下北山村のサポート体制について
下北山村の地域おこし協力隊、協力隊OBに対しての下北山村独自のサポート体制の制度が出来て実際に現場で運用されてから一年が経ちました!その新しい下北山村の要綱を作った役場の林業係である北直紀さん(写真右)地域おこし協力隊を卒業し下北山村で2022年4月に合同会社森のびを起業した安井洋文さん(写真左)のお2人に下北山村のサポート体制についてお聞きしました。
北さん、現在、主に下北山村で、地域おこし協力隊や協力隊OBに対してどのようなサポートがあるか、具体的に教えていただけますか?
山と森林を整備する人をつなげる
1)森林経営管理制度の活用
下北山村では、2019年より、森林経営管理制度(自治体が主体となって民間の人の山を管理していくという制度)を使って、山林所有者と村とで管理協定を結び、山を整備していく仕組みを作りました。森林を整備する人が安全に働ける山の現場を確保することにつなげています。山林所有者さんとの管理協定は10年間。10年間の間に、作業道を開設したり、間伐をする内容でお約束をしています。
山で安心して働けるように
2)重機のレンタル支援
森林環境譲与税を活用して、村で重機(バックホウ)を購入し協力隊を卒業したOBに対して、3年間 1日あたり1,000円での重機を貸し出す仕組みを作りました。理由として、自分で事業をしていくには、人件費の次に大きな経費がかかるのが「重機の機械経費」なので、初期投資の支援につながっていると思っています。
安井さん バックホウの支援はとても大きいです。もともと資金がある人ばかりではないので、お金がなくてもやる気がある人に対して支援があるのは安心です。とはいえ、ずっと補助があるのもよくないと、おもってやってはいます。
3)労働災害保険の加入助成
林業というのは危ない産業ですが、危ないなか、労働災害保険が産業によって掛け率が違うのですが、林業は他産業に比べ怪我・死亡が多いため労災の掛け金が高い状況です。林業をしていながら、保険に入っていない人もいたりします。村で林業に携わる人には、自分の身を守る、安全に作業してもらいたい思いがあります、もし何かあったときのための救済、仕組みの1つとして「労働災害保険の加入助成」を村で作りました、珍しいと思います。村の独自の支援策の一つです。
森にとっても人にとっても、無理のない森林整備へ
4)村独自の作業道の補助事業
奈良型作業道の開設(道幅2mから2.5m)について、奈良県が定めている標準単価の40%を村で補助する仕組みを作りました。
5)村独自の弱度間伐補助事業
既存の間伐補助事業では、20%以上の間伐に対しては補助があり、それ以下については補助がない状況。例えば、山に100本の木が生えていたら20本以上は伐らなくてはならないという既存の補助事業では決まりがあったのですが、下北山村では100本のうち10本もしくは15本程度伐ることでも補助を出す、「弱度間伐補助事業」をつくりました。
「弱度間伐補助事業」ができた経緯・背景は?
安井さん 間伐率はあくまでも結果であって、間伐率ありきで山の手入れをするわけではなく本来は、もっと山林の状況に合わせて柔軟に間伐をすべきだろうと思います。昨年、作業道を開設した山では、この弱度間伐補助事業を活用し10%の間伐をしました。
北さん 本来、10%から15%の間伐でいい山でも、補助金の関係で20%で伐っていたような状況がありました。木の状況によって、木が混んでいるところをいきなり20%も伐ってしまうと、風害のリスクになることもあるので、それぞれの山を見て、少ない本数の間伐もできるようにと作りました。
木材を利用していくために
6)小規模林業者への運材助成
村には製材所が1つあるので、村の製材所に村の木材を持っていくことで下北山村で、もっと木の製品にしたものを使ってもらえるよう、つなげていけるようにと「小規模林業者への運材助成」を作りました。村内の製材所や林産業をしている事業者に、施業者が木材を出材するときに1立米=2,000円 助成しています。木は重たいものなので、動かすだけでも機械やトラックが必要で経費がかかります。もともと、奈良県には、県産材生産促進事業という運材を促進する事業があるのですが、その対象は大きな事業者(認定事業者)しか補助を受けることができません。下北山村では、独自にこの制度からはもれてしまっている、小さな林業者を支援するために「小規模林業者への運材助成」を作成しました。
ハード面、ソフト面から6つの要綱ができて、協力隊や協力隊OBが、できるだけ働きやすい環境をつくってきたとおもいますが、これらの要綱を作った時に、苦労した点は?
北さん これまでも村での支援制度を考えて村の中で提案したことはありますが、実際に山を整備できる人がいない状況では話が通らなかったんです。協力隊として、安井さんが来たことでファーストベンギンではないけれど、自分がチャレンジしよう!という人が現れた時に初めてこれらの支援制度が役に立つ、実になるということだなと、山をやる人がいないと・・・実践者が現れたということで、いろいろなことが動き出しました、ありがたいなと思います。
安井さんがその要綱関連の基礎となるデータを取ったと聞いていますが、具体的にはどのような作業をしたのですか?
