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更夜飯店

ある子供

2018.08.20 06:08

ある子供

L'Enfant/The Child

2005年12月23日 恵比寿ガーデンシネマにて

(2005年:ベルギー=フランス:95分:監督 ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ)

前作『息子のまなざし』から、この映画まで、ダルデンヌ兄弟の観察する目というのは群を抜いていると思います。

もともとはドキュメンタリー映画を作っていた2人ですが、音楽を使わないという相変らずの姿勢には、観察する目には音楽はいらない、という自信が見えます。

とはいえ、この映画、一見、簡素でダイレクトなドキュメンタリータッチでも、入念に作り込まれた印象がとても強いです。

あくまでも、ケレン味のない普通の生活を追っているようでも、その映画の作りはとても丁寧で、入念。

盗品売買をしてその日暮らしをしている20歳の青年、ブリュノ。

この映画はブリュノの姿をずっと追っていて、その時別の場所では・・・という展開は一切ありません。

もうブリュノを演じたジェレミー・レニエ出ずっぱりであります。

盗品売買をして仕事には就こうとしない青年。そんな若者をはじき出す社会。将来の見えない毎日。それでいい、と思いこんでいる青年。

しかし、ブリュノと恋人ソニアの間に子供が産まれる。

ブリュノは認知はするものの、養子縁組と言えば聞こえがいいけれども、産まれたばかりの子供を盗品と同じように売ってしまう。

ブリュノというのは、子供なんです。体は大人で子供が持てるのだけれども精神的には未発達のまま。

そんな様子が丁寧に描かれます。

靴に泥をつけて、壁に足跡をつけるブリュノ。

短気で、金の交渉が出来ずに損ばかりしているブリュノ。

恋人ソニアに子犬のようにじゃれつくブリュノ。

しかし子供は、当然ながら物ではない。ブリュノは身から出たサビをいや、というほど舐めされられることになる。

その様子を淡々としながらも、突き放すでなく、甘やかすでなく、しかし底辺では優しい目で見つめるという視線。

観客はその視線の細やかさに引き込まれるように事の成り行きを見守る事になります。

ブリュノは、この「事件」で完全に大人になったとは思えません。

しかし、一緒に盗みをしていた少年の事を考える事が出来るようになった・・・それだけの進歩です。

ブリュノは、何があっても強気で、背伸びをしていて、自分の事ばかり考えている。親との短い会話の中で、もう子供の頃からそういう風にしてきたのだろう、とわからせるものがあります。

子供の親の自覚まではいかないけれど、あるひとつの目覚めをしっかりとした目でとらえて、映画にする。

カンヌ映画祭でグランプリを受賞しましたけれど、現実にしっかりと対峙する目、というものが評価されたのかなぁ、と想像します。