私たち
私たち
You and Me
2005年10月26日 ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズにて(第18回東京国際映画祭)
(2005年:中国:88分:監督 マー・リーウェン)
今年のこの映画祭で唯一観たコンペティション部門参加作品。
冬から始まり冬で終わる、春夏秋冬・・・季節感がしっかりとしたベースにあるとても情緒的で、ユーモラスな視線と真面目な視線が混じった独特の色合いを持つ大変すぐれた映画でした。
どこがすぐれているかというと、まず、冬の雪の降る街を女の子が自転車でよろよろと走っている。その風景の美しさと厳しい寒さがスクリーンから伝わってくるような風情に引き込まれます。雪の積もった道を自転車がよろけている、肩には雪が積もっている。寒さでまっ赤になった女の子の頬。静かな石畳の街並み。
女の子は下宿を探している学生。やっと見つけた家は大家が90歳のおばあさん1人という四合院。
大家さんの家の庭に物置のように一部屋だけぽつんと建っています。
この大家のおばあさんが強者です。とにかく頑固で金にうるさい。最初は下手に出ていた店子の女の子も、うまく口車に乗せられてしまって、電話代を多く払ってしまうことになったり・・・でも女の子も学生で一人暮らしをしようというしっかりもの、頑固で負けてはいない。
この2人の口げんかのあれこれが、季節と共に移り変わっていく。あくまでも口げんかって所が、人間そうそう分かり合えるものではないと思いますね。
大家のおばあさんは、頑固だけれども意地悪ではない、ちゃんと筋の通った事を相手を子供扱いしないできちんと伝えるだけです。
だから謝らなければならないときは、きちんと謝る。筋の通った女性なのです。
誤解から、女の子が飾った正月飾りを怒ってたたきおとしてしまっても、それは自分の勘違いだった、とわかるとひとりで飾り付けを直す、謝って直させるのではなく、杖をつきながら1人で飾りを直すのです。
寒々しい風景の中に、深紅の正月提灯や紙飾りが見事に色合い鮮やかに浮き出している。
女の子は「学生」というだけで何を学んでいるのか、家族や私生活はどうなのか一切描かれません。時々、弟や恋人が訪れたりするけれども女の子の私的ドラマは一切描かないのです。学校から京劇の格好をして帰ってきたり、バレエのチュチュを着ていたり・・・一体何をしている学生なのか、わからないところもユーモラス。
おばあさんも「全くなんて格好をしているんだ」と言いますが、結構楽しんでいる様子。
おばあさんは、なんだかんだいって女の子を呼び出しては、語りかけ、観察し、時には心配するようになる。
女の子が、べたべた甘えてこない、どこか孤独の影を背負っているのを、察する事の出来る観察眼を持っているというのが、さりげないやりとりの中でわかってきます。
寒い冬が過ぎて、春になり、夏になり・・・秋になって2人に別れの時がやってくる。
おばあさんと女の子は他人で、頑固者同士だけれども、距離をとりながら、共存していくことの出来る関係。そういう関係って、今の世の中にとても必要なものかもしれません。
相手と距離をとりながら接する事の大切さ。決してお互いに踏み込まないという節度の持ち方。寂しい者同士が傷をなめあうのではなく、お互い自立した者同士が、喧嘩を繰り返しながらも、離れずお互いを尊重できるようになる春夏秋冬。
この節度のきちんとした所、というのがこの映画の一番いい所です。
コンペティションではおばあさん役のジン・ヤーチンさんが最優秀主演女優賞を受賞しました。
〔映画祭こぼれ話〕
監督のマー・リーウェンさんと主演の女の子、コン・チェさんがティーチインをしました。
監督はまだ若く、女優さんのような美しい女性でした。「あまり大きなメッセージはない。自分の描きたいものを描いただけ」という余裕。
主演の女の子は、俳優ではなく、中国の大学で写真を学んでいるそうです。
これから、女優の仕事をしていくか?という質問には、「そのつもりはない」とはっきり答えていました。
ちょっと幼く見えて(映画の中でもそうですが)高校生くらいにしか見えないのですが、大学生。いかにも女優です、という雰囲気はない人です。かなり頑固な役だけれども、自分にもその部分がある、と言っていました。
美しいお姉さんと、かわいい妹みたいな2人でした。
しかし、ティーチインの進行の襟川クロさん。コンペティションだから、なのでしょうが、進行役が自分の意見をべらべら喋るのはどうかと思いました。また、いつものごとく「ハリウッドでは」って言うのは失礼。進行役の人選を考えて欲しいところ。
褒めているんだけど、その言い方にコン・チェさんが、頬をふくらませて、唇をとんがらせて見せていたのが印象的。