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「玉章」

2016.05.01 02:55

(「玉章(たまづさ)」・180×60cm×2枚・2016)*我こひはほそ谷河のまろ木ばしふみかへされてぬるゝ袖かなたゞたのめほそ谷河のまろ木橋ふみかへしてはおちざらめやは(『平家物語』「小宰相身投」より)***私のふるさとには、平家谷と呼ばれるかつて平家の落人が暮らしていた谷があります。祖父母の家はその谷にあり、山肌に張り付き隠れるように建つ家々、赤い紙垂(しで)の垂がる神社、空を覆うほど大きな藪椿の木、そこから降る赤い無数の花。それらは幼い私の心に、「畏れ」という感情を伴う「美しさ」を教えてくれた原点の場所でもあります。ですからそのふるさとの谷に関わる『平家物語』は私にとってライフワークとも言うべきテーマとなっています。その谷にはかつて平家物語でも屈指の美女小宰相局(こざいしょうのつぼね)が隠れ住んでいたこともあり、今回の魁星作品ではその二人の馴れ初めとなる二首を選びました。贈答歌というのは同じ語句が繰り返されるという特有の形を取ることが多いですが、その形式に対して、並べて単調にならず、無理のない書き分けを、と心がけました。「散らす」という日本のかな書道特有の書き方で二首それぞれに散らし方を変え、用字を変えることができるという、これもまた日本のかな書道特有の強みを活かし、二首並べたときの変化を持たせる。贈答歌という形式にこそ、日本の書は、特に「かな」という表現はその強みを発揮できるのではないかと思っています。*表具は、ふたりの馴れ初めと言うこともあり、合わせの形になる屏風形式をセレクト。表具生地には歌のキーワード「細谷川」にちなんで流水文様の着物生地を持ち込みで使ってもらいました。