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ジャズ評論家 後藤誠一先生18/08【九州ジャズもん列伝Vol.3】

2018.08.21 14:33

第3回九州ジャズもん列伝はジャズ評論家(注1)で、ジャズ・オーディオ界において「西日本にこの人あり」と評される後藤誠一先生。

医療法人 藤誠会 後藤クリニックの理事長・院長先生でもありますので「先生」と呼ばせていただきますが、今回、ある縁(注2)から後藤先生の貴重なお時間をいただけることになり、そのオーディオ・ルームでお時間の許す限り色々聴かせていただいてきました。

その感想は「これまで経験したことのない贅沢で豊かな演奏会」。

意味は後述いたしますが、この一言に尽きます。

まず何に驚いたと言って、それは、後藤先生の桁外れた「ジャズもん(注3)」ぶり。

生きている間にどれだけいい曲を聴けるか。

世界中で発売されている数多の音源から、これまであまり知られていないものの優れた演奏を探し出し、それを一人でも多くの人に紹介したい。

その優れた演奏を100%聴くために必要なオーディオ。

等々、嬉々としてジャズについて語られる後藤先生のお姿は、失礼ながら、無邪気なジャズ・おたく。。。これまでジャズ批評等にご執筆された文章を読んできましたが、これ程まで純粋にジャズ(音楽)への想いが強い方とは想像もしておらず、私の読解力不足と言われればそれまでですが、重ねて失礼いたしました。

そして次にわかったことは、後藤先生が超一流の「レコード演奏家」であること。

この「レコード演奏家」という概念は、私の敬愛する菅野沖彦先生がご提唱されたもので、その意味は「選りすぐった音源をその手塩にかけたオーディオ・システムで演奏し、客に感動を提供する達人」。

後藤先生がそのオーディオ・ルームで繰り広げられる演奏は、他に何の雑念もない超一流ミュージシャンの音楽そのもの。

しかも、1曲だけでも十分に感激出来る体験ですが、今回は信じられない特別演奏会!

膨大な音源に精通された後藤先生が、私と会話しながらその反応を見ながら、次の曲をご決定され、演奏。そしてその積み重ねの結果として出来上がったセットリストは、私好みの、でも、私の知らない名演・快演・驚演ばかり。

レコード演奏家・後藤先生に聴かせていただいた世界で唯一の「演奏会」。こんな贅沢で豊かな時間は、そう世の中にあるものではありません。とても貴重で一生忘れられない経験となりました。

それでは、オーディオ・マニアの皆様、お待たせいたしました。後藤先生のこのシステムが奏でる音についてです。

私がアヴァンギャルドのスピーカーを聴いたのは、東京・吉祥寺のメグさん、北九州・若松のELLE EVANS(エル・エヴァンス)さん、浜松のTournez La Page(トゥルネラパージュ) さんに続いて4度目でしたが、鳴らす人の感性・方向性によってここまで印象が変わるものかと改めて面白く思った次第です。

特にホーン型アクティブサブウーハーBASSHORNを3ペア(6本)導入されておられるという点ではトゥルネラパージュさんと同じなのですが、鳴らす目的・箱(部屋)の大きさがここまで違うと比較対象ですらなく、共通性を感じたのはその能力の高さだけでした。笑

これらのお店の中でも機器への投資金額においては、更に飛び抜けている後藤先生のシステムですが、かなり引き締まったハイエンド・オーディオらしい音が鳴っているとは言え、音自体に特徴がある訳ではありません。

ですので、今回体感したこのシステムの顕著な特徴は、過不足ない適度な音量で長時間、集中して聴かせていただいても、全く疲れないこと。(注4)(注5:オーディオ・マニアの方へ)

また、「過不足ない適度な音量」と書きましたが、ジャズの場合、我が家では絶対に出せないかなり大きなボリュームですし、それがうるさく聴こえないのもその特徴の一つ。

もし、オーディオの魅力の一つである自分好みの音色やその瞬間毎の音を目指しておられるのであればその印象を書くことも出来るのですが、「如何にしてそのCD等に入っている音源情報を100%取り出せるか」を目指しておられるこのシステムにおいては、楽器の音圧やふわっとしたホールトーンすらもその音源のとおりに表現されるだけ。強いて言えば「これが後藤先生の音」と表現しようのないことが、その最大の特徴かもしれません。

そして、「その原盤に入っている音楽をありのままに味わい尽くすためのオーディオ」という困難な道に人生をかけて挑んでおられる後藤先生のストイックなご姿勢には深く感銘を受けました。


あと蛇足ですが、人のオーディオについて色んな雑誌での紹介記事等を読んだり、噂を聞いたりして持つイメージなんてつくづくアテにならないこともよくわかりました。笑

元喫茶メグの店主にして、あの著名なオーディオ評論家 寺島靖国さんもよくこのオーディオ・ルームにいらっしゃるそうで、上の写真はその記念色紙の内の一枚。

そして、下の写真は寺島さん作「音の教訓10か条」ですが、その1の「腹が減っては~」の件はこのオーディオ・ルームで生まれた逸話だそうです。

それでは、今回聴かせていただいた演奏の中でも特に感動したものを3点だけ紹介いたしますが、ヴォーカルを聴いている時に後藤先生がおっしゃった「(その人の)人生の背景が歌に出る」というお言葉はとても印象的でした。(注6)

実際、今回色々聴かせていただいたヴォーカルの演奏の前にはその背景等について教えていただいたのですが、その知識の有無が観賞する上でとても大きな違いになることがよくわかりました。

まず、Dena DeRose(ディナ・ディローズ)の「We Will Meet Again」。

元々ピアニストだったディナ・ディローズさんが手を痛め、収入源がなくなるというピンチに陥った時に勧められたのが歌。これが大きな転機となり、大きく才能が開花したのがその歌からであったことを教えていただいてから始まったこの演奏。

