STOMPの愛しの掃除機
STOMPの愛しの掃除機
Stealing Bess
2005年10月10日 渋谷シアターイメージフォーラムにて
(2002年:アメリカ:94分:監督 リューク・クレスウェル、スティーブ・マクニコラス)
STOMPというのは、この映画の監督でもある2人のイギリス人が、始めたパフォーマンスのことです。
楽器ではなく、ごみバケツ、デッキブラシ、ライター・・・手にできる全てのものでリズムを生みだしていくというパフォーマンスで、後にアメリカにSTOMPは広がり、ヨーロッパにも広がっていくというものです。
予告編とこのタイトルからするとそのSTOMPが十分堪能できる、STOMPを見せてくれる・・・映画のように思えますが、意外と原題のStealing Bessのほうがしっくりくる、ちょっと寓話、童話的な世界なのでした。かなり脱力ものの世界でもありますね。
『チャーリーとチョコレート工場』みたいな感じです。
ありえないこと、大まじめに作ってくれる、というか・・・
産業スパイのダーク・ベントリーが、受けた仕事は、今、世界に一台しかないというJJヴァキューム社の掃除機、ベスの設計図を盗むこと。
ベントリーは息子のジャックをベスを製造した工場へ送り込む。
しかし、工場が問題。今や、先代JJが亡くなって犬猿の仲(実はそっくり)の兄弟(AJとDJ)が工場を2分割して、町まで2分割になって、ベスを盗みあって敵対関係になっている、何から何までAJとDJは敵対している。
ジャックは、どうにかDJ工場に入りこむけれど、塀ひとつで区切られている工場で見かけた敵側、AJ工場のデビーに一目惚れ。
もともとぼ~っとしたただの青年、ジャックをスパイに送り込む事が間違いなんだけども・・・ジャックは「それなり」に奮闘はします。
それが、なんともゆるくて・・・かわいいような、脱力もののような。
毎日のように、隣り合った工場では、ベスを奪回しあっている・・・異様な状況に目が点になるばかりのジャック。
この目が点になるようなあれこれっていうのが、実に細かくて楽しいですね。
相手の工場への嫌がらせは腐った魚を、窓の所にもっていって臭いに逃げまどう合間にベスを盗もうなんて・・・ジャックは「他者」だから当人達(井戸の中の蛙)のこだわりがさっぱりわからないのですね。
こんないがみあっているのは嫌だ、とジャックは同僚の金属マニアのトーディに話すけれど、「ベスはトロフィーみたいなもので、これはスポーツなんだよ」といった事を話します
工場の中の物はすべてSTOMPとなり、工場の作業もすべてリズミカル。
ジャックが泊まっている宿には、いつかベスを売りさばこうとセールスマン達が虎視眈々(?)と見張っていますが、食事のナイフとフォークのリズムも、トントン、カチカチ、タンタンタンと不思議なリズムを刻む。
この映画の音という音はすべて、リズムとしてとらえられていて、いかにも、ご覧なさいというSTOMPの出し方をしていない所が、ウィットに富んでいます。
やっぱりアメリカ映画でも基本的にはイギリス人が作っているから、なんとも皮肉でいじわるで、ひねくれているのです。
映像も茶色をベースにした世界で、汚い田舎町の工場をちょっと不思議空間に変えているのですね。
最後にライバル掃除機会社が業を煮やして、乗り込んでくることから、2つの工場の均衡のとれていた争いのリズムが狂う。
どうなる、掃除機?と結構凝ったハラハラがあったりして。
すごくくだらないようでも、意外とその世界はきちんとしたものを持っていて、映画ならではの音、リズムというものを上手く隙間に埋め込んだようなこの映画とても気に入っています。
掃除機のベスが、「彼女」・・・・掃除機は女性だったのか、って所から気に入りましたよ。ベスってそういえばちょっとエロチック。