ギリシャ神話の「月の女神」
https://www.youtube.com/watch?v=KaJUtySgO_g 【ギリシャ神話の三人の月の女神〜アルテミス、ヘカテー、そしてセレネの銀の舟】より
満月の前後は月がとってもきれいです。
そんな、きれいな月にちなんで、今日はギリシャ神話における月の女神についてお話してみます。
ただ、実はギリシャ神話の「月の女神」ってちょっとややこしいんです。
というのは、ギリシャ神話で「月の女神」とされる存在は複数いるんです。
古い時代の女神がいたり、本来は月の女神ではなかったのに後になって月の女神とされたりしていて、すっきりと「月の女神といえばこのひと!」って言えないんです。
そこで、今日は、そのうち三人の女神についてお話します…
…ええと、神様ですから、ひと柱ふた柱と数えるのが正しいんでしょうけど、どうもギリシャ神話の神さまたちというのは人間くさくて、つい、ひとりふたり、といいたくなっちゃうんですよね(;^_^A
なので、三人、でいきますね。
それは、ヘカテー、セレネ、そしてアルテミス、この三人です。
このなかでいちばん有名なのはおそらくアルテミスでしょう。
本来は弓と狩りの女神、そして純潔の女神でもあり、また同時に、狩りの獲物となる森の獣たちの守り神でもあります。
のちになって、あとの二人の女神と混同または同一視されて、月の女神とされるようになったのですが、その大きな理由のひとつに、三日月があります。
アルテミスがいつも携えていた弓。弓と三日月って似ていますよね。
なので、時として、三日月の弓を持つ女神と言われたり、三日月の女神、とされる事もあります。
アルテミスと三日月については、こんなお話があります。
ある夜のこと、一人の狩人が森の中で道に迷ってしまいました。
途方にくれていると、遠い山の上にかかる細い三日月のなかから銀色に光る女神が現れて、狩人にこう告げました。
「三ヶ月の太っていく矢の指す方向は、いつも西。満月を過ぎて、痩せていく月の矢の方向は、いつも東」
これだけ言い残すとアルテミスは幻のように消えてしまいました。
狩人には最初、意味がわかりませんでしたが、やがてハッと気づいて手を打ちました。
つまり、月は三日月から半月、満月へと、弓に矢をつがえて引き絞った形にふくらんでいきます。
そのつがえた矢の示す方向が西なんです。
そして満月を過ぎた月は反対側から欠けていきます。
痩せていく月を弓に見立てると、その矢の指す方向は反対側、つまり東になるんですね。
狩人はもう迷うことなく帰り道を急ぎました。
こうして狩人たちはアルテミスの教えどおり、月夜の森で道に迷うことはなくなったといわれます。
月の弓矢の道しるべ、というわけですね。
つぎに、ヘカテーについて。
この女神はちょっとマイナーかもしれません。
というのも、このヘカテーという女神、神話の物語にはあまり登場してこないんです。
古き神々の血をひく女神で、ゼウスでさえも一目置く存在だったと言われます。
ヘカテーは、そもそもは、エジプトで信仰されていた、出産をつかさどる女神が起源であると考えられているようです。
ギリシャにわたってからも、当初は地母神 、すなわち母なる大地の女神だったのですが、次第に、夜の女神、暗闇の女神とされるようになっていきます。
そしてその関係からか、冥界すなわち死者の国と縁の深い女神となっていきます。
時として、地獄の番犬ケルベロスを従えたおそろしい地獄の女神として描かれることもあります。
また、呪いや魔術を司る女神でもあり、魔力が集まる場所とされる三叉路や十字路の守り神でもありました。
このように、ヘカテーは、夜、もしくは闇を象徴する女神だったのですが、アルテミスやセレネと混同されて月の女神と呼ばれるようにもなりました。
