狼少女
狼少女
2005年10月27日 ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズにて(第18回東京国際映画祭)
(2005年:日本:108分:監督 深川栄洋)
この映画はタイトルに惹かれて観た映画です。
狼少年は、「狼がきた~」と嘘をつく。 狼に育てられた少女は、人間の感情がもともとない。
この映画は「嘘をつく」という映画です。
私は子どもの頃、よく嘘をつきました。
悪意というより、仕方なくつく嘘が多くて、子供の世界っていうのも厳しいものであります。
だから嘘ストレスがたまると私はよく吐きました。 言葉を吐けないから、食べた物を吐いてしまうんです。
それも子供ならではの弱さかもしれないと。
この映画は1970年代初頭の小学校が舞台です。
小学4年生の主人公の男の子は、いじめる側でもなく、いじめられる側でもない、中庸の立場にいられる子です、最初は・・・。
しかし、クラスに家が貧しくて、汚い格好の「えんがちょ」切られる、とにかくいじめの対象になる女の子がいる。
いじめを知っていても、援護できない、かばう気もない男の子。
しかし、転校生の金持ちで、りりしい、勉強も、スポーツもできる、正義感の強い美少女は、猛然といじめっ子達に反発し、少年はずるずるとひきずられてしまい、少年は「嘘をつかなければならない立場」になってしまう。 そして「誰にも言えない秘密を持って」しまう。
見せ物小屋に「狼少女」が見せ物になっているという事を知った小学生たちは、「えんがちょ少女」が狼少女だとはやしたてる。
いじめられるから無口で、汚い格好をしているから、外見だけで見ると「狼に育てられた人間」で自分たちと同じ人間ではない、と子供は直感で悟り、疎外する。しかし、そんな狼のような少女も、女の子らしさが出てきて、それを隠す術もない。
しかし少年は、ひきずられていくうちにこの狼少女と接する機会が増えてきて、どうも自分の中で何かが納得いかなくなる、そんな多感な気持ちをぼ~っとしたぼっちゃん顔でよく、惑いや嘘をつかなけれならない辛さを表現していました。
出てくる子供達が、とてもリアルな雰囲気、空気を持っています。あまり親たちは出てこない子供社会の厳しい、でも誰でも経験のある、そんな気持ちをクリアな映像で綴っていく。
いじめが描かれても、陰惨ではない、というのは、子供らしいお気楽さというものも、きちんと描かれているからです。
宇宙人や秘密基地に夢中になり、冒険物語に夢うつつ・・・という幸せな時期でもあるということですね。
これは子供を経た大人でないとわからない世界です。
この映画の本当の良さがわかるのは、大人だけで、立派な大人の映画でありました。
〔映画祭こぼれ話〕
深川監督がティーチインをしたのですが、1976年生まれという若い監督さんでびっくりしました。
脚本がシナリオ大賞をとったものなので、脚本の人がしっかりと時代というものを描き込んでいるのでしょうが、少年、少女たちの厳しくも優しく、やるせない世界というのを出せるのは意外と20代くらいまで、かもしれないと思いました。
時代性はあっても、ノスタルジィはないからです。
『リンダ リンダ リンダ』が、若い監督で、高校生たちを適温で描けたのと同じかもしれません。