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七枝の。

台本/世界で一番美しい魔女(女1:男1:不問1)

2023.08.18 07:00

〇作品概要説明

主要人物3人。ト書き含めて約13000字。魔女と弟子と悪魔の話。ファンタジー、恋愛要素なし。泣き演技あり。

この台本は以前書いた方角の魔女×おとぎ話シリーズのひとつです。前作を読んでる必要はないです。今回モチーフになった物語は「白雪姫」「雪の女王」です。


〇登場人物

魔女:白雪の魔女。

ミラ:弟子、男女不問。10代ぐらい。

ブラック:魔女の知り合い。自称友人。悪魔。魔女をホワイトと呼ぶ。

※一人称変更、性別変更ご自由に。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

https://natume552.amebaownd.com/pages/6056494/menu

作者:七枝



本文



〇本文ここから。Mはモノローグ。

ミラ:(M)今でもよく覚えてる。

魔女:なんだ、お前。

ミラ:(M)ゴミ山でうずくまっていた僕を、貴方はみつけてくれた。

魔女:なんでこんなとこにガキが……

ミラ:……きれい。

魔女:あ?

ミラ:あなた、きれい。

魔女:はあ?イカレてるのか?

ミラ:(M)闇の深い夜だった。遠くでお星さまが、チカチカちいさく揺れていた。吐く息が白くて、その向こうに貴方の真っ赤な瞳がみえた。

魔女:もしかしてお前、あいつの………(間をおいて)厄介なことになったな。

ミラ:?

魔女:おい、どこからきた?何をしていた?動くことはできるか?

ミラ:でき、ない。なにも……わからない。

魔女:(溜息)しかたないな。

ミラ:うわっ

〇魔女、ミラを担ぎ上げる。

魔女:こい。お前が嫌じゃないなら拾ってやる。名前はそうだな……ミラ。ミラって名前にしよう。ちょうどいい。

ミラ:(M)それから、僕はミラになった。ゴミ山からひろわれたミラ。ひとりぼっちの魔女の弟子。


〇間。それから数年後。魔女の家。

魔女:ミラ~!おいミラ、どこにいる!

ミラ:はい、お師匠さまここに!

魔女:呼んだらすぐこいって言っただろ。

ミラ:へへ、ごめんなさい。お師匠さま、怒った顔も綺麗ですね!

魔女:……調子のいいことを。一体何して遅れたんだ?

ミラ:あさごはんです!

魔女:は?

ミラ:もうすぐ焼き上がりますよ。

魔女:もうすぐ……?火をかけたまま来たのか?

ミラ:え?……あ、あああああ!

魔女:はぁ。

ミラ:ど、どうしよ!煙でてる!

魔女:火事になったらどうする気なんだ……

ミラ:お師匠さま~!!

魔女:ったく、仕方ない奴。

ミラ:(M)パチン。お師匠さまが指をならす。

ミラ:(M)すると、たちまちキッチンはピカピカ。焦げ臭い匂いは朝ごはんの匂いに。食卓の上は、ふかふかパンケーキとカリカリベーコンに早変わり。

魔女:ふぅ。お前は小さいのだから、こんなことしなくていい。

ミラ:で、でも……

魔女:いいから。師匠の言うことが聞けないのか?

ミラ:つ、次は頑張ります!

魔女:ミラ。

ミラ:……はい。

魔女:そんなしょげた声だすなよ。私が悪役みたいだろ?

ブラック:「みたい」じゃなくて悪役なんだよな~?ちびっこ。

ミラ:!

魔女:お前どこから入ってきた!?

ブラック:窓からだけど?お、朝飯できてんじゃ~ん!俺コーヒーね。

魔女:座るな!

ブラック:立って食べろって?

魔女:喰うなって言ってんだよ。

ブラック:なんで?あ。俺、材料とか気にしないタイプ。元がちびっこのげろまず料理でも大丈夫だよ。

魔女:誰がそんなこと聞いた!?

ミラ:まあまあお師匠さま。お茶いれましたよ。今日はダージリンです。

魔女:む……

ブラック:コーヒーは?

ミラ:はい、どうぞ。

ブラック:うーん、いいにおい!やっぱこれだね!

ミラ:(くすくす笑う)

ブラック:ん?なあに?

ミラ:いえ、名前どおり「ブラック」をのまれるのだな、って。

ブラック:まあね。

ミラ:(M)かっこいい俺にぴったりだろ?と彼は片目をつむってみせた。

ミラ:(M)彼はブラック。本名かどうかは知らない。お師匠さまの貴重なご友人。

魔女:それを飲んだら、さっさと出てけよ。

ブラック:くすん、ホワイトが俺に冷たい。くすんくすん。

魔女:その名で呼ぶな!