月は、「満ちてゆく月」、「満月」、そして、「欠けてゆく月」という3つの姿を持ちますよね。
三日月、すなわち満ちてゆく月をシンボルとする、純潔の女神アルテミスにたいして、ヘカテーは、欠けてゆく月。破壊や消滅を象徴する月を司るとされることが多かったようです。
また、中世のキリスト教社会では「魔女たちの女王」であるとも言われ、魔女の集会であがめられていた、といいます。
ひじょうに興味深い女神さまですねえ。
さて、もう一人の月の女神、セレネです。
彼女は、月光すなわち月の光の女神でもありました。
セレネは先ほど言ったたように、月の光の象徴でした。
彼女は夜ごと、太陽の姿が西に沈んだあと、東の空に銀の船を浮かべて、静かに夜空をわたっていきます。
じつは、セレネに関する物語も、あまり多くは残ってないんです。
ですが、そのなかに、とっても有名なお話があります。
それは、セレネと羊飼いの青年エンデュミオンとの不思議な愛の物語。
ある晩のこと。
夜もだいぶ更けて、セレネの銀の船も天のなかほどにさしかかっていました。
女神はふと船の中から、地上に目を落としました。
すると、山の中腹で、たくさんの羊の群に囲まれた美しい青年がぐっすり眠っているのが見えました。
その青年は、羊飼いのエンデュミオン。
そのあまりに美しい寝姿に、女神は目が釘付けになってしまいました。
彼女は彼をもっと近くで見ようと、船を下界に近づけます。
もっともっと近くで見たい、と、セレネはとうとう船を地上におろし、さらに、船から下りてしまいます。
セレネはそっと傍らに近寄ると、眠りこむ青年の美しい顔をまじまじと見つめました。
その瞬間、セレネは恋に落ちてしまったのです。
エンデュミオンのとりこになったセレネは、つぎの晩も、またつぎの晩も、眠る彼のもとを訪れました。
セレネは眠る青年に口づけを繰り返し、かきいだき、そして、とうとう深い仲になってしまったのです。
そうこうしているうちに月日が過ぎていきます。
人間であるエンデュミオンが、永遠の命を持つ自分とは違って、いずれ年老いて死んでいく存在であることに耐えられなくなったセレネは、全能の神ゼウスの前に進み出て、エンデュミオンの永遠の命を乞い願いました。
その思いにほだされたゼウスは、その願いをかなえてやることにしました。
しかし、永遠の若さと引き換えに、エンデュミオンは永遠に眠ったままとなってしまったのです。
セレネは彼を、現在のトルコのあたりにあったといわれる、ラトモスという山の洞窟に運びました。
エンデュミオンはそこで永遠に美しい青年の姿のまま眠り続けることになりました。
セレネは夜ごと、エンデュミオンのもとへ通い続け、彼の夢の中に入り込み、夢の中での逢瀬を続けました。
そして、50人の娘をもうけたといわれています。
この、エンデュミオンが永遠の若さと眠りを持つに至ったいきさつについては、今お話したように、セレネがゼウスに頼んで不老不死にしてもらったという説と、もうひとつ、恋しい人とずっと一緒にいたいと願ったセレネ自身が、彼に永遠の眠りをあたえたのだ、という説もあります。
また、エンデュミオン自身についても、眠っているあいだに、つまり知らない間に、そのまま目覚めないようにされた、とう説もあるいっぽうで、セレネにかき口説かれて、「あなたとずっと一緒にいられるのなら」と、みずからすすんで永遠の眠りを受け入れた、ともいいます。
あなたは、どちらだと思いますか?
エンデュミオンは、いまも、ラトモスの山の洞窟に眠っているといいます。
そしてセレネの愛は、今も続いているんです。
空を行く月がラトモスの山の陰に隠れたら、それは、女神が恋人の元を訪れているからなのだ、といいいます。
さあ、今宵、かの地では月は隠れているでしょうか?
