Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

文霊 〜フミダマ〜

ShortStory【蝉たちのララバイ】

2018.08.11 08:37

【神奈川フォトグラファー佐伯昭宏アキちゃんの写真とのコラボで、Webグループ「世界を変えるデジタル書道倶楽部」内で上げてる短編小説 〜vol. 2〜】


〜◆〜


さてと…大樹の旦那、ちょいと場所借りるぜ。


しかし…噂通り、夏ってヤツはホント毎日暑いやね。人間達を見てるとホントに暑そうで、気怠そうに歩いてら。


え?何?俺の名前だって?


旦那、成虫になった俺達はあとわずかしか生きられねーんだ。そんな通りすがりの油蝉の名前なんざ聞いてどうすんだい(笑)

いいだろ?名前なんざ。旦那にしてみりゃ沢山止まる多くの蝉の中の、一匹の蝉だろ?しつこいな。そんなに気になるなら教えてやろうか。


俺はな…アブってんだ。なんてこたぁねぇよ。油蝉だからアブって呼ばれてきたんだよ。


誰にそう呼ばれてたかって?

俺にはさ…長い土ん中の幼虫生活時代に、二匹の幼馴染がいたのさ。そいつらに呼ばれてたのよ。


何せ暗い暗い土ん中だ。互いの姿はよく見えやしないが、一匹はヒグラシのメスでヒグミンって俺達は呼んでたよ。彼女の声は幼虫の頃からそう…なんつーかさ、高音の澄んだ声だったな。思えば土の中でも彼女と話してるだけで、俺は幼虫生活を頑張れた気がする。


初恋かって?旦那、馬鹿言ってちゃいけねー。

蝉って言ってもな、こんだけ種類も違っちゃけして結ばれる訳もねぇ。成虫になりゃ、互いのパートナーは同じ種類の相手を探しちまうわな。


でもまぁ…今だから言うけどな。確かに俺は彼女に惚れていたかもしれねぇな…


あ、もう一匹の幼馴染か(笑)

そいつぁミンミンゼミのオスだった。ミンタロウって呼んでいたよ。ガキの頃からうるせぇ奴だった(笑)俺は正直うざったいと思ってたのよ。


成虫になってからもあいつに付きまとわれてたらどうしようかと思ってた(笑)

でもな…腐れ縁だったかもな。あいつも。


もしかすると…あいつもヒグミンを好きだったのかもしれねぇな。俺がヒグミンと話してると嫉妬してるのが手に取るように伝わってたよ。

俺が逆にあいつに嫉妬してたかって?まさか(笑)

言ったろ?俺はちゃんと自分の分をわきまえてたよ。

少しはしてたかもな。


まぁ、何にせよ、いつも三匹一緒に過ごしてたよ。

何でかって?実は最初に物心ついた時はもっと幼虫仲間が沢山いたんだよ。同じ油蝉仲間もいた。ミンミンゼミもクマゼミも。ツクツクホーシのガキもいたな…


土の中も何かと危険は沢山あるんだ。

モグラやネズミもいる。もっと小さな「菌」って連中もな。気付くと残ってたのは俺達三匹だけだった。運が良かったんだろーな。

だから言ったろ?腐れ縁だったのさ、俺達は。


それぞれが夢を語ってた事もある。

三匹で鳴き声の合唱やれたらいいね、なんてな、彼女は言ってくれたな(笑) 


俺は断ったね。そりゃぁそうだろ。人間達の聴く音楽で言えば…そうさな、彼女はクラシックだ。ミンタロウの奴はロックだ。それに比べてどーだい?俺の鳴き声なんざ…ただジジジジ鳴いてるだけの演歌だぜ?


俺はコンプレックスだったのかもしれねぇ。てめぇの鳴き声がな。


ヒグミンは人間達に風情ある癒やしの声を届けたいって言ってた。

ミンタロウの奴は…とにかく暴れまくってやる!とほざいてたっけ(笑)人間共がうるせぇ!暑苦しい!と思う程にな。


俺か?俺は…正直、未来をどう思ってたかなんて考えてもいなかった。ま、なるようにしかならんって、最初から割り切ってたからな。


しかし旦那、いつもこんなしょーもねぇ身の上話を蝉一匹一匹に尋ねてるんかい?そうか(笑)暇なのか(笑)

ほう、枝にとまるのにいちいち声かけてきた蝉にだけ話しかけてるってぇ訳か。光栄だな。俺も律儀過ぎだったかな?