歌に込められた想いがダイレクトに届くようなしみじみとした歌声と空間に立ち昇る無音の響きには完全にノックアウト。それにしても、最初のその情感のこもったピアノの響きの切なく美しかったこと!涙が出そうになるくらい素晴らしい演奏でした。

次はもう甲乙つけ難く悩んだのですが、Monica Manciniの「When October Goes」。

モニカ・マンシーニさんはあのヘンリー・マンシーニさんの娘ですが、アメリカの雪のちらつくような10月から11月という風景のイメージを教えていただいてから聴かせていただいた素敵な演奏。

「この曲は難しいかもしれないけどいい歌なので、山口葵さんあたりに歌ってほしいな!」と私の応援している福岡の歌姫の名前を挙げられ、嬉しくなったので、ご紹介した次第です。

最後は、Christian Mcbrideの「Cherokee」。

もし、この演奏会の最初から最後までこのようなスピード感のある切れ味抜群の演奏ばかりであったのなら、恐らく私は後藤先生のことをここまで敬服しなかったと思いますが(笑)、「締めの一曲」としては最高!後藤先生のレコード演奏家としての面目躍如の演奏。

恐らくはこのハイエンド・オーディオの一番わかりやすい魅力が発揮されたと思うのですが、もう聴き出したら止まらない爽快感。これは、単純に楽しい!

ちなみにこの後、何度もアンコールにお応えいただいたのは、後藤先生もノリノリ・モードに入っておられたからだと思われますが、その心底楽しそうなジャズもんぶりには、ありがたくも本当に頭が下がりました。

後藤先生は本当にお忙しい方で、寝る時間も惜しんで音源開拓や記事をご執筆されておられるにも関わらず、今回このような格別なお取り計らいを賜りましたことを心から感謝いたしております。

そして、くれぐれもお身体を大切にしていただきたいと祈念する一方、相反する願いではありますが、また演奏を聴かせていただく機会がありますことも心から祈念いたしております。

(注1)ジャズ評論家としては隔月誌「ジャズ批評」等にご執筆されておられますが、ジャズ批評では「Swingin' Beauties(ヴォーカル紹介)」を連載されておられる他、ジャズオーディオ・ディスク大賞等の選考委員長も務めておられます。

これはあくまで私の邪推ですが、その対談記事等から察するに、他の選考委員は海千山千の一家言をお持ちの方ばかり。その意見をまとめられるのは大変だと考えられた編集部が、後藤先生の温厚で紳士的なご人格を頼られて「委員長」をお願いされたのではないかと思った次第。笑

(注2)「縁・サーフィン」にまた新たな伝説が生まれました。今回全てのお膳立てをしていただいたA・Iさんは偶然、長崎・波佐見のダグさんでお会いした方ですが、ほんの1カ月程前の話。それ以来、インスタグラムで交流させていただいておりましたが、それがまさか今回のこんなスゴい経験につながるとは。。。A・Iさんにも深く感謝いたします。

ちなみにこのA・Iさんもジャズ喫茶/バーがお好きな方で、主に九州ジャズ・ロードを巡っておられますが、その巡り方はまさに「爆走」。。。「ジャズ・ロード弾丸ツアー」を提案・実施している私から見てもかなりクレイジーで、そのフットワークの軽さとタフさには驚くばかり。

そして、その頻繁にアップされるインスタは実に重宝で、懐かしいお店の今を見せていただいたり、新たに開拓されたお店の情報を教えていただいています。

【参考】A・Iさんのインスタのアドレス:randy_rhoads0511  

(注3)くまもん、わさもん、若もん等、熊本では最後に「もん」をつけて、どんな人かを表します(くまもんは違う?笑)ので、ジャズに狂っている人、人生を捧げておられる人を「ジャズもん」と呼んでいます。

(注4)今にして思えば、1曲毎に楽しい会話をさせていただいたことも、全く疲れなかった要因の一つかもしれません。

その中でこれまでのオーディオ遍歴もお聞きしたのですが、後藤先生が最初に導入されたオーディオはJBLの銘スピーカー4344とマッキントッシュのアンプ。北九州にあるマックス・オーディオさんから購入されたそうなのですが、音像の甘さが気になり始めたところからシステム改造が始まり、それ以来、約30年。今のシステムに至るまで、マックス・オーディオさんとのコラボで築き上げてこられたのだそうです。

ちなみに、最初のJBL4344は現在、今年の6月にオープンしたばかりのメモリーカフェ・オンさんというお店で鳴らされておられます。このお店はこれからますます増えて行く地域のご老人達の「認知症対策」として、みんなが集えるお店を作りたいという理念で出店されたそうです。ただ後藤先生のお店らしく、そのオーディオ・システムは実に奢ったもの。一般客も大歓迎とのことでしたので、ここに併せてご紹介しておきます。

(注5)「オーディオ・マニアの方へ」後藤先生によると、聴き疲れのしないオーディオのポイントは、マスタークロック(近傍位相ノイズ)とのこと。クロック精度を上げれば上げる程、自然な音、等身大の音に近づいていくそうです。

またオーディオでも、解像度を上げることが臨場感につながるとのこと。8K映像の例でご説明されたのですが、このシステムの音を聴きながらのご説明でしたので、実に説得力がありました。

(注6)実は「(その人の)人生の背景が歌に出る」という趣旨のお言葉はあちらこちらにご執筆なさっておられるので、後藤先生がそのようにお考えになられているのは知ってはいたのですが、やっぱりこのような場で直接お聞きすると全く重みが違いました。笑

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