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WUNDERKAMMER

見えない骸骨

2018.08.20 06:15

今の学校って七不思議とかってあったりするの?

花子さんとか、目の動くベートーベンとか。

俺が小学校の三年くらいまで通ってた学校にはあったんだけどさ、

七つ知っても呪いがあるとか、そういうのはなかった。 

で、耳にする七不思議もありきたりなやつ。

さっきの2つとか、 深夜にランニングしながら爽やかに挨拶する二宮金次郎像とか。


でも、一つだけ異色なやつがあった。

それが、『中庭に転がる見えない骨』ってやつ。

俺が通っていた小学校には、中庭があったんだけど、

妙に薄暗くてムシムシするところだった。

その中庭には、木に囲まれた小さな池があるんだけど、その池の前に、

人の目では見えない人骨が転がっていて、

それに躓くと消えてしまうだったか、氏んでしまうとかって話だったと思う。

で、俺はこの不思議を目の前で体験したことになるんだと思う。


俺には物心つくぐらいから仲良くしてて、小学校も同じになった友達が3人いた。

名前はA,M,Kにしとく。

で、仕切り屋っていうか、俺たちのリーダー格だったAが、昼休みに中庭に行こうって言い出したんだ。

何でもサッカー友達から、中庭の池にはザリガニがいるって話を聞いたらしく、

釣りに行こうという話だった。

その時には俺も七不思議のことは知っていたんだけど、

そういうのってまだ疎かったっていうか、信じてなかったっていうか。

とにかく二つ返事でついていったんだよ。

昼休みに一人でいるのも嫌だったしね。 

MとKもすぐにOKを出した。

Kなんか、じゃあ餌に給食残しておかなくちゃな!とか言っちゃってすごい張り切ってた。


そして、昼休み。

Kは自ら率先して餌持ち。

Mが図工室から竹串貰ってきて(適当に理由つければもらえた。作りたいものがあるとか)中庭に向かった。

中庭は確か基本的に子供だけの立ち入りは禁止で、

先生がついていないとダメだったんだけど、

別に鍵がかかってる訳じゃないからすんなりと入れた。

今思うと、あんだけ中庭を囲むように窓がついてて、

昼休みだから校舎内は賑やかだったのに、よく誰にも気づかれなかったと思う。 


目的の池はすぐに見つけられた。

Mが「先生なしで入るって楽しいな」みたいなことを言ったら、

Aが「先生いたらザリガニなんて釣らせてもらえないだろ」

って返したのは覚えてる。

何を思ったのか、俺の隣を歩いてたKがいきなり池に向かって走りだした。

いきなりのことで俺も他の二人も反応できなかったけど、すぐにはしゃいでるんだなって思い直した。


で、そのKが、池の前で躓いたんだ。

本当に、なんにもないところで。

足がもつれたのかと思った。

結構勢い良く走っていたし、これは池に飛び込むなって思った。

先生にすごく怒られるなーとも。 

でも、池にKが飛び込む音はならず、水しぶきすら上がらなかった。

消えた。

ホントに、なんというか、パッと消えた。

動画とかであるでしょ?

人が写ってる映像と写ってない映像をつなぎあわせて、人が消えたり現れたりするやつ。

あんな感じ。

本当に、なんの前触れもなく消えた。

俺は焦った。

というより、すごくパニックになってたのを覚えてる。

前を歩いていたAの肩を掴んで、「Kは?どこ?どこ行ったの?」

みたいなことを言った。


おかしなのはここからだった。

AとMはパニックになってる俺を不思議そうに見つめてから、顔を見合わせた。

そして、Mが言った。

「K?誰それ」 


驚いたというか、呆然としたというか。

とにかく、俺は耳を疑ったよ。

さっきまで一緒にいたヤツのことを、誰?って

そりゃねーだろって。

でも二人は本当に知らない風で、

Aなんか苦笑して、「え?俺ちゃんの友達?一緒に来るはずだったの?」

とか言ってきた。

俺はもう訳がわからなくなって中庭から飛び出した。

そこを先生に捕まった。俺たち4人の担任の先生だった。

「こら!そこに勝手に入るなって言ってるだろ」

「先生!Kが!Kがいなくなって!」

「K?」

不思議そうに先生はつぶやいて、中庭に入った。 

それから中庭を見回して、

「またお前ら3人か。本当に色々やらかすな」って笑ってた。

気まずそうに目をそらすAとMを尻目に先生はもう一回中庭を見渡して、

「で?そのK君って、どんな顔してるの?」って言ってきた。


この時の俺のパニックっぷりったらなかったみたいだ。

なんか絶叫しながら廊下を走り去ったらしい。覚えてないけど。

俺が次に覚えてるのは保健室で、泣き疲れて落ち込んでるところだった。

休憩時間にAとMが迎えに来て、心配してくれた。「大丈夫か?」って。 

で、保健室から出た後、俺は妙に頭の中がすっきりしてて物事を冷静に見れた。


まず、Kがこの学校にいた痕跡は何もなくなってた。

ロッカーに名札もないし、ランドセルもない。

クラスの集合写真もKがいたはずのところは詰められて撮影されていて。

本当にKはいなくなっていた。

記憶にないんじゃなくて、いなくなっていた。

俺は次に、Kのお母さんに聞いてみることにした。 

母さんが今度K,A,Mのお母さんを集めてお茶飲むって言い出して、都合がよかった。


その当日、俺はそれとなく、Kおばさんの前で、

「ねえお母さん、Kおばちゃんの家に、俺くらいの子っていないのー?」

とか言った。

そしたら母さん、「何いってんの、Kさんの子供は、あの子だけよ」って言って、

Kおばさんの抱いている赤ちゃんを撫でた。

Kおばさん自身も苦笑して、「もうちょっと早く欲しかったんだけどねー」

って言った。 


今やK宅とは年賀状程度のやり取りすらやらなくなり、その後あの家族がどうなったのかわからない。

ただ、俺の記憶にあるKは弟も妹がもいなかったはずだ。

Kがまだいた時に彼の家に遊びに行った時、赤ちゃんがいたなんて記憶はなかった。