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城田実さんコラム 第32回 大統領の贈り物?(メルマガvol.66より転載)

2018.08.20 22:31

 パンチャシラ・イデオロギー育成庁の役員給与は適正か。税収確保が政府の大きな課題になり、庶民はコメの価格変動で一喜一憂している中で、給与水準が高すぎないかと批判が相次いでいる。

 長官の所得は7650万ルピア(約60万円)、副長官は6375万ルピア(約50万円)、次長(2人)は5100万ルピア(約40万円)だが、批判は、これらの執行役員を監督する立場の指導会議のメンバー給与に向かっている。メガワティ議長(元大統領)以下、8人の委員には、イスラム法学者会議(MUI)議長、イスラムの2大組織であるNUの議長とムハマディア元議長、元憲法裁判所長官、キリスト教会連合会会長、元副大統領(退役大将)らそうそうたる顔ぶれが並んでいる。各界から選ばれた当国最高のオピニオン・リーダーだ。議長報酬は1億1250万ルピア(約88万円)、委員手当ても1億ルピア(約78万円)を超えている。


 そもそも建国の5原則であるパンチャシラを国家が主導して普及させること自体についても、スハルト政権時代の思想統制を呼び起こすとして、根強い抵抗感が残っている。それだけに報酬額が適正かどうか合理的に判断する前から、感情的な反発が先行している側面もある。他方でやはり、この「ファンタスティック」な額は国民感情を刺激せざるを得ないだろう。

 指導会議のある委員は国会議員ですら1.5億ルピアももらっているんだから決して高くないと反論している。試みに国会議員給与表を見てみると、国会の委員長クラスだと本給は500万ルピアほどで、その他の手当てが20種類近くある。ある元副大臣が、「国民の目をごまかす仕組み」と批判した複雑な給与体系だが、素人目でざっと積算しただけでも8000万ルピア位になる。実態は不明だ。多くの手当ての中での傑作は、議員への「名誉手当て」だろう。真面目な名称なんだろうが額は本給以上だ。それだけでなく、住居管理費をもらっている官舎を勝手に他人に貸したり、退職後も官舎や車を使用するなどのケースはニュースにもならない。


 あるテレビ番組がこの給与問題を取り上げていた。街角で不満の声を拾おうとレポーターが中年のおばさんにマイクを向けたところ、「仕事をしたんなら、いいんじゃないの。」との返事。目論見外れのレポーターは力なくマイクをスタジオに戻していた。

 おばさんの発言はもっとも至極だ。ただ残念ながら、この機関の重要性にもかかわらず、前身の大統領行動チームを含めてその活動は単なる表彰や式典の他にほどんど報道を見かけない。まして、執行役員を監督する指導会議など、毎月報酬を得るような仕事があったのだろうかと首をかしげる人は少なくないだろう。  口さがない人々からは、世論の誘導に影響力のある指導者や論客のご機嫌を損ねないよう、大統領があいさつがわりの贈り物を毎月官費で送りたいんでしょ、などという声まで聞こえる。100以上の国営企業とさらに多くの関連会社の役員ポストなどが選挙運動の論功行賞や政治取引の材料に使われている実態があるのも事実だから、言下に否定しきれないのが辛いところだ。もっとも日本も偉そうなことは言えないが・・・。(了)