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自然に繋がる場所

2018.08.06 15:00

1955年創業、62年続く小さな小料理屋には大家族が住んでいました。

人が好き、料理が好き。また、自分の働き方について考えたい。という人は、ぜひ最後まで読んでみて下さい。

ここは国際通り。この場所は今日も多くの人で賑わっている。

沖縄に来た観光客が必ずといっていいほど訪れるこの場所から一歩入るとそこは竜宮通り。

小さな飲食店が並び、昔ながらの街並みがまだ少し残っていてなんだか落着く。


そんな場所に60年以上も前から今も変わらず多くの人々が足を運び、愛されている場所 小料理 小桜がある 。

「いらっしゃい、アイスコーヒーで良い?」と言って出迎えてくれたのが、小桜三代目の中山 亮さん。

落着いた雰囲気と柔らかい話し方が印象的だ。

開店前の準備で忙しいにも関わらず気さくに取材に応じてくれました。

話題はこのお店の歴史から。


中山さんの祖父、創業者の故・中山 重則さん。重則さんは徳之島出身、沖縄へ移住する前は家族で兵庫県尼崎市に住み、貨物船の船員として働いていた。

1953年、重則さんが乗る貨物船が沖縄へ寄港した時、転機が訪れます。


当時、那覇で人気を集めていた料亭の経営者から「うちの店で一緒に仕事をしないか?」と誘われたことがきっかけで、船を降りる決意をします。

それから2年後の1955年、「割烹 小桜」という名前で創業、ここは昔夜の社交場だった桜坂や栄町へ行く前に立ち寄る割烹街として多くの人で賑わっていたそう。

「昔は店も今のような雰囲気じゃなくて、板前さんや女給さんを雇って鍋とかお寿司を出していました。毎晩のようにたくさんのお客さんで賑わっていて、従業員もみんな住み込みで2階の客座敷が営業後は従業員たちの住まいになっていたね。当時は母(故・フミエさん)も一緒に店を手伝っていて、母はとても面倒見がよくて従業員のことをいつも家族のように大事にしていましたよ」


そう語ってくれたのは、中山さんの父であり小桜二代目の中山孝一さん。

小桜を創業した当時、孝一さんは5歳。大人になってからは本土で就職したが、20代後半沖縄へ帰ってきたことがきっかけで調理師学校へ進み、親子で店に立つようになります。

三代目の中山さんが小桜を継いで3年。以前は美容師として大阪で7年間働いていました。


「美容師の仕事もとても楽しかったし、今でも全然嫌いじゃないよ。いずれは沖縄に帰りたいって思いもあって、その時に自分がずっと美容師をしている姿を想像できなかったかな。26歳で沖縄に戻って今ここにいるから…親父と全く一緒だね(笑)」


店を継ぐ事を意識していたわけではないが、自然な流れで受け継がれ今年で62歳になる小桜。

時代とともに受け継がれてきた店主たちと一緒に今も成長し続けている。

小桜の魅力はなんといっても「出会いや繋がりが生まれる場所」にあると思う。

正確に言えば「その人たちが生み出す空間が好き」ということで、『その人たち』というのは店側の人間であり、お客さん一人ひとりでもあるということ。

その空間にいるすべての人たちが小桜をつくっている。

店内でまず目に飛び込んでくるのが壁と天井を埋め尽くすお客さんのポラロイド写真。

ものすごいインパクトだ。


「これは二代目が97年ごろから撮り始めたんだけど、店に貼ってあるやつだけで4千枚以上はあるかな?いつの間にか増えちゃって、貼り切れない写真は一枚一枚丁寧にファイルに保管してますよ」


当初、酔ったお客さんの顔を撮ったことから写真に酔顔と書き『すいがん』と読んだ。

すると、ある日お客さんがこの文字を『よいかお?』と聞いたそう。なるほど、これは確かにどの写真を見ても『良い顔』だ。

そんなことで撮り始めたのがきっかけだという。

お客さん一人ひとりの写真を見ながら嬉しそうに語ってくれました。


「面白いのがね、最初は一人旅で店に来ていただいたお客さんがいて、翌年そのお客さんが彼女を連れて一緒にまた来てくれてね。『これ、俺が一人で来た時の写真だよ』なんて話をしながら彼女と飲んでたんだけど、そしたら次の年『子供が産まれました』って家族で店に来てくれたんだよね。その時ものすごい嬉しかったし、お客さんとの繋がりを実感したね」

「あともう一つすごいのがあって...」と、写真を見ながら楽しそうに話を続けます。


「名古屋から旅行できたカップルが店に来てくれて、その日たまたま彼氏の方が誕生日だったんで、即興で島豆腐で作った誕生日ケーキでみんなでお祝いしたんです。その半年後、今度は彼女の誕生日で来店してくれたんだよね」

