この夏読んだ夏小説紹介
こんにちは。
残暑ですね。9月ですが、表題見ていただいてわかる通り、このブログでは残暑を強調していきたいと思います。まだまだ暑い、秋は遠い。
さて、8/30、夙川公民館のホール(長年住んでいながらそんなものがあるなんて知らなかったくらいなんですが)では、地域学習推進員会講座「宮沢賢治の世界へ~詩と童話を中心に~」が催されました。講師はもちろん、我らが先生(=ポラン堂古書店の店主)でございます。
平日の昼間にも関わらず140人以上の方がいらっしゃり、先生お馴染みのレジュメとスクリーンを見ながら講義をきく、濃密な時間となりました。講座を終え、席を立って去っていく中に「久々に勉強したなぁ」という声が聞こえたのが印象に残っています。授業を受けるような時間、というと人によっては堅苦しく思われるかもしれませんが、その声の感じはとても好意的で、集中したなぁ、という達成感みたいなものに聞こえたのです。
講座の内容は、今までのブログでも賢治関連のイベントレポートで触れたものが多かったので割愛致します。どんな内容を話しているのか気になる方は「講演系のレポート」のカテゴリから2022/4/20更新の記事を読んでみてくださいませ。
それでは今回、どうしたって遅れてしまった感は否めませんが、夏小説の特集です。
昨年も6/29更新でポラン堂古書店の夏コーナー特集をしていますので、趣向を変えて、今年読んだ夏小説を3冊、おすすめしてみたいと思います。
賢治講座の話も致しましたし、最後にちょっとお知らせもあるので、記事のほうはさらりとミニマムにわかりやすく紹介したいと思います。
それでは参ります。
松家仁之『火山のふもとで』
さらりとミニマム、とか言ってごめんなさい。傑作です。
何故かまだ文庫になっていないので、『未必のマクベス』や『火蛾』の流れでそろそろ「文庫にしていなくてすみません」の帯をつけて文庫出版されてほしいものです。
時代は80年代、「ぼく」が新人として入所した村井設計事務所では、夏場、軽井沢の別荘地で仕事をする慣わしがありました。設計事務所の所長であり、作中は先生と呼ばれる設計家・村井俊輔の設計した別荘で、ご飯を作り、風呂を沸かし、一つ屋根の下で夏を過ごすのです。その年、彼らには他の設計事務所との「国立現代図書館」設計コンペ対決が控えていました。主軸となる従業員たちがデザインをぶつけ合いながら、議論を交わし合いながら、濃い青春のような合宿となっていきます。
所長も例外なくそれぞれに隠された背景や秘密があり、恋愛があり、互いの繊細な心象の機微が緊張感として重なっていくような関係性があり、何より食べることや寝ること、それこそ建築設計に関わるべき日々の何気ない生活があります。
帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトやストックホルム市立図書館を設計したグンナール・アスプルンドなど、実在の設計家や建築物、専門用語も出てくるので、必然として携帯で調べながらの読書となるのですが、そこも含めてすごく充実した時間でした。
人の営みや恋や普遍的なものを描いた傑作であると思います。今はハードカバーしかありませんが、見かけた方はぜひ手にとってみてください。
恒川光太郎『夜市』
夏の本紹介にはお馴染みと言わずと知れた名作ですが、私はこの夏初めて読みました。
面白かった。幻想の奥行きや感受性を震わせる描写に、卓越したものは勿論あるのですが、何よりストーリーが面白いので、これはどなたにでも薦められると思いました。
それほど太くない一冊ですが、表題作「夜市」と、それと全く遜色ない良作「風の古道」の2作が入っています。「夜市」は日本ホラー大賞受賞、文庫化した後も角川ホラー文庫ですから、ホラーが苦手な人には手に取りにくい印象を持たれるかもしれません。
しかし、それは勿体ない。驚かせてくるところ、心臓に悪いところなんて何もありませんし、単に、真面目に考えて、この作品嫌いな人や苦手な人がいるとは思えないんですよね。
