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inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

あかねいろ(25)彼女

2023.08.22 14:22

  

  立川にLINEを入れて、既読とオッケーぽい絵文字が来たことを確認し、スマホはポケットに戻す。彼女も同様に何やらスマホで連絡をしながら、校門を出て、ゆっくりと歩き出す。

    午後の空は午前中の青色とは違い、少し白みがかった水色になり、そこに、いかにも夏の名残のような雲が存在感たっぷりに湧き上がってきている。風はまだ無い。駅までは20分くらいかかる。

  話したことは、部活がどうとか、中学校がどこで、中学の時は何をしていて、誰を知っているかとか、知らないとか。特別なことは特になかったけれど、彼女の、少しきつめの、何か相手をせめているかのような口調に、初めは少しおどおどさせられたけれど、話しているうちに、合間に見せるはにかんだ顔にどきりとさせられる。

   モスバーガではチキンとポテトとドリンクを頼み、そこで1時間半以上を過ごした。たわいもない事がそれだけ話せると言うことはそれなりに意気投合としたと言うことだろう。夕方の4時前に別れる時には、来週の日曜日に通学定期の範囲の中の駅で、ボーリングをする約束をした。



  その後、僕にしては存外にうまく話が進み、初めてのデートでは、ボーリングをし、ピザを食べ、その次の週には映画を見て、そして同じ電車で学校に向かうようになった。7時44分の一番後ろの車両の一番前のドア。朝練をしない月曜日と水曜日と金曜日は、何もなければ一緒に電車に乗った。

  僕は、部活のことをたくさん話していて、どれだけラグビーが好きか、ラグビーがいいスポーツか、熱く話していた。彼女はそれに対して、それなりに興味を示してくれていて、見た事がないから、試合を見に行きたいと言うことになり、僕は10月の花園予選の3回戦を見にきて、と誘った。会場がそこそこ近かったのと、その試合はおそらく勝ちそうだったので。次のベスト16は相手が格上だった。



   部活の中では、僕が文化祭で彼女を作ったことには批判の嵐だった。いい意味で。特に初日の片付けを手伝わず、彼女と出かけたと言うのは2年生の先輩たちから、ことあるごとに突っ込まれた。ただ、男子校にはそのような話には免罪符があり、茶化しの対象であって、いわゆる敗者の僻みと言うところでしかない。その上、公式戦に彼女を連れてくると言うことで、さらに僕への批判は強まった。もちろん、試合に彼女を連れてくる人は何人かいる。でも、1年でと言うのは少し悪目立ちの感は否めなかった。ただそこは、しょうがない。見たいと言うし、僕も見せたかった。