【書評】首里の馬
2023.10.06 13:00
【途切れた物語】
この物語は沖縄のとある町の描写で始まる。街並み、気候、歴史・・・そのうちの一軒のコンクリート造の建物が「沖縄及島嶼資料館」で、主人公はそこで資料整理の手伝いをしている。のちに資料館は壊され、集められた資料もなくなってしまう。島が台風や戦争で破壊されたかのように。
彼女はどこかにいる孤立した人にオンラインでクイズを出す「問読み」という仕事もしていて回答者との交流を深めている。「集めた資料を見ることで、自分のまわりにいる人たちや人の作った全部のものが、ずっと先に生きる新しい人たちの足もとのほんのひと欠片になる」かもしれないと主人公はスマホで撮りためた資料館のデータをクイズの回答者3人に送信する。
人間関係や孤独についても全体に流れるテーマのようだが、突如台風の夜に現れた迷子の宮古馬との交流でほっとさせられる。「問読み」という聞いたことのない仕事や沖縄の土地勘もないことでフィクションとノンフィクションの境がわからない、ふわりとしたSF作品だった。(つちふまず/本土に沖縄の米軍基地を引き取る福岡の会)
(ひきとり新聞第18号のニュースを順にテキストで紹介していきます。)