ブラック:なんでだよ、いい名前だろ?俺とおそろい。

魔女:だから嫌なんだ。

ブラック:ツンデレってやつ?

魔女:消えろ。

ミラ:(M)ご友人、のはずだ。……たぶん。

ブラック:なー?ちびっこもそう思うよなぁ?

ミラ:え?

ブラック:聞いてなかったんだ?師弟そろって冷たいなぁ。

ミラ:す、すみません。

魔女:ミラ、そんな奴に謝らなくていい。

ミラ:えっと……

ブラック:ホワイトの照れ隠しにも困っちまうよな~って話。正直にいってみろって。俺様と一緒に天野祭に行きたいだろ?

魔女:行かない。

ブラック:またまたぁ

魔女:行、か、な、い!

ミラ:てんやさい……?

ブラック:祭りだよ、おまつり。あれ、ちびっこ知らねぇの?ふもとの町ではこの話題でもちきりよ?

ミラ:ぼくは……

魔女:ミラは目が悪い。危なっかしくて雪解け道なんて歩かせられん。

ブラック:親愛なるお師匠さまがいるじゃないですかぁ。

魔女:お前がお師匠さまと呼ぶな!気持ち悪い!!

ブラック:あれもやだ、これもやだって、ヤダヤダ期なのかにゃ?よちよち。

魔女:馬鹿にするな。

ブラック:ばかなのに?うぷぷ。

魔女:きさまっ……!

ミラ:あ、あの!そのお祭りってどんなお祭りなんですか?

ブラック:お、興味ある?天野祭はね、厳しい冬を乗り越えた人間どもが神様ありがと~って浮かれ騒ぐ祭りだよ。町ごとに祝い方はそれぞれだけど、ふもとの町では普段みないような食いもんとかおもちゃとかあって、めっちゃ楽しいぞ~!

ミラ:へぇ……!

魔女:……かみさま、ねぇ。

ブラック:おやおや?信心深いホワイトちゃん、どうしたのかな?

魔女:ふん。

ブラック:無視すんなって。ほら、ちびっこがキラキラした目でこっちを見てるよ?

ミラ:あ、あの、お師匠さま。

魔女:だめだ。

ミラ:えっ

魔女:祭りにはいかない。

ブラック:行こうよ~お外こわいの?手にぎっててあげようか?

魔女:だめだ。お前の軽口には乗らないぞ。

ブラック:え~

ミラ:僕、いいこにしてます!山道だってひとりで歩けます!

魔女:そういって転んだだろう?忘れたのか?

ミラ:あれは山菜をとろうとして、うっかり……

魔女:ほら。そんなに不注意なお前を町につれていけない。ただでさえお前は目が悪いんだから。

ミラ:僕、そこまで目が悪いわけじゃ……

魔女:ミラ?「お前は目が悪い」んだ。師匠の診断が受け入れられないか?

ミラ:……はい、お師匠さま。

魔女:よし。

ブラック:あ~あ。かわいそ。

魔女:くだらないこと言ってないで、とっととでてけ。

ブラック:やだ。

魔女:(ためいき)もういい。私が出てく。

ミラ:お、お供します!

魔女:必要ない。

ミラ:………あ。

魔女:昼には帰る。

ミラ:…………

魔女:ミラ?

ミラ:……はい。いってらっしゃい、お師匠さま。

魔女:ああ。


SE:ドアが閉まる音。

〇間をおいて。

ブラック:ひどい魔女様だねぇ、ちびっこ?

ミラ:僕が悪いんです。わがままを言ったから。

ブラック:ガキがわがまま言って何が悪いのさ?悪いのは些細なわがままも許してくれないお師匠さまだろう?

ミラ:そんな!僕は魔女の弟子です。我がままを言っていい立場じゃありません。

ブラック:弟子ってのは大変なんだなぁ。やめたくならないのか?

ミラ:まさか。光栄なことですよ。

ブラック:光栄?あの「魔女」に仕えることが?

ミラ:はい。あんなに美しくて素敵な魔女、他にいません。

ブラック:「美しい」ねぇ……こーんな誰もいない山奥で、つまんない家事ばっかやらされてるのにそう言えちゃうんだ?

ミラ:僕にできるのは、これぐらいですし。

ブラック:ふぅん?それって「目が悪い」せい?

