「きさらぎの」
(「きさらぎの」・本紙約180cm径・仕上がり寸法約210×240cm・2011)
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きさらぎの空ゆく雲を指さして春ならずやと君にささやく (太田水穂)
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正筆会青年部による展覧会「暢心展」に出品するために制作した作品です。
地元・福山でも展示したいと、
急遽、9月の一門展「玉葉会書作展」でも一旦発表しましたが、
その後さらに書いて表具し直し「暢心展」のために仕上げました。
私にとっては陶芸や現代アートの分野での作品づくりがそうであるように
書作品もまた"文字を書く"ことはもちろんのこと
それを表装なども含めてどう見せるかまで考えることが
作品づくりの楽しさだと思っています。
今回の作品は"大きな球体"というイメージで構想を始めました。
紙は円形に。
文字のバランスも中心は大きく、外は小さくして立体感を。
そして表具は下1/3に色の変化と質感の変化を重ねて
円形の本紙に立体感と浮遊感、奥行きが出るように
色の変化や生地それぞれの幅も指示しました。
厳しい寒さ残る二月の空の
その遠くに見える雲に
春を感じるという歌意を
ふわりふくらむような作品で表現したかったのです。
紙面に春の気配を含むように。
今までで最大規模のかな作品。
構想を思いついたときに、正直、完成を不安に思う気持ちもありました。
私にとっては今まで書いたことのない規模のかな作品ですから
大きさだけでもかなりの挑戦である上に、
円形の紙面の難しさ
それに合わせた文字構成の難しさ
何よりその規模に見合うだけの線を出すことの難しさ。
でも、自身最後の暢心展に悔いを残さぬように、
「のびやかな心」という暢心の意に背中を押されるように、
青年部の仲間とともに作るという心強さを頼りにして、
いつも助けてくださる先生方や先輩方の存在を思って、
制作を決めました。
書くごとに力不足が本当に悔しく、苦しい制作でしたが
それはそのまま表現することの楽しさでもありました。
「手本」の存在が当たり前のようになっている書道の世界で
手本なしで一から作っていくという暢心展のスタイルは
本当に大事な作品づくりということの意味を考えさせてくれます。
この作品づくりを、自身の糧として
次への作品、また次の作品へと
繋げてゆきたいと思っています。