「詳しく話を聞くと当時交際して7年ぐらい経ってて、ちょうど彼女が席を外しているときに『もしかしてこの旅行でプロポーズするの?』って、彼氏さんに聞いたら『一応そのつもりです!』って教えてくれて、『今ここでやっちゃえば?』って冗談で言ったつもりが、お客さんも『今日の方が良いですかね』ってノッてきてね(笑)」


結局周りのお客さんにも後押しされて、その場で本当にプロポーズしたという。

返事は無事にOKを頂きました。

その場にいた全員が祝福してくれて、お客さん全員と中山さんたちが証人になり、二人で撮った写真に拇印を押してくれました。

それから間もなくしてお店にかかってきた一本の電話。


『私、〇〇さん(お客さん)のお友達の者です。今度二人は結婚式を挙げることになって、小桜さんでプロポーズをしたことがとても思い出に残っていると二人から聞いたので、もし良ければ結婚式にお祝いのメッセージをいただけませんか?』


中山さんは驚きました。


「もちろん嬉しかったですよ。でも本当に自分が出て良いのかなっていう気持ちもありましたね。けど、おめでたいことなので私でよければって気持ちでありがたくビデオ出演させていただきました。式場で私を見た人はきっと『この人だれ?』って感じだったでしょうね(笑)」

どうして小桜には、そういう良いハプニングが起こるのでしょうか?素直に思った疑問を中山さんに聞いてみました。


「ん~あんまり深く考えたことはないけど、それは昔から続いてきた店や人の歴史の中で自然と出来た雰囲気というか無形のモノというか…」

「多分、祖父の代から共通して言えることは自分たちもお客さんもみんな『人が好き』ってことだと思う」


別に、こちらからお客さん同士を紹介したり繋げたりしているわけではない。お客さん同士が自然に繋がってお互いを知るようになる。

その原点が小桜だった…理由はなく、きっとそんな感じなのだろう。

その繋がりはお店以外の場所でも起きている。


「小桜東京支部ってのがあってね、実はうちの店がつくったわけじゃなくて小桜で出会ったお客さんたちが自分たちでつくった会があるんです。定期的に集まって飲み会を開いているらしいですが、私もテレビ電話でたまに参加してます」


「他にも、お客さんみんなでNAHAマラソンに出場したり、夏には毎年恒例のBBQ大会を開いたり。みんなでのびのびやってます」

取材をしていると伝わってくる。中山さんの優しく落ち着いた角の無い雰囲気と小桜の居心地の良さ。

なぜそれを感じるのか明確な答えは分からないが、店内を見渡すとそこにはたくさんのポラロイド写真があった。

それはまるで一人ひとりが家族のようにも見えてくる。



仕事中お客さんと接する時に気を付けていることや大切にしていることは?


「一番は、この人は今喋りたいのかな?それとも放っておいてほしいのかな?って、お客さんの表情を見ながら気を使っていますね。それは多分、美容師をしていた頃に自然に身についた部分だと思う」

「常に気を配っていることも逆にお客さんにプレッシャーになるし、ごく自然にそれが出来るように心がけています。だって、お客さん一人ひとり店に来る理由は違いますからね」


人と接することが好き。だが、それだけでは難しい部分もある。気遣いができ、思いやりを持って相手に敬意をはらうことの大切さも教えていただきました。

「それとうちの店はね、素材にめちゃめちゃこだわっているわけでもなく、別に高級なお酒を置いているわけでもないんです。逆にどこにでもある普通のモノがほとんどです。けど、大切にしている事があって、それは『ストーリー』です」


ストーリー。


「例えば、観光で来たお客さんからオススメの泡盛を聞かれたとき、『お客さん、長生きしたいですか?この「まるた」って酒はね、沖縄の一番北の方にある大宜味村っていう村で製造しているお酒なんです。大宜味村は昔から長寿の村って言われていてね、そこのお酒を飲めばきっと長生きできますよ』って感じでね(笑)そのぐらいのプチ情報で全然良いんです」


料理やお酒すべてのモノにはストーリーがあり、そこにはつくる人の想いだとか沖縄の歴史や文化を知ることができる。

それ以上の情報やサービスを提供することで、お客さんが感じてくれる商品価値が全然違ってくる。

このやり方を始めて、中山さん自身も沖縄のことを今より幅広く勉強するきっかけにもなったといいます。

せっかく小桜に来たんだから楽しんで帰ってほしい。その思いが根底にあるが、主張しすぎず空気のような自然な存在で「小桜」と「お客さん」の間に立って考えて仕事をする。自分自身無理することなく人と人が繋がるきっかけをつくれる。きっと中山さんはそんな人なんだと思います。


必ずしも気を使ってたくさん会話をする必要はないし、注文する必要もない。

一人でのんびりするのも良し、常連さんに混ぜてもらって仲間を増やすのも良し。

ただ居心地がいいからそこに行く。そんな空気を感じるだけでもいいと思います。


気になる方は、まずは小桜へ行ってみては。