ミラ:………はい。

ブラック:ははっ

ミラ:あの?

ブラック:いんや。飯、ごちそうさま。そこそこ美味かったよ。あいつ腕あげたんじゃね?

ミラ:そう思いますか!

ブラック:お?嬉しそうね。

ミラ:へへ。

ブラック:よしよし、かわいいな~お前は。無垢で純粋で、うまそうだ。

ミラ:……え?

ブラック:んじゃ、俺帰るから。またな。

ミラ:あっ。

ブラック:ん?

ミラ:……なんでもありません。さようなら、ブラックさん。

ブラック:うーん。

ミラ:あの?

ブラック:さびしいの?ちびっこ。

ミラ:えっ!

ブラック:ひひ。仕方ねぇガキだなぁ。

ミラ:あ、あの!僕のことはいいので……

ブラック:いいよいいよ。いま気分いーから、相手してあげる。

ミラ:す、すみません。

ブラック:「すみません」じゃないでしょ。

ミラ:え……?

ブラック:あー?

ミラ:ありがとうございます……?

ブラック:そうそう。ガキは素直が一番ってね。ほら、おいで。

〇ミラ、ブラックに抱えられて膝の上に乗る。

ミラ:わっ、

ブラック:優しいおにーさんが、ちびっこにおとぎ話をしてあげる。

ミラ:おとぎばなし、ですか?

ブラック:うん。聞きたいでしょ?

ミラ:え、えっと……

ブラック:ん?

ミラ:普段あんまりそういう話知らなくて……

ブラック:ああ~ホワイトお堅いもんな。くっそつまんねぇ図鑑ばっか薦めてきそう。

ミラ:図鑑、面白いですよ。

ブラック:うげぇ。

ミラ:あはは……

ブラック:んじゃ、何も知らないちびっこに俺がイロイロ教えてあげるね。

ミラ:はい!

ブラック:ひひひ。

ミラ:……あの?

ブラック:気にしないで。どこから話そうかな。……んーと、やっぱこれだな。むかしむかしあるところに、ひとりの悪魔がいました。

ミラ:悪魔?

ブラック:そうだよ。かっこよくてエレガントでパーフェクトな悪魔。

ミラ:悪魔なのに?

ブラック:悪魔だからこそさ。人を誘惑するためには魅力的じゃなくちゃ。でしょ?

ミラ:はぁ。

ブラック:さて、この悪魔。ある日すばらしい発明をしました。魔法の鏡をつくったのです。

どんな鏡だと思う、ちびっこ?

ミラ:え、魔法の鏡なんですよね?……質問すればなんでも応えてくれる、とか?

ブラック:ちがう。

ミラ:遠くのものを映してくれる?

ブラック:ちがうなぁ。悪魔の作るものだぞ?

ミラ:うーん……

ブラック:ひひ。答えはね、どんな美しいものでも歪んで映す鏡、さ。


〇ブラックが物語を語るターン。ミラの語りは、子供が英雄譚のヒーローになりきってる感じで。

ブラック:むかしむかしあるところに、ひとりの悪魔がおりました。それはとても好奇心旺盛な悪魔で、ある日些細なことが気になって仕方なくなりました。

ミラ:この世で一番醜い人間が、一番美しくなったらどうするんだろう?

ブラック:もちろん、悪魔には魔法の力があります。偉大な悪魔は、指ひとふりでどんな人間も美しくも醜くも、カエルにだって変えられちゃいます。でもただ醜い人間を美しく変えたのじゃあ面白くありません。愚鈍な人間相手にボランティアする気もありません。

ミラ:そうだ!面白い事を思いついた。どんな美しいものでも歪んで映す鏡。あの鏡を使えばいいじゃあないか。

ブラック:悪魔は、鏡をもって地上に行くことにしました……


〇場面転換。それから数時間後

SE:ノックの音。

魔女:帰ったぞ、開けてくれ。

ミラ:お師匠さま!おかえりなさい。

魔女:あいつは?

ミラ:ブラックさんですか?

魔女:他に誰がいる。

ミラ:で、ですよね……ブラックさんならさっきお帰りになりましたよ。

魔女:ふん。無駄飯喰らいめ。

ミラ:はは……あ、でもお礼におとぎ話を聞かせてもらいました!

魔女:むかしむかしあるところに……ってやつか?

ミラ:はい。カッコよくてパーフェクトですてきな悪魔がいるって!

