世界
世界
The World
2005年11月10日 銀座テアトルシネマにて
(2004年:中国=日本=フランス:133分:監督 ジャ・ジャンクー)
やっとジャ・ジャンクー監督の映画をスクリーンで観る事が出来ました。
流れが止まってしまった川の流れを映して見せる、という雰囲気が独特。
話ははきはきと進まず、むしろのろのろしているけれど、そこに漂う雰囲気や空気は、空しくそして考えさせられるものをたくさん持っています。
北京郊外のアミューズメント・パーク「世界公園」
ここには世界の建物、ピラミッドやエッフェル塔などが10分の1の大きさで再現されていて、一日で世界を回れるというのがキャッチフレーズ。
そこでダンサーとして働くタオという女性を中心に、広い世界を真似した狭い世界の中で、自分の居場所を定められないまま流されていく不安を描き出します。
ダンサーとしてステージに上がる時は、きらびやかな衣装、また、世界公園の中では、スチュワーデスの制服を着たり、日本の着物を着たり・・・と一見、華やかな仕事に見えるけれど、楽屋は狭く、仕事が終われば女子寮もまた狭い。
そして恋人の公園の警備員のタイシェンとの関係もはきはきとしない、なんだか、歯がゆい関係。
タオは、しっかり者なので姐さんと慕われているけれど、内心の不安は常に抱えている、世界が集まっているこの場、この世界が息苦しくてたまらない・・・という声に出さない不満が常にある。
けれども、タオはめげることなく、周りが移り変わっても世界公園のステージに立つ。そんな女ひとりの孤独と強さが同時に出ているのがとても良いです。
スカイラインという公園内のモノレールが出てきますが、これが、のろのろ、たらたらゆっくり動く。タオの移動手段はこのスカイラインです。
そして、この映画でたくさん出てくるのが携帯電話。
広い世界で携帯電話を常に持っていて、誰かと接触していたい、という気持ちが、切ないような。
屋上で、飛んでいく飛行機を見ながら、自分の知らない本当の世界に思いを馳せるシーン、きらびやかな衣装を着ながらも憂鬱で、そんな時、背景のエッフェル塔から見事な緑色の水の噴水が出る鮮やかな色使い。
憂鬱と不安と強さを、色を印象的に使ってみせる、そして最後の「これからが私たちの世界の始まり」という言葉の深さ。
タオの世界は、誰もが持つ「自分の世界」・・・自分の世界に満足している人はその狭さがわからない。また他の世界にも興味がない。
しかし、自分の世界に疑問を持つ人は、他の世界を見たいと思う、他の世界に行ってみたいと思う・・・そんな願望が「世界公園」という設定に上手くマッチしていました。アイディアが秀逸です。