城田実さんコラム 第34回 宮殿の如き「村役場」は成果なのか? (Vo.73 2018年8月13日号メルマガより転載 )
首都ジャカルタにある大統領宮殿とそっくりの「村役場」が話題となっていると聞いた。場所は東ジャワ州都スラバヤから南東方向、インド洋に面するジェンブル県に所在するクムニンサリ・キドゥル村というところで、村の内外から見物に訪れる人が絶えないと言う。ジャカルタまで行かなくても宮殿を背景に記念写真を取れると無邪気に喜ぶ村人も少なくないようだ。
村長さんは、テレビで大統領宮殿の素晴らしさを見て思いつき、これまでに村の予算を工面したり、中央政府からの村落基金などを少しづつ建設費に当てながらの建設だったので4年もかかったが、ようやく7月に落成したと述懐している。総工費は18億ルピアだった。「宮殿」を観光名所にして村を元気にすると、村長さんの夢は広がっている。もともと村落資金は、畑の水路や村市場を整備したり、村の事業の立ち上げなどを通じて村の経済を促進する目的でジョコウィ政権が始めたものだ。「宮殿」建設はそれからはちょっとずれている印象がぬぐえないが、基金の私的流用が問題になっている昨今ではまだマシと言うべきか。
インドネシアの地方を旅行するとこつ然と立派な県庁舎や市役所が現れて眼を見張ることがよくある。バリ島でも主要観光施設が多数存在するバドゥン県庁を訪ねた時には、県の部局がいくつかの建物に分散した壮大なコンプレックスに驚かされた。バスルームや書斎風の空間まで完備している知事の部屋も見せてもらった。多忙で徹夜続きでも仕事の能率が落ちないようにしてあるのだろうと嫌味を言いたくなる豪華さだ。
1998年にスハルト大統領が退陣してから、地方分権で住民の政治参加を促し国民優先の政治を実現しようと大きく政治の舵が切られた。そのため地方には大きな権限が与えられている。その結果、地方の特性を生かして創意工夫を発揮する首長が各地に現れ、住民の人気と支持を集めるケースも出てきた。他方で、先の村長さんや壮大な県庁舎などの例のように、ぜい沢な出費と必要な経費の優先順位を判断する正常な感覚が麻痺したままの首長も少なくなさそうだ。
先の地方首長選挙では選挙に強いはずの現職候補が多数落選したと言う報道がある。スハルト大統領が退陣し、改革の時代に入って今年はちょうど20年。国民の政治意識が高まってきた証左だと期待する専門家も多い。地方自治にもまだら模様ではあるが、ようやく改革の成果が現れてきているのだろう。この流れをもう一歩推し進めて、さらに上のステージに進むか、あるいは元に戻ってしまうのか、来年の選挙は一つの岐路になるかも知れない。(了)