魔女:ろくなこと言わんな。

ミラ:知らないことばかりで。勉強になりました。

魔女:あいつの言葉など信じるな。8割嘘で2割ごまかしだ。

ミラ:……はい。

魔女:………楽しかったのか?

ミラ:え。

魔女:おとぎばなし。楽しかったのか?

ミラ:え、えっと……その。

魔女:正直に言え。

ミラ:たのしかった、です。

魔女:…………

ミラ:あ、あの。

魔女:ここは退屈か?外に出たいか?

ミラ:そんなことないです!

魔女:………

ミラ:僕、師匠の傍においてもらえて本当に嬉しいです。こんなに綺麗で優しくて素敵な人、他にいません。

魔女:きれい、か。お前はいつもそういうな。

ミラ:そう思ってますから。

魔女:せかいでいちばん?

ミラ:はい!お師匠さまは世界で一番お美しいです!

魔女:かがみよ、かがみ……ってな。ばかばかしい。

ミラ:え?

魔女:ミラ、目の調子はどうだ。

ミラ:えっと、変わりないです。

魔女:頭痛や吐き気は?

ミラ:ありません。

魔女:そうか。何かあったら言え。

ミラ:……お師匠さま?

魔女:なんだ。

ミラ:どこか調子が悪いのですか?

魔女:顔色が悪かったか。

ミラ:ええ、少し……

魔女:そうか。

〇魔女、ミラの頬にふれて目をのぞきこむ。

ミラ:あの……?

魔女:かわいそうだな、ミラ。

ミラ:え?

魔女:おまえはかわいそうだ。

ミラ:(M)お師匠さまは、そう言ってうつむいた。真っ白な髪が、まるでヴェールのように垂れ下がって、僕はお師匠さまがどんな顔でそう言ったのか、わからなかった。


〇間。モチーフのおとぎ話紹介ターン。

ブラック:むかしむかしあるところに、ひとりのお妃様がいました。

魔女:ある寒い日のことでした。お妃様が窓枠にもたれかかって刺繍をしていたところ、誤って指に針を刺してしまい、3滴の血が雪の上に落ちました。

ブラック:そこでお妃様は言いました。なんて美しいんでしょう。

魔女:雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒い子どもがほしい。

ブラック:そしてまもなく、お妃様の望みどおりの子が生まれました。

魔女:雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒い……そんな子どもが。

ブラック:不思議だなぁ!望み通りの子どもが生まれたのに、どうしてお妃様は子どもを捨てたんだろうなぁ!

魔女:…………そして捨てられた子どもは、森の賢者に拾われました。

ブラック:かわいそうに。本当ならお城で大事に育てられたはずなのに。

魔女:子どもはやがて成長し、賢者のあとを継ぎました。

ブラック:暗い森の中でひとりぼっち。年老いた養父は死に、孤独な子どもはどこにも行けない。

魔女:…………

ブラック:町に下りても冷たい視線。それもそうだ。お前は誰からも愛されない。

魔女:……あの子に、どこまで話した?

ブラック:ああ、なんて哀れなこどもなんだろう!いや、もう子どもじゃなくて魔女なんだっけ?美しくてお優しい魔女様なんだよなぁ!あははははは!

魔女:ブラック!

ブラック:怒るなよ。ちょっとからかっただけだろ。アンタも乗ってくれたじゃん。

魔女:そうしないとお前は喋らないだろう。

ブラック:よくわかってるぅ。愛?

魔女:気色悪い。

ブラック:ひひひ。あんたのおとぎばなし、だーいすき。

魔女:悪趣味。

ブラック:ありがとう、誉め言葉だ。

魔女:それで?あの子にどこまで話した?

ブラック:隣町の街角まで。

魔女:ブラック。

ブラック:ゴージャスでスペシャルな悪魔の話だよ。

魔女:真面目に聞いている。

ブラック:俺様だって真面目さ。真面目も真面目。大真面目。

魔女:お遊びにのってやっただろう。

ブラック:あれだけ?

魔女:いい加減にしろ。

ブラック:じゃあ契約してよ。

魔女:この家に出入りできないようにしてやってもいいんだぞ。

ブラック:けち。

魔女:ミラに、なにを、どこまで、話した?漏らさず答えろ。

ブラック:ええ~?こほん。むかしむかしあるところに、ひとりの悪魔が、

魔女:要約して話すことはできないのか?

ブラック:漏らすなって言ったり要約しろって言ったりどうしたいの?

