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「花の教」

2016.04.25 07:48

(「花の教」・第70回日本書芸院展〈魁星作家〉作品・約50×180cm×3・2016)***心をとめて窺へば花自(おのづか)ら教(をしへ)あり。朝露の野薔薇のいへる、「艶なりや、われらの姿、刺(とげ)に生ふる色香とも知れ。」麥生(むぎふ)のひまに罌粟(けし)のいふ、「せめては紅きはしも見よ、そばめられたる身なれども、験(げん)ある露の薬水を盛りさゝげたる盃ぞ。」この時、百合は追風に、「見よ、人、われは言葉なく法を説くなり。」みづからなせる葉陰より、聲もかすかに菫草(すみれぐさ)、「人はあだなる香をきけど、われらの示す教暁(さと)らじ。」(『海潮音』より上田敏訳 クリスティナ・ロセッティ「花の教」)***英国の女性詩人クリスティナ・ロセッティの詩(上田敏訳)を作品にしました。初めて訳詩というものに出会ったのは、高校生の頃だったと思います。海外の文学の持つ世界観を、珠玉の日本語で表現したその独特の世界に、ああ、なんて素敵なのだろうと感歎した覚えがあります。この詩もその一つであり、私の「いつか書きたい詩のノート」に書き留めてあった詩です。今回、魁星作家に選出され、8mという壁面を与えられたときに、真っ先に思い浮かべたのが、「それならば、この詩を全文書ける!」という思いでした。美しくとぎすまされた日本語、詩の世界を過不足なく表しながらも説明的にならない心地よい音律、花々が語るという美しい世界観、その花々に対する異国(キリスト教圏)のもつイメージ、そう言ったものが重層的にこの詩を構成します。その海外の翻訳文学の持つ世界観を、書という表現が壊さぬように留意しました。線の華奢さを押さえるため、やや大きめの短峰の筆を用い、紙の色と質に対して沈まず且つ柔らかく見えるよう、墨の濃度と種類の微調整を繰り返しました。油煙墨と松煙墨を混ぜて使用しています。そして、表具には日本の生地ではそのイメージがずれてしまうことから、ヨーロッパのアンティークプリントが施された生地を表具会社に持ち込んで使ってもらいました。ただ、華やかにと言うのではない、花々のもつ「知性」が感じられる仕上がりになればと願いながら作った作品です。