「夜市」は大学生の男女二人が、岬の森の奥にある、妖怪たちがさまざまな品物を売る、不思議な市場を訪れる話です。この夜市の規則は、何かを買わないと出られないということ。主人公・いずみを誘った裕司は、幼い頃この夜市に迷い込んだことがあり、外へ出る為「野球の才能」の買ったのだと言います。持ち金が足りず、実の弟を売って。
再び夜市に訪れた裕司の目的、そしてそこから予想外の展開へ広がり、深まっていく物語。長年コアな読書ファン愛されている名作「夜市」、さらに恒川光太郎氏を好きにならざるを得ないもう一作「風の古道」、ぜひ未読の方は読んでみて頂きたいです。
若竹七海『クール・キャンデー』
NHKでテレビドラマ化し話題となった葉村晶シリーズでお馴染みの、ミステリ作家さんですが、今回紹介する『クール・キャンデー』は単品の作品です。
高校生の女の子の一人称小説ですごく読みやすい上に、分厚くなくて、さらっと読み進められるのですが、しかしながら、ですよ。ミステリの名手ですから。
誕生日の前の日の夜が一番好き、なんて語りながら寝っ転がっている主人公・渚のもとに、母親から、十四歳離れた兄の妻・柚子が病院で亡くなったことが知らされます。柚子はその数日前、彼女に迫るストーカーに襲われ、そのショックでマンションを飛び降り、病院で意識不明の状態でした。それほど気が合う関係ではなかったとはいえ、柚子を襲ったストーカーに怒りを覚える渚ですが、実は柚子が亡くなった同日、そのストーカーも亡くなっていたのです。真っ先に動機のある夫であり、渚の兄・良輔を疑い始める警察。兄がそんなことをしたはずがないと信じる柚子は、事件を調べるため動き始めます。
ここまでのあらすじを言えば、ホリー・ジャクソンの『自由研究には向かない殺人』のようなポップさと力強さがありますが、物語は勿論『自由研究~』とも異なる、予想もつかない方向にハンドルを切り、急にアクセルを踏み込んでくるのです。
渚の幼馴染であり、互いにつっけんどんな態度をとりながらも意識し合う忍との関係も可愛らしくて見所ですが、やはり何といっても余韻に残るのはラスト。
電車で読んでいたのですが、隣の人が驚いてこちらを見るくらい、ぶるっと身体が震えてしまいました。なるほど、クールキャンデーなわけです。
以上です。
まだまだ暑いですし、絶対に今から読むのも遅くないとは思いますが、予定が立て込んでいる方はまた次の夏の為に参考にしてもらえれば幸いです。
ポラン堂古書店の入口のコーナーも秋になっていますしね。
もちろん本なのだから、いつ読んでもいいとは思います。読みたいときに。
では最後にお知らせです。
昨年4月、ポラン堂古書店オープンの頃から週2回、昨年10月から週1回で更新して参りました、こちらのブログ「ポラン堂古書店サポーター日誌」ですが、今回で97回目となります。100回更新まであと少しです。
ということもありまして、一旦100回目をもって、このブログの定期更新を終了しようかと思っています。9月の日曜日があと3回なので、一旦そこで終わります。
一旦とお伝えしましたのは、以降もポラン堂古書店の応援をしていきたい所存ですから、何等かのイベントや企画があれば更新致しますし、ふらっと、記事にしたい内容があれば自由に書くつもりです。要するに不定期更新というかたちで、させていただきます。
また「ポラン堂古書店」の記録としても、おこがましいのを承知で本紹介のブックガイドとしても、今後も活用されることがあればいいと願っているので、ブログは残します。また、本の記事を探しやすくしようとも思っているので、その辺りはまたいずれ。
第100回の更新でもお伝えいたしますが、私が勝手に始めた「ポラン堂古書店サポーター日誌」にお付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。
残り3回、余力があって、時間があって、気が向いた方はどうぞ引き続き、よろしくお願いいたします。