魔女:(ためいき)

ブラック:ため息ついちゃ嫌よ、ホワイトちゃん。

魔女:名前で呼ぶな。

ブラック:いい名前なのにもったいない。スノーホワイト。ぴったりじゃん。

魔女:この顔をみていうのか?

ブラック:おいおい。俺の仕事にケチつける気か?雪のように白い、だろ?

魔女:老婆のように白い、の間違いだろ。

ブラック:ひゃっはっは!

魔女:戯れはいい。質問に答えろ。

ブラック:しつこいなぁ。言った通りだよ。悪魔の話しかしてない。素敵な悪魔が素晴らしい鏡をつくりましたよ、って話。

魔女:クソ悪魔が邪悪な鏡を、の間違いだろ。

ブラック:ひどい。泣いちゃう。

魔女:勝手に泣け。それと、もう一度言うが、

ブラック:はいはい。ちびにホワイトちゃんの過去は話しませーん。

魔女:鏡のことも言うな。

ブラック:えー?あれ俺の私物だよ?ってかさ、いつまで真実を隠すつもり?一生このままで~なんて甘い夢みたりしてる?

魔女:だまれ。失せろ。2度とくるな。

ブラック:とか言っちゃってえ。俺しか友達いないくせに。

魔女:教会に通報されたいのか?だ・ま・れ。

ブラック:はいはい。(舌打ち)

魔女:舌打ちしない。

ブラック:へいへーい。口うるさい魔女だなぁ。いつから俺のママになったの?

魔女:帰れ。

ブラック:言われなくても。俺様これでも忙しいの。あんたと違って人気者だしぃ。

魔女:(舌打ち)

ブラック:舌打ちしなーい。じゃあねぇ。綺麗で美しいスノーホワイト!

SE:ドアの開閉音。

魔女:「綺麗で美しい」ね。……嫌味な奴だ。


〇間。

〇数日後。魔女の家。魔女は出かけている。

ブラック:かがみよかがみよ、かがみさーん!

ミラ:うわぁ!

ブラック:へへ。驚いた?

ミラ:ブ、ブラックさん?

ブラック:そう。頼れるお兄さん、ブラックだよ。

ミラ:珍しいですね、続けて来られるなんて。

ブラック:お誘いにきたの。どうせ今日もホワイトに置いてかれて、暇してんだろ?

ミラ:お誘い……?

ブラック:そ。今さぁ、祭りの準備のために商人やら屋台やら出入りしてて、にぎやかだからさ。一緒にいかないか?

ミラ:でも、師匠に任された仕事が……

ブラック:家事とか薬学の自習とかだろ?ちょっとサボったってバレないって。

ミラ:だ、ダメですよ!サボりなんて!

ブラック:え~つまんなーい。

ミラ:師匠に怒られちゃいます……

ブラック:いいじゃん。怒らせちゃおうよ。いたずらしようぜ。

ミラ:しませんったら。

ブラック:なんで?もしかしていい子にしなきゃ見捨てられるとか思ってる?

ミラ:……そ、んな。あはは、意地悪言わないでくださいよ。

ブラック:お。その顔は図星だろ~!かわいそうなちびすけ。いたずらもできないなんて!

ミラ:かわいそう……

ブラック:ん?

ミラ:僕って、そんなにかわいそうにみえますか?

ブラック:え、なになに。ホワイトになんか言われた?

ミラ:僕が、かわいそうなやつだって……

ブラック:へ~なるほどねぇ……ホワイトもちびっこのこと心配してるのかもな。

ミラ:しん、ぱい?

ブラック:うん。ほら、ちびっこは「目が悪い」から家にこもってばっかだろ?ともだちもいないし?恋人なんてもってのほかだし?

ミラ:う……

ブラック:師匠としてはさ、そういうの心配するって。

ミラ:で、でも師匠が町に行くなって言ったんですよ?

ブラック:ふーん。それで?真面目なちびは律儀にいいつけ守って、これまで1回も町にいったことないわけだ?おつかいもしたことない?ああ、そう。じゃあホワイトも大変だろうなあ。毎回ひとりで2人分の食料運んでるんだなあ。手伝ってくれる誰かがいたら楽になるだろうにね。

ミラ:それは……でも……

ブラック:ホワイトはちょっと過保護なとこあるから、大げさなんだよ。ちびも師匠に楽させたいと思わないの?おんぶにだっこで満足なワケ?師匠に一人前のとこみせたくない?

ミラ:みせたいです、けど……

ブラック:けど?

ミラ:師匠に内緒で外出なんて……

ブラック:だいじょーぶだよ。俺がついてる。なにかあったら俺が一緒に怒られてあげるからさ。これも修行だよ。俺とちびすけで内緒の修行をしよう。師匠の役に立ちたいだろ?

