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inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

あかねいろ(26)最後の試合というのはこういうもの

2023.08.23 13:19

  

  試合の会場は僕らの学校からは1時間程度かかる県立高校のグラウンドで、彼女の家からだと30分くらいとそれなりに近い。県立の学校のグラウンドなので芝ではなく土で、スタンドはなく、3人がけのベンチが2本ずつ各チームの監督の場所として、サイドラインの横に置かれている。それでも、見にきている人はそこそこいて、父兄なども含めて、集まった6チームに対して200人を超えるくらいは集まっている。レジャーシートを持ってきている人以外は、試合中は立って観戦をしている。家族以外はだいたい女子高生だった。


    試合当日は、近くの駅で彼女と待ち合わせて、駅からグラウンドまでだけは一緒に歩いた。  彼女は一人ではなくて、あと二人女の子と一緒に来ていた。同級生、と言うことだった。会場校の校門に入ったあたりで、試合会場を伝えて別れる。試合までは2時間くらいあるので、「フラフラしてくる」と言う。よく考えれば、集合時間じゃなくて、試合開始時間に合わせて来てもらえればよかった。「ううん。別にいいの。気にしないで」と彼女は言う。多分、本当に気にしていないのだと思う。



  花園予選の3回戦は、この会場では今日は3試合が行われ、僕たちの試合は2試合目だった。1試合目は次に僕たちが当たるシード校の浅川高校の試合で、開始1分でトライが決まり、前半だけで40点以上の差がついていた。高校日本代表候補の福田が縦横無尽に走り回っていて、誰も止める事ができないので、逆にしんどそうだった。


  僕たちの相手は、同じ地区で何度か戦ったことのある私立の高校で、同じ地区ではそこそこのレベルではあるけれど、この地区の1番はうちか、杉川高校で、レベルとしては僕らより明らかに下のはずだった。当然、僕らも主たる目標は、次のベスト16で浅川高校と対戦すること、そこに向けられていた。

    そのためか、この試合に「かける」と言う意気込みが薄かったのは否めず、ここが勝負と決め込んできている相手に対して、序盤から押されに押される。特に今年のチームはFW戦では苦戦を強いられる事が多く、スクラムとラインアウトがうまくいかなくなると、強みであるセットプレーからのラインブレイクの機会が少なくなり、得点力が一気に落ちる。


  この日も、そのあたりは相手も認識をしていて、完全にスクラムを崩され、攻撃はアップアンドアンダーに徹してきて、僕らのバックスはほとんど出番のない試合になってしまった。FWはプレッシャーを受けて密集戦でペナルティを多発し、次のラインアウトでもプレッシャーをかけられず、相手はそのままFW周りでゴリゴリと攻めてくる。するとたまらずにペナルティを犯す。この連続で、陣地も取られ、トライも取られ、と言うまま前半が終わる。0対12。



  後半に向けては大いにカツが入れられる。大元さん以下3年生も大きな声を出す。グラウンドには番狂わせが起こる期待感が渦巻き、俄然空気が濃くなる。

  心機一転で臨んだはずの後半だったけれど、キックオフのキックはいきなりダイレクトでタッチをわり、センタースクラムになってしまう。そして、そのスクラムからの攻撃でまたしても僕たちはペナルティを取られる。そして、キックで22mに入られ、ラインアウトを押され、よく堪えたけれど、最後は10分くらいかかってトライを決められてしまう。0対17。

  空気は一気に相手に傾く。僕たちは声を張り上げる。「いける」「まだまだ」「これから」などなど。でも、その声はアウエイのスタジアムで叫んでいる応援団のようにかすかにしか聞こえない。  僕はフラストレーションでいっぱいになっている。

  僕だけではない。バックス陣は、ほとんど何もしていない試合展開にやきもきする。しかし、どうしようもない。次のキックオフでもボールは確保できず、同じような展開が続く。



  最後、スタミナの切れてきた相手に対して、僕たちは自陣からの展開攻撃で2本のトライを返す。初めからそうしておけばいいのにと言う思いがよぎるほど、気持ちよくトライまで行く。しかし、時間は不足している。2本返して、14対17のところでタイムアップ。相手の選手、監督、控えの選手たちがグラウンドになだれ込んでくる。僕たちはほぼ全員がグランドに膝をつく。