シチズン・ドッグ
シチズン・ドッグ
Citizen Dog
2005年10月27日 ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズにて(第18回東京国際映画祭)
(2004年:タイ:99分:監督 ウィシット・サーサナティアン)
これは『怪盗ブラックタイガー』の監督の第二作目なんでありますが・・・・
ひゃ~~~可愛い、可愛いすぎて気味悪い!
主人公のポッドという青年は、田舎からバンコクに働きに出る。おばあさん曰く、「バンコクで生活したら尻尾が生えるよ」
ポッドは魚加工工場で働くも、ベルトコンベア急速になり、指を切り落としてしまって、指はあああ~カンヅメの中に入って出荷されてしまった。
指を探すポッド。見つかったものの、「はめてみたら」なんか違う・・・そこで友人が出来る。
警備員になったポッド。掃除係のジンという女の子が好き。
ジンは読めない白い表紙の本をいつも読んでいる。
いつもバイクに乗せてくれる友人の顔色が悪い。
「あ~昨日さ、雨と一緒にヘルメットたくさん降ってきて、死んじゃったのね。でも、暇だから」
ジンの為にタクシーの運転手になるポッド。
見た目4歳、でも22歳という女の子を乗せる。
いつも側にいるぬいぐるみのクマが女の子買い物中に、じたばた動き出して、「タバコくれない?」
クマのぬいぐるみは、女の子と20年のつきあいだが、飽きられては捨てられ、また拾われての繰り返し。
もう、やってらんね~としくしく泣いて「タバコない?」
ジンは地球環境運動に目覚め、プラスティック廃止を訴える。ジンが集めたペットボトルの山はどんどん大きくなりバンコクの市内のどのビルよりも大きくなる。
この強烈な色のぶつけ合いとそれが下品になっていないセンスの良さ。
発想、アイディアの豊かさとその映像世界の個性的なこと。普通の生活の中に不条理があっても、それはなんということもなく受け入れられて、それがまた不思議にマッチして流れていって。
ポッドという主人公の青年は常に傍観者の立場です。周りの人物がミュージカルになっても怪訝な顔をしているだけ。
周りで何がおこっても、ポッドは怪訝な顔をするだけで、驚いたりはしない。そんな不条理。
この監督の感性とユーモア感覚というのは、もう誰にも真似できないものを持っています。日本でいうと鈴木清順監督みたいなんです。
イメージのふくらませかたの上手さと、その器用さ。おどけているようでも、ちょっとシニカルな視線を持っていて、それを表現してみせる。
タイトルのシチズン・ドッグ、というのも都会バンコクの市民になったら、尻尾が生えるという、ちょっと寓話的で、暗喩的な使い方。
観ていて純粋に楽しくて、でも大笑いではなく、「ぐふ」「ぐふ」ってぐふぐふ笑いが、ず~っと続く。
緑と紫、ピンクをぶつけてみたり、青い制服のジンがいいなぁ~って思うと街中の人が、犬まで青い制服を着ている。空から降ってくるたくさんのまっ赤なヘルメット。
タイ映画らしい、暑さや熱気が一切ない世界というのがめずらしいし、音楽もとてもポップで可愛らしい。 素晴らしいセンスにあふれた映画で、私は感心してしまい見終わった後、言葉が出ませんでした。この映像世界は凄いです。
〔映画祭こぼれ話〕
上映後にはポッド役のマハーサムット・プンヤラックさんが出てきましたが、本当はミュージシャン。 映画、役者は初めてとのこと。
映画の中でも一曲歌っています。
この映画には原作があるっていうのが驚きです。しかも原作は監督の奥さんが書いたものだそうです。
映画よりずっとスリムになっていて、とても知的な好青年。でも映画に詳しそうな人につっこみ質問されても「・・・I don't know・・・」ってうつむき加減に恥ずかしそうに答えているのが、なんか早く終わらせてあげてって感じでした。