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愛より強い旅

2018.08.20 06:13

愛より強い旅

EXILS

2005年12月28日 渋谷シネ・アミューズ ウェスト(赤)にて

(2004年:フランス:103分:監督 トニー・ガトリフ)  第57回カンヌ国際映画祭最優秀監督賞受賞

映画では、自分探しの旅というのがよく題材にされます。

この映画の若いフランス国籍の男女もアルジェリアという場所に自分探しに行く、というのが私の想像なんですが、それがフランスからアルジェリアという風景と文化の流れ去って行く様子は、日本の描く「自分探しの旅」とは大きく違っているような気がします。

日本映画の自分探しの場合は、「家族」である事が多く、「民族」ではないです。そこら辺にヨーロッパ~アフリカという国を超えたひとつの大きなものを感じます。

(同じアジアでも韓国や最近の香港・中国映画では「民族」という括りがあるような気がします。地理、歴史的なものかもしれませんが)

この映画では、身近なものというより、もっと大きな原始的なものへの回帰まで行ってしまっているような感じを受けます。

この映画の原題は、英語で言うと'exile'・・・追放、流罪、追放された人、亡命者、だそうです。

亡命、追放・・・された人々が、行き先を求めてそして、帰還する、という壮大なテーマがバックにあるようで、これは、過去、トニー・ガトリフ監督が描いてきた、ロマというジプシーの人々の姿の変換です。

しかし、この映画では、2人共、フランス人ですが、やっぱり心のどこかにある自分のルーツを見つけよう・・・金のない放浪に近い旅が始まります。

しかし、男性(ロマン・デュリス)の家族、祖父が死んだ場所へのルーツ探しから始まるのですが、本当は女性(ルブナ・アザバル)の方のルーツ探しなのではないか、と思いました。

原題が複数形になっているし、1人のルーツではなく2人のルーツなのです。

この女性、ナイマは映画の冒頭では、何も考えていない、頭も尻も軽いような女性として描かれます。

ベッドで裸で、べた~としたチーズのようなものを、汚く食べながら、男性、ザノがアルジェリアに行こうと思う、という告白を笑いとばします。

しかし、フランスからスペインへ、モロッコへ、そしてアルジェリアへ・・・と旅する内に、ナイマの聡明さや抱えている苦悩が浮き彫りになっていきます。

アルジェリアへ行こうという2人が出合う人の中には、逆にアルジェリアから、新天地、仕事、裕福さを求めてフランスへ旅する兄妹がでてきます。すれ違う追放者たち。

しかし苦労の末にアルジェリアにつくと、ナイマは「自分の居場所がない、落ち着かない」という不安にかられてしまうのです。

それを払拭するのが、アルジェリアの音楽儀式なのですが、本当に全身全霊を持って行かれるようなラスト近くのトランス状態。

なんか毒がどんどん体から抜けていくようなシーン。 それを強烈な音楽で表現しています。

フランスにいたときは、テクノを聞いていた2人は、スペインでフラメンコ・・・といった具合に音楽の旅も体感して行く。

音楽は全て、トニー・ガトリフ監督が監修していて、こだわりは相変らずです。ジプシー音楽からもっと広い音楽の世界へとつながっていく。

また男性と女性の愛し方もエデンの園のアダムとイブみたいで、おおらかで、大胆な描写が多いです。

淫靡という印象が全くありません。かくれてあわててこそこそ・・・みたいなものがなく、自然の欲求のままに求め合う・・・というストレートな描写にも、文化の違いを感じました。

そんな所は、びっくりすると同時にとても興味深いです。

主演のロマン・デュリスという人は、過去の作品を観ると『猫が行方不明』のドラムの男性とか、『スパニッシュ・アパートメント』の大学生とか・・・で、今年では『ルパン』でアルセーヌ・ルパンを演じていました。ヴィンセント・ギャロよりは健康的で、昔のフランス俳優からしたら現代的な青年ですね。 旅する内にどんどん汚くなっていくけれど、どんどん人間的には熟成していく・・・そんな印象を受けました。

フランスは植民地政策で、アフリカの国々を植民地化した。しかし、そのことで自分の土地を離れざるをえない、または、植民地で苦労したあげく死んでしまうザノの祖父のような人々がたくさんいたはずです。

2人の行く先では大体のフランス語が通じる・・・という所でわかるのですが、2人の男女を通してフランスの大きな原始的なものへの回帰を、大胆かつ繊細に描き出したトニー・ガトリフ監督の視線は、聡明さと思慮深さに満ちています。

そして映像も、光り輝くような明るい日ざし、逆にアルジェリア地震の傷跡に容赦なく太陽が照りつけて、水のない世界を映し出す。

そんな自然の豊かさと貧しさを丁寧に拾い上げ、、土や植物といった自然の透明感あふれる、これまた原始的な映像の豊かさも見逃せません。ザノが明け方の広場を1人歩くときの、たくさんのビール瓶を蹴りながら歩く姿・・・そんな寂しげな映像にも美しい音楽的なものをしっかり出しています。

この映画はとても深いものを感じてしまったのと、あまりにもフランスの文化については日本人の私には情報・知識不足な所があって、フランス語やフランスに詳しいfrenesieさんに色々と教えていただきました。