永遠に若さをたもったまま眠りつづける恋人を、夜ごとに訪ねる女神、セレネの銀の舟。
いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、夜空をみあげてみませんか。
Facebookバラ十字会日本本部AMORC投稿記事
「その昔、プロメテウスは人間を作ると、2つの袋を首に掛けさせた。ひとつは他人の欠点、もうひとつは自分の悪い所を入れる袋で、他人用の袋は体の前に据え、もうひとつは背後にぶらさげた。それ以来人間は、他人の欠点はたちどころに目につくのに、自分の悪い所は見通すことができないことになった。」(イソップ『寓話集』)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4581【プロメテウスの物語で重要な「火」と日本神話との違い】より
ギリシア神話の基本を知る(3)人間の創造をめぐる物語
鎌田東二京都大学名誉教授
情報・テキスト
ギリシア神話において人間の創造をめぐる物語の中で、今回注目するのはプロメテウスという神が粘土から人間を創ったという物語である。プロメテウスとはいったいどのような神なのか。また、人間をいかに創造していったのか。日本神話との相違点とともに具体的に解説する。(全5話中3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
人間 プロメテウス 物語 神話 ギリシア神話 日本神話
≪全文≫
●プロメテウスによる人間創造の物語
鎌田 次に「人間のはじまり」や「文化のはじまり」について語りたいと思います。
ユダヤの神話だと、神が人間を粘土(土)から創造するという物語が多いのです。ギリシアにおいても、そのような物語はあります。プロメテウスが粘土から人間を創ったという物語があり、それはメソポタミアにもエジプトにもあり、地中海世界全体に共有されている一つの神話素といえるものだと思います。
人間の登場をめぐる物語には大きく分けて3つあり、1つには(先述した)プロメテウスが人間を創ったという話が伝わっていますが、(そのほかに)これまでお話しした大地から自然に生まれてきたというものと、神々が創造したというものがあります。
プロメテウスという神ですが、意味としてはなかなか含蓄があります。「プロ」については、英語で「プロローグ」というように「序章」「はじまり」といった意味を持ち、「メテウス」は、「知恵を持つ」「見る」「知る」といった意味を持っています。ですからプロメテウスとは、「あらかじめ持っている知恵、先見の明」という意味合いになります。
その弟にエピメテウスがいます。プロメテウスに対してエピメテウスということで、「エピローグ」という言葉は「終章」「終わり」という意味ですが、プロメテウスが「先知恵、先見の明」だとすると、エピメテウスとは「後知恵、一番後から出てくる認識」ということになるので、結局はプロメテウスの二番煎じ、三番煎じのようになります。そのため、知恵としての一つの役割としては劣ることになります。
そのプロメテウスが人間の世界に先取りしていたものを与えたという話になるので、プロメテウスの話は非常に重要な意味合いを持っているのです。
そして、クロノスの兄弟にイアペトスという神がいます。クロノスは、タイターン族です。
―― 巨人族ですね。
鎌田 タイターン族で巨人族です。第2神権時代を支配したクロノスの弟イアペトスという神ですが、巨人族のクロノスの系統として、そこからアトラスやメノイティオス、プロメテウスやエピメテウスといった兄弟が生まれてきます。ちなみに、有名な「アトラス地図」という言葉があるように、天を支えるのがアトラスの役割です。
プロメテウスはそういった出自を持つので、非常に強烈で強力な力を持っています。そして、ゼウスに反対されるのですが、人間を創り、人間に大きな力を与えます。要するにプロメテウスが人間を世話するのです。人間に対していろいろな恵みをもたらします。神々の世界にあるようなおいしい料理や暖房などをもたらすために、火を天界から盗んで人間世界に与えます。この「火の使用」という物語が、ギリシア神話の中では非常に大きな意味合いを持っています。
●日本神話の「火」とギリシア神話の「火」の相違点
鎌田 日本では、イザナミが火の神を生み、ホトを焼かれて黄泉の国へ行きます。火を生んだために女神の命が失われたので、火の誕生は結構シリアスなものです。
―― そうですね。
鎌田 日本神話では、生と死を分けるもの、生と死のボーダーを生み出すものとして「火」があったのですが、ギリシア神話では、神々と人間をつなぐもの、そして人間世界に神の世界の力を与えるものとして「火」があったので、より文明的な火と考えられています。日本の場合は火山列島ですから、噴火するものが持っている力として、より自然界的なイメージで語られています。
その天界の火を、プロメテウスが人間世界に与えました。ところが、そこからまた次の展開になります。人間によい恵みを与えると、ゼウスがそれに対して妨害します。人間に悪いものを仕掛けるのです。
―― よいものを与えたから、今度は悪くしないといけないということですね。
鎌田 なぜそうするかというと、神のような力を持たれては困るからです。そこでも、神々と人間との間には歴然とした格差があるのです。日本の場合は、神々と人間との間に格差がありません。
私は子どもの頃、ギリシア神話と日本神話の共通点をとても感じました。しかし、今となってみると、確かに多神教で似ている神話素はいくつもあるのですが、違いも非常に大きいことが分かります。その大きな違いは、先ほど言った巨人の問題、あるいは下降史観であるということ、もう一つは人間世界に生まれてくる希望のようなものをどう捉えるか、という点です。
先ほど、プロメテウスが人間に恵みを与えたのち、ゼウスが妨害をするという話をしました。
プロメテウスが人間に恵みを与えたとき、(ゼウスが)どういう妨害をしたかというと、皆さんもよくご存じなのはパンドラの箱の物語ですが、そのもとがゼウスによって仕掛けられるわけで...