NANA
NANA
2005年10月13日 日比谷みゆき座にて
(2005年:日本:114分:監督 大谷健太郎)
原作は矢沢あいの人気少女漫画。ですが、私は漫画は未読なので、まず、比較はできない、と先に書いてしまいましょう。
原作を知っている人は、比較して、違いや同じ点を書けると思うのですが、私は、大谷健太郎監督の映画として書かせていただきます。
予め、ご了承ください。
大谷健太郎監督の初監督作品(前にもPFFスカラシップ作品などもありますが)『アベック・モン・マリ』を観た時の衝撃は忘れられません。
どうして、こう人間同士っていうのは上手くいかないんだろう・・・というもつれっぱなしを、全編引きの絵で、見事に映像にしていました。
それでいて、映画は対話の映画。台詞のやりとりのリアルさと残酷さ、そんなものがとても身にしみる、語る映画でした。
そしてその延長上にある、次の『とらばいゆ』・・・これも、仕事と家庭と、どうして上手くいかないんだろう・・・という女の、男の嫌な面を描いていて、そんな「人間関係のしんどさ」と、恋愛の先にあるものをいつも見つめている大人の世界を描いていました。
前作、『約三十の嘘』では、だまし会う詐欺師達のもつれっぱなし。
そして、この『NANA』でも、何が一番、興味を持ったか言うとと、先に書いてしまうと、「なんて嫌な女の子だろう、しかし、嫌な子と拒絶する事を乗り越える」ということを考えさせる所でした。
4作に共通しているのは、家、部屋、寝台特急の部屋、そしてNANAでは二人のナナが、同居する部屋、という閉ざされた世界でいつも鼻をつきあわせなければならない人間同士、という事です。
そして「部屋」という閉ざされた空間は細部に気を配ったインテリアや小物使いをしてみせる。
宮崎あおいの演じた、奈々は、顔はかわいいかもしれないけれど、とにかく自己中心で自分の事ばかりしゃべり、自分の都合ばかりを相手に押しつけてくる、やっかいな依存ベタベタの子。押しかけ女房タイプ。
中島美嘉の演じたナナは、パンク少女で、短気で無愛想、言葉遣いも悪い。
こんな2人が出合って、同じ部屋に住む事になり、凸凹コンビのようになって、お互いを高めていく、その課程が面白いと思うのですね。
出合ったばかりの、中島ナナは、べたべたべたべたしてくる宮崎奈々の事を「お前って、シッポ振って近づいてくる犬みたいだな。その分、手がかかるというか・・・まぁ、ハチって所だな。彼氏の苦労がしのばれるよ」と奈々(ハチと書きます)の本質をずばっと言い当てている。
そこで、なによなによ、と気がつかないハチの微妙な無邪気さと無神経、でもやっぱり、気持ち悪いベタベタ性格というのを、宮崎あおいが器用に演じていました。
周りの友人たちも、ハチを知っている人は「手のかかる子」「やっかいな子」とちゃんとわかっている上でつきあっている、というちょっと考えると怖いつきあい方をしているのですね。
中島ナナは、自分の事は話さない。過去にバンドのことでもめたことも、実はまだ恋愛に悩みを持っていることを話さない。
ハチが彼氏がどうだ、こうだ、のろけたいのよ~というのを、「ふん」という感じで聞き流しているだけ。
実は、ハチみたいな女の子には、素っ気なく突き放して、聞き流すことのできる、ナナみたいな彼氏がぴったりだと思うのです。
でも、実際の彼氏は、今時のただ優しいだけの、結局優柔不断なだけの章司。
厄介な女の子、ハチと、とっつきにくい女の子、ナナ。この2人が、ハチは、自分の事ばかり言っている愚かさに気づき、ナナの心配が出来るようになる、ナナは、正直に自分の気持ちを話すということをハチを通じて、身につけていく。
2人共やっかいな女の子のもつれっぱなしをまた、上手く、ぱっと糸を解いてみせる訳です。嫌な女の子克服への道・・・・
その周りにいる男性陣というのがかなり豪華なキャスティングでした。松田龍平、成宮寛貴、平岡裕太、丸山智己、松山ケンイチ、玉山鉄二・・・といった今、日本映画を盛り上げている個性派を、ふたりのナナを盛り上げる脇役として、贅沢に使っているというのがもうひとつの見所かもしれません。
単なる女の子友情物語、というよりも、人間関係基本の部分を鋭く突いている着眼点というのが、やっぱり大谷監督らしいと思う所です。