ミラ:修行……修行なら、いいのかな?

ブラック:ああ。師匠の為にすることが間違いなわけない。

ミラ:それなら、少しだけ。

ブラック:おいで、ミラ。

ミラ:少しだけだから……いいよね。

ブラック:怖がることないよ。楽しいとこに行くだけさ。

ミラ:いってきます、師匠。


SE:扉が閉じる音。

〇一方、森で散策中の魔女。何かに気づいたように顔をあげる。

魔女:……っ!いま、なにか嫌な予感が……気のせいか?

魔女:……薬草もだいぶ集まったし、そろそろ切り上げて帰るか。あいつも……寂しがってるかもしれない。

ブラック:寂しいのは自分だろう?

魔女:やめろ。

ブラック:お前は誰にも愛されない。

魔女:わかっている。

ブラック:いつまで真実を隠すつもり?

魔女:うるわい。黙れ。さえずるな。

ミラ:お師匠さまは世界で一番お美しいです!

魔女:……いまのままで、いいじゃないか。


〇間。

SE:ノックの音。

魔女:ミラ、帰ったぞ。………ミラ?また料理でもしてるのか?ミラ~!

魔女:……いないのか?


〇間を開けて。

〇場面転換。ブラックと歩くミラ。

ミラ:はぁ、はぁ。

ブラック:おい、大丈夫かよ。ちびっころ。

ミラ:だ、大丈夫です。

ブラック:体力ねぇなぁ。

ミラ:これでも……毎日働いてるんですけどね……

ブラック:家事する体力と森ん中歩く体力は別もんだからな。わからなくはねーけど……ほんと、あいつに可愛がられてるんだなぁ、おまえ。

ミラ:あ、はは。もう少し鍛えなきゃだめですね。

ブラック:うんうん。向上心のあることはいいことだ。あ、そうだ。その杖捨てちゃえば?かさばって邪魔そうだ。

ミラ:でも、僕「目が悪い」からこれがないと……

ブラック:今まで必要になったことあったか?せいぜい藪をかき分けたときくらいだろ?

ミラ:え?……あ、そうですね……

ブラック:今だってほら、離れてても俺の顔見えてだろ。な?

ミラ:え、っと、でも……これは、師匠にいただいたものなので。

ブラック:そっか。大切なものなんだな。

ミラ:はい。

ブラック:……ひひ。ほら、顔をあげろよ。もうそろそろで町だ。来たかったんだろ?

ミラ:……え?あ、ほんとだ。……え。

ブラック:なにがみえる?

ミラ:嘘だ……そんな、

ブラック:アンタの目に、この美しい町はどうみえる?

ミラ:やだ……ちがう。こんなはずじゃ……ブラックさん、僕をどこに連れてきたんですか?

ブラック;町だ。アンタの来たかった町だよ。

ミラ:嘘だ。そんなはずない。

ブラック:本当だとも。いままで俺が嘘ついたことあったか?

ミラ:じゃあ、なんで……バケモノしかいないんですか!あんなの僕が来たかった町じゃない!あんな……あんなバケモノしかいないところの、なにが町だっていうんですか!

ブラック:……ふふふ。なんでだと思う?こないだ教えてやっただろ?

ミラ:……知らない。

ブラック:美しいものが歪んで見える……なんだっけ?あれは何の話だったっけ?

ミラ:知らない知らない!なんの話をしているんですか!僕をどこにつれてきたっていうんですか!

ブラック:だーかーら、町だって。俺、本当のことしか言わないよ。

ミラ:嘘だ!

ブラック:どうして?

ミラ:だって、貴方は――悪魔じゃないか!

ブラック:ああ、なんだ。……気づいてたのか。

ミラ:(M)その時、視界の端に黒が広がった。思わず師匠の褐色の肌を思い出して、顔をあげる。でもそれは、間違いだった。

ブラック:じゃじゃーん、大変身!……なんてね。

ミラ:は、ね……

ブラック:ん?なんで驚いた顔してるの?悪魔に羽根と角はつきものでしょ?

ミラ:ほんとに……悪魔……

ブラック:あ、もしかしてさっきのてきとうぶっこいた感じ?うーわ。どうしよ。俺一番おいしいポイントネタバレしちゃったかも。

ミラ:そんな……じゃあ、あの話は……

ブラック:お?

