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画伯の手

2009.12.14 15:00

私の通っていた高校は、お隣・岡山県の田舎にある私立高校でした。

田舎の高校らしいのんびりとした校風でしたが、
文化的にとても恵まれた学校でもありました。

中でも恵まれてたなぁと思うのは、
毎年、必ず一人は全国的に(世界的にも)有名なゲストを呼んでくれていたこと。

私が高校3年生の時。

その年のゲストは平山郁夫さんでした。

中学の頃から私は
井上靖さんの詩や小説、平山郁夫さんの絵が大好きでした。
思春期特有の潔癖さと直向きさとが
それらの作品が持つ、清冽な情熱を好んだのかも知れません。

初めてシルクロードの絵を見たとき、
玄奘が歩むその姿の直向きさに胸が苦しくなった覚えがあります。

憧れの画伯が、私たちの高校に来てくださる。

そのことを心待ちにしながら、
私は毎日のように美術室で
画伯の絵を模写していました。
とても稚拙だったとは思いますが。

私が平山郁夫さんに憧れていることを知っていた当時の担任と美術の先生とが、
平山郁夫さんと直接話すチャンスを作ってくれました。

何をどう話したのかも覚えていません。

ただ、穏やかなまなざしと、落ちついた声と、
すっと差し出してくださった厚みのある手と。

ぼうっとしながら辛うじて握手をした、自分の幼さと。


今年12月2日。


平山郁夫画伯は、亡き人となりました。


翌日、駅で号外を受け取った時
悲しさよりも、一面に印刷されたその顔に懐かしさがこみ上げてきました。

平山郁夫画伯その人への懐かしさと、
その頃の自分のまっすぐな憧れへの懐かしさと。

あの温かな手は、遠くに行ってしまったのでしょうか。



   佛手柑の画伯はすでに逝きしとや



今私は、「日本画家になりたい」と言った当時とは違う道を歩んでいます。
でもやはり何か直向きな美しいものに憧れてここにいるような気がします。

ご冥福をお祈りいたします。