こんな老木の暇潰しに付き合うなんざ(笑)俺も酔狂な奴よ。


それからどうしたかって?ご覧の通りよ。運命の夏が来て、それぞれ成虫になってからは離ればなれさ。

今、あいつらがどうしてるかだって?

…おいおい。勘弁してくれ。俺はそれを話さなきゃなんねーのかい?


しゃあねーな。。。


俺たちにゃ体内の時計でわかるんだよ。「そろそろだな」ってな。成虫になる時が。もちろん体もデカくなってるきてるしな。殻の中で羽根がむず痒くなってくるんだ。

でも実際には、三匹とも同じタイミングじゃぁなかった。

ヒグミンが先に孵化する為に地上へ出ていったよ。

彼女は寂しそうに言った。「先に行くね」と。


木の根を登って枯葉の影から出てゆこうとした時、一瞬光が差し込んだ。

彼女の身体は白く透けて…そりゃ美しかったな。

彼女は振り向き、そしてまた言った。

「私は涼しげな森の中で鳴いてる。二匹とも…会いに来てね。そして必ず私を探して」

とな。


俺達は何も言えなかった。先に大人になってゆく彼女の後ろ姿をただ見送るだけだったんだ。


彼女から遅れる事4日。ミンタロウがついに孵化の兆しが。

「おい、先に行くぜ。運があったらまた会おう。この世でも、来世でも」

俺は言ってやったんだ。

「勘弁しろよ。俺はもうお前とはゴメンだぜ」って。

するとあいつ、こんな事を言いやがった。


「つめてーな。俺はお前達と過ごした土の中の数年の日々、絶対に忘れないぜ」


それまではな、俺は生まれ変わるなら人間がいいなって思ってたんだけどさ、生まれ変わってもまた蝉で、そしてこいつと一緒でもいいかもな、なんてつい考えちまった(笑)


だけどミンタロウが去った2時間くらい後に、ついに俺も羽根のむず痒さが頂点よ。いよいよ来たなって思った訳さ。


何せ、ミンタロウは先に成虫になり、ヒグミンがいる森を探しに向かってるかもしれねぇ。抜け駆けされてたまるかって思ったよ。


急いで地上へ登っていった。


ははは!旦那!まったく鋭いな!

あぁ、そうだよ!はっきり言おう、俺はヒグミンに惚れてたよ!

ミンタロウも親友とは思ってた。

でも負けたくなかった。

いや、負けててもいい。また三匹で集まりたかったんだ。そしていつか話した三匹の大合唱ってのをやりたかったんだよ。

もうその頃にゃ、てめぇの鳴き声が演歌だろうが何だろうが構わねぇ。てめぇの油蝉の運命は十分に受け入れてたからな。


話は戻っていいかい?長い時間をかけてやっと俺も成虫になった。

長い時間、一緒に過ごした幼い身体を脱け、てめぇの茶色に染まる羽根を見つめたよ。

長かった…そして大空を羽ばたける…そう思った時だった。頭上から助けを呼ぶ声がした。


「おい!アブ!助けてくれ!」


見上げると、デカい女郎蜘蛛の巣糸に引っ掛かっているミンミンゼミだった。そうよ。ミンタロウだった。


マジか…


蜘蛛はミンタロウの身体をグルグルと糸巻きにし、無情にも引き上げてゆく所だった。

俺は身体が固まったまま、動けなかった。まだ飛び立つ体力もなかったせいもある。しかしそれだけじゃなかった。そう、あれは恐怖ってやつだな…


「アブ!アブーッ!」


蜘蛛は俺に向かって言った。


「なんだい?お前。こいつの友達かい?助けられるとでも思ってるのかい?」


「蜘蛛さんよ!後生だ!長い土の中暮らしからやっと解放されたんだ!見逃してくれ!」


ミンタロウも叫んでいた。


「馬鹿言ってんじゃないよ。こちとらももう何日もエサにありついてねーんだ。お前を助けるかわりに俺に飢え死にしろってか?この世はね、弱肉強食は原則さ。恨むならてめぇの不注意を呪いなよ」