ミラ:どうして僕に鏡の力が……違う。師匠がそんな……ちがうちがう。そうじゃない。そんなはずがない!

ブラック:………ひひ。

ミラ:違う、だって師匠は初めて会った時から(美しかった)

ブラック:初めて会った時?それってあのゴミ山でのこと?

ミラ:………え。

ブラック:寒い日だったね。アンタはいまよりもっと小さくて、もっと弱そうで。丸くなって震えてた。

ミラ:どうして、貴方が知って……

ブラック:それはもちろん、

魔女:ミラ!!

〇魔女がブラックの話を遮って駆けつけてくる。

魔女:どうしてこんな町の近くまで……!いやいい、帰るぞ!

ミラ:お師匠、さま……

ブラック:あーあ。もう来ちゃったの?

魔女:ブラック、お前のせいだな!お前がミラをっ!

ブラック:うわわわ、殴らないで。暴力はんたーい。

ミラ:……ああ。

ミラ:(M)お師匠さまの肩越しに、町の景色がよく見えた。ぐにゃりと曲がった人々の顔。ぼこぼこの地面。ベージュ色の皮膚をした小さな生き物が、上下にうごめいている。それに比べてお師匠さまは、本当に……

ミラ:キレイだなぁ。

ミラ:(M)そうして、僕は意識を失った。


〇場面転換

〇ミラと魔女の思い出。

ミラ:(M)むかし、お師匠さまに聞かれたことがある。

魔女:どこが綺麗なんだ?

ミラ:え?

魔女:お前からみて、私のどこが綺麗だ?

ミラ:え、っと。それはその――……

魔女:……言えないのか。

ミラ:なんというか全体的に?白い髪も褐色の肌も素敵だと思いますし、ただ特にと言われると、うーん……

魔女:そうか。……もういい。馬鹿なことをきいた、忘れろ。

ミラ:あ、目です!第一印象は目でした!

魔女:目?

ミラ:はい。

魔女:この不吉な、赤い目か。

ミラ:不吉だなんてそんな!お師匠さまの目は……そうですね、僕にとっての星なんです。

魔女:キザなことをいう。

ミラ:ええっと……僕を拾ってもらった時も、空に赤い星があって。覚えてますか?冬の寒い日でしたよね。

魔女:……ああ。

ミラ:このまま死ぬのかな、死ぬのはこわいなぁって空を眺めていたら、大きな赤い星が見えたんです。手をのばしてもつかめなくて。こうやって何もないまま死んでいくんだなって思ったら、師匠が僕をのぞいてきて。

魔女:あんなところにガキがいるとは思わなかった。

ミラ:貴方の目が、あの赤い星と重なりました。僕の手をつかんでくれました。あのときから、師匠は僕のお星さまなんです。一番きれいなお星さまです。……これもキザですか?

魔女:そうだな。

ミラ:すみません。

魔女:だが……お前はそのままでいいよ。

ミラ:(M)あのとき、師匠はどんな気持ちで僕にそう言ったんだろう。僕がみた星は、すべてまやかしでしかなかったのか。

ミラ:(M)僕には、なにもわからない。……わかろうと、思ったこともない。

〇回想終わり。


〇魔女の家にて。魔女がミラを介抱している。

魔女:……ミラ。

ミラ:お師匠、さま?

魔女:目がさめたか。

ミラ:ここ、は?

魔女:家だ。ブラックは帰らせた。

ミラ:…………

魔女:具合はどうだ?何か食べられそうか?

ミラ:…………

魔女:倒れて半日たつ。何か胃にいれたほうがいい。

ミラ:……お師匠さまは、僕をだましたんですか?

魔女:…………ミラ。

ミラ:僕をだますために、つれてきたんですか?僕の目は、ずっとこのままなんですか?

魔女:……ミラ、

ミラ:僕をひろってくれたのは、ブラックさんのためですか?ブラックさんが満足したら、僕は捨てられますか?

魔女:ちがう!それは違う!

ミラ:でも、ブラックさんは唯一のおともだちで……

魔女:気色の悪い勘違いをするな!あいつが何と言おうと私がお前を捨てることはない!

ミラ:……ほんとう?

魔女:本当だ。私がお前を捨てることはない。お前が私と暮らしたくないというなら……わかるが。

ミラ:……お師匠さま。

魔女:お前の目の話は……黙っていてわるかった。治るかどうかはわからない。……町を、みたのだろう?あれをもっと歪ませたものが、本来の私の姿だ。いつもお前が美しいといってくれる姿は鏡の魔力がみせるまやかしだ。鏡は美しさを反転する。だから、本当の私は……バケモノなんだ。

ミラ:……ばけもの。

魔女:……ああ。

ミラ:僕の目は……なおらない?