安井さん もともと林業の経験はありましたが、下北山村に来るまでは、バックホウにのった経験もなく、作業道をつくったこともありませんでした。
協力隊期間中(2年間)に学んだ素人同然の人が
・作業道をつくる為に実際にどのくらいの時間と経費がかかるのか?
・どの程度のクオリティの作業道を作れるのか?
という点について、作業工程別に細かいデータを集めました。
北さんは、安井さんのデータを元に要綱づくりに役立てたそうですが。
北さん これから、いろいろな人に向けて説明していく必要があり、村長をはじめ議会、村民さんに知ってもらうときに、安井さんが協力隊期間中に自分の時間を使って、実際どの作業にどのくらい経費がかかっているのか?というデータを積み上げたことが制度を作る上ではとても役に立ちました。誰もが数字をみて理解してもらうことができたのは、よかったと思っています。現状、木材売上だけでは収入が少ないので、いかに人件費や機械経費について、見える化しどのようにサポートしていけばいいのかがわかってよかったです。
これらの要綱の運用が始まって1年たち、思うことはありますか?
安井さん 大変ありがたい制度だなと思っています。でもこれに甘えてはいけない。この先、最終的には自立していかなくてはいけないとおもうので、考えさせられます。事業を始める、最初に支援いただけるのはありがたいです。実際に運用してみて、やってみなくてはわからないことは多いです。見えてきている改善点もあるので、しっかり北さんとコミュニケーションをとって、後に続く人にとってもよりよい制度にしていけたらと思っています。
村との協定を結んだエリア=PA(プランニングエリア)については、作業道のインフラを整えるところを村から支援していただき、その後は自立して柔軟に間伐したり、整備してさまざまなことに利用するようになれたらと思いますね。面白い視点を活かしながら、自立していけるようになればと思います。
北さん 支援の部分については、現場とコミュニケーションをとりながら、細かいところからよりよくしてけたらと思います。人によってもいろいろ違うので、何がいいか?というのは、人が増えていくに従って変わっていくかもしれないし、状況も変わっていくかもしれない。うまく運用していけたらいいなと思います。これからがむずかしく、これで終わりではないので気をつけてやりたいと思います。山を持っている人(山林所有者)も、山をやる人(施業者)も、森林も持続的にやっていきたいので。
これから続く後輩たちのことを視野に、この部分にもう少し支援があるとよいのでは?と思う点、どんなことですか?
安井さん 十分サポートしていただいていますが、携帯がつながらない山でも安心して仕事ができるように、通信環境の整備などの支援があると良いかと思っています。
話は変わって、、、
安井さん 昨年一年間、池峰のPAに森のびで作業道つくったんですが、北さんどうおもっていますか?気になっています。(ドキドキ)
北さん ええ道やなっておもいました。(笑)ジムニーって作業道を走る時は、運転しにくいんですが、登って急カーブのヘアピンのところでも、運転しやすかったです。森のび教室や中学生の総合学習で林業の勉強をするときに、子どもたちも山に入る機会ができてよかったです。
安井さんは、自分のペースでやっていっていると思いますが、これから年齢を重ねても、無理のないように、長く働いてもらえたらと思います。
安井さんがつくった作業道
安井さん 好きなことだからついずっとやってしまいますが(笑)道があって、重機があるというのは、体の負担は少ないので、歳をとってもやれるなあって思いますね。村に来るまでの林業とは、労働強度が違うので、、、
北さん 森林を整備する人も、できるだけ山主さんとは関わってほしいので、自分でプランニングして提案して欲しいと思っています。
安井さん 実際、現場での仕事をメインにしていて、事前の調査、提案から関わっていくというのは大事なことです。プランニングから施業まで、すべてやれる人は少ないかもしれないですが、山に入る前にこういった仕事があった上でバトンタッチして、やっと山に入って整備できるというのを知ることは大事だと思います。
北さん これからは、森林を持続的に管理していく、持続的につきあっていくためには、森林を整備する人は必要なので、村として引き続き支援をしながら、山を持っている人(山林所有者)も、山をやる人(施業者)も、森林も持続的になっていけるような村になったらいいなと、思います。
おわりに
下北山村で、自伐型林業をはじめて今年で8年目です。定住して、林業を主な生業として生きていくことの厳しさを感じながらも、あきらめずに少しずつコツコツと、地域おこし協力隊として来てくれた人と協力隊OBに対して村としてサポートする仕組みをつくったお2人。苦労もたくさんあったでしょうが、新しい仕組みをつくるという面白さは感じているのではないでしょうか?決して、今の現状に、満足することなく、よりよくしていく。これからのほうが難しいかもしれません。現在頑張っている、後輩たちが何をおもうのか?これからも下北山村の森づくりは、続きます。