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更夜飯店

いつか読書する日

2018.08.20 21:02

いつか読書する日

2005年10月6日  渋谷ユーロスペースにて

(2004年:日本:127分:監督 緒方明)

良き大人の日本映画。静かで、でも秘めているものは激しくて、出てくる人たちの気持ちの流れと風景が綺麗に一致して、途切れることなくスムーズに流れていって。

楽しいことも、いやらしいことも、つらいことも、苦しいことも、昔のなつかしい思い出も・・・すべて自分の中にしまっておける大人たち。

それが、表情や言葉に出たり、出なかったり、逆に苦しいのに笑顔を見せてしまったり。

夢を追いかけるのではなく、夢の中で生きているのではなく、夢をあきらめているのではなく、しっかりとした日常生活を丁寧に見せながら「夢」を追求する瞳。

50歳で独身で狭い階段の多い長崎の街で、朝は牛乳配達、昼はスーパーのレジをしながら、一人暮らしをしている大場美奈子(田中裕子)という女性。

何があっても嫌な顔をしないけれど、逆にうかれたような顔もしない、どちらかというと無表情。キリリとした凛としたたたずまいをしています。

この無表情の実に表情豊かなことにびっくりします。

ただ仮面のように表情が動かないのではなく、微妙に表情は変わる。

牛乳配達をしている時、レジをしている時、近所の親しい老夫婦と一緒に食事をして、話をするとき、そして高校時代からずっと想ってきた人と狭い街で顔をあわせてしまう時。

お気楽な端の人から見たら、「何が楽しくて生きているのかわからない」・・・そんな女性のあり方というのを、言葉で語らず、映像で、表情で表現してみせる。

女ひとりで生きていくのには、どれだけの心の負荷が大きいのか・・・ということを静かに語る。

緒方明監督は前作、『独立少年合唱団』でも、「ひとりで生きていく」ということを少年に語らせていましたが、少年でも50歳の女性でも、「ひとりで生きていく」ということに向き合う気持ちは同じです。

1人じゃなにもできない・・・だからある種の動物たちは群れを作って生きていくのです。

人間もその動物の一種ですが、そこに「寂しい」という気持ち・・・とってもわがままな気持ちが出てきてしまう。

寂しい寂しいと群れの中で、ただ闇雲に訴えてた所で、応えてくれる人は少ない。

だからますます寂しい、寂しいと声を上げる・・・そんな愚かさを一蹴するような、田中裕子の表情。

そして岸部一徳演じた、美奈子の秘めた想い人が、美奈子の見事な本棚を見た時の一瞬の表情で、「今までの美奈子」を理解する、というあたりは、出てくる役者さんが皆、上手いのです。

ひとりで生きていく・・・それを受止める。美奈子の人生はとても豊かさに満ちているように思えてきました。