魔女:治るかどうかはブラック次第だ。契約すればあるいは……あいつは、悪魔だから。

ミラ:あくま……

魔女:ああ。

ミラ:………僕は、ここにいてもいいんですか?

魔女:ミラ?

ミラ:へんてこな目でもお師匠さまの役にたてますか?ぼくのこと捨てたりしませんか?

魔女:ミラ、おまえ……

ミラ:すてないっていってください。ねぇ、お師匠さま。おねがいします。僕の事捨てないっていってください!

魔女:捨てるもんか!ここにいていい。ずっといていいんだ。

ミラ:お師匠さま……

〇ミラ、すすりなく。

魔女:ああ、ミラ。かわいそうに……すまない。本当にすまなかった……

ミラ:捨てないでください。僕をすてないでください。

魔女:もちろんだ。ああ、ミラ。かわいそうに。

ミラ:(M)「かわいそうに」「かわいそうに」そう繰り返しながら、師匠は僕を一晩中なぐさめてくれた。「ずっとここにいていい」と、そう何回も約束してくれた。……あの美しい赤い目で、みつめてくれた。


〇場面転換。後日ブラックが訪ねてくる。

ブラック:それで、めでたしめでたし~ってか?張り合いねぇなあ。

魔女:うまくいってなかったら貴様など門前払いだ。

ブラック:ひひ、ちがいない。じゃあちびはここに残留?契約もなし?

魔女:永住。契約なし。

ブラック:つまんね~!

魔女:つまらなくて結構。

ミラ:あ、ブラックさん!

ブラック:おう、邪魔してるぜ。ちびは寝坊か?

ミラ:お師匠さまが今日は遅くていいって。

ブラック:ふーん?

魔女:……成長期だからな。無理するなといっただけだ。

ブラック:それにしても甘くない?仮にも弟子だろ?魔女の弟子って厳しく躾けるのが伝統じゃなかったっけ?

魔女:よそはよそ。うちはうち。

ブラック:へ~ずいぶん子煩悩になちゃってさぁ。

魔女:こ!?……用事があるので、失礼する!

ミラ:え!お師匠さまどこへ……も~ブラックさんったら……

ブラック:どうせすぐ帰ってくるって。

ミラ:困ります。今日は師匠がアップルパイをつくってくださる予定だったんですよ。

ブラック:そこらへんの草かじっとけば?

ミラ:え。ええ~……

ブラック:へらへら笑ちゃってさあ。あ~あ、つまんねー

ミラ:頬を突かないでくださいよう。

ブラック:せっかくここまで手間暇かけたのに……弱過ぎるやつはダメだな。

ミラ:え、えっと、すみません……?

ブラック:意味もわかんねーのに謝るな。

ミラ:はい……

ブラック:ちびっこさぁ、俺が憎くないわけ?アンタの目、そんなのにしたの俺ってわかってるんでしょ?っていうかあんなバケモノと一緒にいて幸せなの?

ミラ:僕、しあわせじゃないですよ?

ブラック:は?

ミラ:僕はね、かわいそうなんです。かわいそうだからお師匠さまは僕を拾ってくれて、かわいそうだから育ててくれた。それで今、こんな目のままでかわいそうだから、役立たずの僕を捨てないって約束してくれたんです。

ブラック:……だから、幸せじゃないって?

ミラ:幸せだったら、師匠はずっとここにおいてくれないじゃないですか。優しい人だから

ブラック:……っぷ。はーっはっはは!ひひひ、ひーひっひ。これはいい!傑作だな!

ミラ:ブラックさん?

ブラック:は~おもしれ。うんうん、やっぱ人間はこうじゃなくちゃな。俺、おまえたちが大好きだよ。

ミラ:ありがとうございます?

ブラック:おう、どういたしまして!その目捨てたくなったらいつでも言えよ。契約してやるから。

ミラ:必要ないです。

ブラック:だよな~!

SE:勢いよくドアの開く音。

魔女:うるさいぞ、ブラック!笑い声がドアの向こうまで聞こえてきた!

ブラック:よお、ホワイト。用事はもう済んだのかよ?

魔女:ぐっ……忘れ物をしただけだ!ミラ、早く来い。外で食べるぞ。ピクニックだ!

ミラ:はい、お師匠さま。……へへ、今日も世界で一番綺麗ですね!

〇おわり。