「舞姫」

（「舞姫」・読売書法展出品作品〈第29回特選〉・60×180cm・2012）***かきつばた扇つかへる手の白き人に夕の歌書かせまし夏祭よき帯結び舞姫に似しやを思ふ日のうれしさよ（与謝野晶子　歌集『舞姫』）***ちょうど高校生の頃だったでしょうか。思春期特有の生真面目さと複雑に増してゆく感情とを扱いきれず日頃思いを抑えるような癖を身につけてしまっていた私は何かを少しずつ少しずつ、本人も知らぬ間に溜め込み、ある日突然、ほろほろと涙が出てしまうということが時折ありました。本人にも、これという明確な原因が分からぬ涙はなかなか止まってはくれません。そんなときに母は、何も言わず祖母が私のためにあつらえてくれた青い地に大きな蝶の舞う浴衣を着せてあざやかな帯を締めて、近所の小さな夏祭に連れ出してくれました。日の暮れたあとの暗さは泣き顔をやわらかに隠してくれ、宵闇に浮かぶ祭の灯は涙に滲んで一層美しく、浴衣ではあれど、普段と違う華やいだ衣に気持ちまでもが誇らしく、いつの間にか涙が止まっていたことを今でもふと思い出すことがあるのです。私にとって晶子の歌は、その時のことを懐かしく思い出させるよすがのような歌でした。夏祭よき帯結び舞姫に似しやを思ふ日のうれしさよ私の周りの心優しい人たちのことを思いながら、夏の夕べの風のように、凛と書きたかった歌でした。*私にとっての書作品は技術のために技術を見せるものではなく、思いを綴るために、技術を得るものでありたいと願うのです。［関連記事］書き付け花http://ayasuzuriblog.blog.fc2.com/blog-entry-625.html********************************【第29回 読売書法展】********************************〈東京展〉8月24日（金）～9月2日（日） ※28日（火）休館《第1会場》 国立新美術館（東京・六本木）《第2会場》 サンシャインシティ文化会館（東京・東池袋） 〈中国展〉9月21日（金）～23日（日）《会　場》 広島県立ふくやま産業交流館（ビッグ・ローズ）（福山市御幸町） ********************************