そんな事を言ってたな。

俺は羽根に力が漲ってくるのを感じた。そろそろ飛べるはずだ、と直感していた。それでもしばらくは動けなかったもんさ。


ミンタロウの身体は、巻かれた蜘蛛の糸でもう見える部分はなかった。やがて蜘蛛があいつのそばへ行き、口元をあてた。


「チクショウ!チクショウ!」


あいつの断末魔を聞いてるしか出来なかった。あいつの身体から命が枯れてゆくのがわかった。

俺はミンタロウを…ふりむきもせずその場を飛び立った。


どうだい?旦那。聞いててあんまり面白くない話だろ?だから言わんこっちゃねぇ。俺は話したくなかったのさ。

同情してくれるのか。ありがとよ。あいつも喜ぶぜ。


ま、三匹での合唱なんざ、永遠に出来なくなった訳だ。


え?ヒグミンのトコへ行ったかって?


それからしばらくは、森へなんか行けなかった。

ミンタロウを見捨てた俺が、ヒグミンのトコへなんか行ける資格がない…そう思ってたんだな。この辺をずっとふらついてたよ。


でもな…旦那。それから数日経って、やはりな、会いたくなっちまった…ミンタロウには悪いが、会いたくなっちまったんだ。


結論から言えば…行ったよ、森へ。そして探した。ヒグラシの鳴き声が聞こえる度に彼女じゃないかって…探しまくったよ。


みんな同じような鳴き声に聞こえるかもな。旦那にも人間にも。

でも俺にはわかるんだ。彼女の透明な鳴き声が。クラシックの響きの様な鳴き声が。


そうしてやっと…彼女の鳴き声を聞いた。間違いない。この鳴き声は彼女だ。向かって飛んで行ったさ。あと少しで辿り着くだろうかという時に鳴き声は止んじまったんだ。


それでも探したよ。森の中を。この近くのどこかにいる。ヒグミンが。この世で、もうただ一匹となっちまった愛する仲間が…


ある木に彼女はとまったまま、ジッとしていた。俺もそのそばにとまったよ。


「ヒグミンだろ?」


声をかけられて彼女は驚いた様だった。そして何も言わずに俺を見つめているんだ。


彼女は木の幹に産卵していた。苦しそうに卵を一つ、二つと、未来の夏へ残す命のバトンを木の幹へ刻みこんでいた。

俺はもう何も言えなかった。彼女も何も言わなかった。


ただね、旦那…その時俺はけして見知らぬオスのヒグラシが、彼女と交尾した事を嫉妬してたりしてたわけじゃねーよ。ただ…彼女がホントに神々しく見えてたのさ。わかるかい?旦那…惚れた女が新しい命を産み出す姿がさ…


なんて神々しいんだよ、まったく…


さて、野暮ったい話を聞かせちまったな。

彼女のその後?

わかるだろ?旦那も伊達に何十年、何百年と木の暮らししてるわけじゃあんめぇ。

ただでさえ彼女は俺たちより4日も早く地上に出てるしよ、そーゆー俺だってあと何日生きられるのかわかったもんじゃねぇ。


短命な蝉の一生なんざ、そんなもんよ。


え?何だって?また来世で三匹、人間でも犬猫でも生まれ変わって巡り会えるといいな、だと?

旦那、優しいねぇ。さすが伊達に大樹張ってる訳じゃねーんだな!


なぁ、旦那。

なんで俺達蝉は、あんなに長ぇ間土の中で過ごさせられて、成虫になってからの時間はこんな一瞬なんだろな。

旦那達にゃ想像つかねーだろ。


おっと、つい長居しちまったぜ。つまんねぇ話を聞かせっちまったな。

俺もよ、てめぇの寿命までやる事やりきらねーとな、あいつらに合わす顔立たねぇのよ。演歌でもいいからよ、歌ってくるぜ!


じゃあな!旦那!これからも一期一会の蝉たちを励ましてやっておくない!二度と会う事もないだろけどな、元気で過ごしなよ!


あばよ!


ギラギラと燃え盛る太陽の下、一匹の油蝉が飛び立っていった。