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inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

あかねいろ(27)「バックス、ごめん」

2023.08.24 12:59

  

  試合の終盤になると、グランドの外からは、僕らの控えのメンバーや谷杉から、怒号やら何やらが飛んでいて、最後までそれが続いていただけれど、試合の終了と共にその声はスイッチが切れたようにしゅんととなる。僕は試合が終わっても、これで先輩たちとの試合が最後なのだ、負けたんだ、ということがよくのみ込めなかった。だって、この試合は僕たちは何もしていない。何にもできていない。栂池であれだけやってきた練習は、何一つ形にできていない。もう一度最初からやりたい。きちんと心を整えて、最初からやれば、絶対負けるわけはない。



  沙織は、グラウンドのインゴールの奥の方のラインの向こうで試合を見ていた。どこまで内容が分かっているかはわからないけれど、思いもよらず負けたんだ、ということはきっと分かっていたのだと思う。

  試合が終わったあと、僕は彼女のことが目に入らなかった。頭によぎりもしなかった。ただただ、心がぽかんとしたまま礼をして、タッチラインの奥に引き上げた。 



   グラウンドの奥の方、高いフェンスの下で僕たちは無言で輪になる。谷杉は試合後の何やらで他の学校の先生たちと話をしている。大元さんも林岡さんも川下さんも、みんな、何も話さない。2年生の先輩たちは円陣を遠巻きに囲み、1年生はさらにその外側でどうしていいかわからず立っている。 

「バックスごめん」 

フォワードリーダーの川下さんが声を絞り出す。

 「フォワードのせいじゃないって。ちょっとなめてたよ。俺らが」

 大元さんがいう。そして、想いを決めたかのように立ち上がる。

 「今日で俺たちの代はおしまいだ。すごく残念な結果だけど、これはこれで俺たちの力だよ。誰のせいでもない。もっとできたはずという思いがいっぱいあるけど、どこかで、今日は勝てる、と思ってた。そういうのはだめんだなよな、やっぱり。一つ一つ、死ぬ気でやらないと。死ぬ気で準備しないと」 

大元さんの言葉は強く、けれど気持ちを押し殺しながら話をする。 

「3年間、花園目指してきたけど、まだまだ俺らはだいぶ力が足りなかった。でも、小川たちは絶対にもっと上を目指して欲しい。俺らのこの最後の試合のようなことがないように、もっともっと練習して欲しい」 

3年生で引退せずにきたけれど、直前の練習で怪我をしてしまい、今日は試合に出れなかった大原さんが少しむせぶ。 

「大原、ごめんな」

 大元さんが声をかける。それにつられて、2年生の小川さんもすすり泣く。

 「僕がうまくさばけませんでした。すいません」 小川さんの肩を川下さんが叩く。そんなことないよ、と。



   そうこうしているうちに、僕は感極まってしまった。みんなが何かを押し殺して話している姿を見て、突然号泣し出してしまった。膝を抱えて地面に座りながら、どうしても涙が止まらなくなる。僕が泣いちゃいけないと思いながらも、どうしようもない。

 「吉田、泣くなよ。お前がこれからバックス引っ張るんだからな。頼むぞ」

 大元さんが言う。そう言われるとなおさら涙が止まらなくなる。何も考えられなくなる。