あひるを背負った少年
あひるを背負った少年
Taking Father Home(背鴨子的男孩)
2005年11月25日 有楽町朝日ホールにて(第6回東京フィルメックス)
(2005年:中国:100分:監督 イン・リャン)
コンペティション作品*審査員特別賞受賞*
最初におことわり・・・この映画は、私が開映時間を勘違いしてしまい、最初の15分程を見逃してしまいました。普通の公開映画だったら迷わず、次の回にするところですが、上映がもうない、ということで途中から観ました。だから、感想を書くべきではない、と思ったのですが、自分の観た範囲での感想ということで書くことにしました。最初の部分は観た方から、後から聞きました。
イン・リャン監督が、資金のない状態の中で、知り合いの人に出演を頼み、DVで撮ったインディーズ映画です。
中国の農村の17歳の男の子が、都会に出てしまったままの父を捜しに行くという話です。
背中に駕籠をしょって2羽のあひるを連れた少年は寡黙に街で、父を捜します。親切なおまわりさんが、最初は「帰れ!」というものの、結局、父親探しに協力していく・・・・
この少年が寡黙だけれど、頑固です。なにがあっても言うことを聞かず、自分のやりたいことを貫く。
この少年の頑固さが、厳しい撮影状況にもかかわらず、映画を作り上げた監督の強気な部分のような気がします。
1シーンを長回しで撮っていて、緑や赤(少年はまっ赤なシャツを着ている)のコントラストが大変美しく撮られています。
街を歩いているときにすれ違う、まっ赤な大きな2つの灯籠?の美しさ。川に流れ着いた大きな仏像の不思議さ。
何かあると脱兎のごとく、走り去ってしまう少年ですが、いつも背中に白いあひるを背負っている、というのがちょっとしたポイントになっていました。
このあひるは、資金がない為、ずっと同じ2羽を使ったそうですが、だんだん演技が上手くなり、少年が走る背中で、ばっさばさにゆられて、地面に転がり出ても、どこにも行かず、つぶらな瞳で、ぼ~~~っとしていられる演技派あひるなのでした。
この少年が出てきた街は、水害の多い都市で、街では大雨による洪水避難勧告が常に出されています。人々は、避難の準備にあわただしく、緊張感があふれていて、そんな中、少年は父を捜さなければならない。洪水が起きてしまいそうな、緊張感のあふれる街で、捜し物をする少年、ますます、強気です。長回しを使って、洪水が来る街をじっくりと見せる、雨のシーンは本物の雨が降るのをひたすら待った、という事だけあってとてもリアルな大雨で本当に、洪水、大丈夫かなぁ、と心配になります。
しかし、やっと父を見つけた少年のとった行動とは・・・監督によると自分自身の父への決別、という意味を持っているということですが、街で金儲けの幻想にとりつかれてしまった父の生活は少年を幻滅させます。都市と田舎の経済事情の格差、そんなものが見え隠れします。
田舎に帰った少年は、工業団地の為に畑を失い、もっと山奥の農村に引っ越すことになりますが、そこでもまた工業団地が出来たら?という少年の言葉に「そうしたら、また別の所に引っ越すのよ」という母の声がかぶさります。
新しい中国(金儲けの為に街に出て行ってしまった父)とその変化についていけない中国(農村の暮らしに固執する母)の姿。
そんな両親のどちらにつけばよいのかわからず、やみくもに歩き回る息子。その背中の駕籠の中で、無邪気なつぶらな瞳のままの白いあひる・・・象徴的な物が、たくさん出てくるのですが、これ見よがしな主張はなく、静かに強気・・・そんな印象を受けました。