中には柚子を用意してくれている家もあって、
それを地面の上に置いて、石でドスンドスンと搗いたりもする。
いのこさんが ござった ござった
ひとつ ひよどりゃ くいのみを いわう
ふたつ ふなむしゃ ふなのそこ いわう
みっつ みみずは つちのそこ いわう
よっつ よばいぼしゃ そらのほし いわう
いつつ いしゃどんは くすりばこ いわう
むっつ むこどのは しゅうとのかみ いわう
ななつ なんどの くるまびつ いわう
やっつ やまぶしゃ ほらのかい いわう
ここのつ こんやは こんのかみ いわう
とおで とうふやは まめのはこ いわう
えんどうさんよ いおうてください はんじょうせぃ はんじょうせぃ
これは、その「亥の子」の時に石を搗きながら歌う
「亥の子歌(いのこうた)」。
昔から私は、歌や詩は割合正確に覚えている方だったし、
上の世代にも確認を取ったので、
私たちが伝えられた内容は上のとおりだと思う。
幼い頃は、その歌の意味も、その行事の意味もよく分からず、
また、さして疑問にも思わずに過ごしていたのだけれど、
今になって、それらのことがとても気になったりするのだ。
「亥の子」というのが
陰暦十月の亥の日(今だと11月の亥の日ね。)に、
新穀で搗いた亥の子餅(いのこもち)を食べる行事で、
平安時代にはすでに行われていたらしいだとか、
収穫を祝う、万病を払う、子孫繁栄を願う、など様々な説があることだとかは
ちょっと調べれば出てくるのだけれど、
結局すっきり説明しきれる感じではなくて、
なんだかこの行事は不思議が多い。
何となく、子ども心にも、家々を"祝って"廻るのだということは
分かっていたけれど。
仕方がないので、「うちのあたりの亥の子はこんな感じ」とでも書いて
今はそのままにしておこうかな(笑)
*
といいながら、再び「亥の子歌」。
小さな頃は音の響きだけで歌っていたその歌を
意味を取りながら記してみようと思う。
あ、あくまで私見です。
亥の子さんが 御座った 御座った
一つ 鵯ゃ クイの実(※1)を 祝う
二つ 船虫ゃ 船の底 祝う
三つ 蚯蚓は 土の底 祝う
四つ 夜這い星ゃ 空の星 祝う
五つ 医者どんは 薬箱 祝う
六つ 婿殿は 舅の髪 祝う
七つ 納戸の 車櫃 祝う
八つ 山伏ゃ 法螺の貝 祝う
九つ こんやは こんのかみ(※2) 祝う
十で 豆腐屋は 豆の箱 祝う
えんどうさんよ(※3) 祝うてください 繁盛せぃ 繁盛せぃ
*
※1 クイの実…野イバラの実
※2 こんのかみ…私見ですが、「こんのかみ」は坤の神か。
坤とは乾坤の坤。地を指す。
「紺屋は紺のかみ」かもね。
※3 えんどうさん…これも私見ですが口承では「えんどうさん」だが、
十の「豆の箱」に引っ張られて「えんのうさん(閻王さん)」の変化した形か。
「えんどうさん」で取るなら、「沿道さん」?
(あ。一応、考え得る条件をイロイロ調べた上で仮定してますが、
論文じゃないので、割愛。)
*
我が家のあたりでも少子化の波が押し寄せていて、
近いうちに亥の子行事が消滅してしまうかもしれない状況。
今年廻ってきた子どもはなんと2人。
長い年月伝えられてきたものが消えてゆくとなると、
やっぱりなんだか悲しいし、
余計にこの行事の内容や歌が気になってくるのかもしれない。
ここに載せるに当たって、
いろいろな地域の亥の子歌を調べてみたけれど、
私が歌っていた亥の子歌に類似するものが見あたらず、
分からない言葉について比較検討する材料がなかったのが残念。
気になることが多い亥の子歌。
「こんのかみ」や「えんどうさん」の正体にお心当たりの方、
うちの地域でも類似の言葉が出てくるという方、
おらんかね。
うーん。気になるー(。-`ω-)
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